フクロウフードの先輩
「やっほ! 誰かいる~?」
と、そのタイミングで部室のドアがバンと開かれる。
全力で「空気読めよ」と突っ込みたかった。
「て、あれ? フクロウフードの先輩?」
「フクロウ先輩?」
「……花夏先輩?」
元気良くドアを開けてくれたのは、フクロウフードの先輩だった。
「……私ってそんな風に呼ばれてるんだ。なんかショック。一人だけ正解してたけど」
原因は全く分からないが、なにやら落ち込んでいる。
テルと芽依は視線を交わす。
再び以心伝心。
「「あの、フクロウ(フードの)先輩。どうしたんですか?」」
「その呼び方やめて!」
「「なにか問題が?」」
「なんでそんなにはもってるの? そして悪気なさそうなのがもっとショック……」
床に手をつき、ずーんと落ち込むフクロウフードの先輩。
二人で腕を組み、疑問符を浮かべていると、
「この方は高嶋花夏先輩です。印章格闘技術部の副部長なんですけど……」
横から詩月の補足がはいる。
「「ああ!」」
「だからどうしてそんなにはもってるの!?」
「「いや、なんとなく」」
「もういい……」
芽依とテルは遊ぶのをやめて、花夏に向き直る。
部活が終わって、先輩は皆帰ったはずなのに何故、まだ残っているのか問う。
「なんの用ですか?」
どうしても棘のある言い方になってしまう。
花夏はあの三人の中で唯一、一年生を庇ってくれたけど、最後には黒江に同意していた。しかも、こちらにとって不利な試合をふっかけてきたのだ。一年生にとって歓迎できる人物ではない。
「あー、やっぱり嫌われてるか……」
すっとぼけた調子で言う花夏に、芽依はカチンとくる。
より攻撃的な口調になる。
「当たり前だと思いませんか? 高校に入って、部活を頑張ろうと思っていた。なのにやらされることは部室の掃除やら備品の整理だけ。挙句の果ては『邪魔だから帰れ』と言われて、抗議してもろくに話を聞いてもらえない。さらには勝てそうもない勝負を押し付けられて……。この状況で先輩を快く迎えられるわけがないじゃないですか」
横でテルも頷いている。
詩月はどうしていいのか分からないらしくおろおろしているが、それでも反論することはなかった。
「うん、それはちゃんと理解してる。一年生たちが怒るのも無理ないと私も思ってる」
「じゃあ、一体なんの用ですか?」
睨み付けて聞くと、花夏はこう返してきた。
「それなんだけど、他の先輩たちには内緒にしておいて欲しいことで……。ここにいる四人だけの秘密ってことにしてもらえるなら用件を言おうと思う」
「他の先輩たちには秘密?」
「そう。見つかると私の立場的に、ちょっと問題になりそうなことでね」
立場的に問題になる、とはどういう意味だろうか。
テルと詩月に視線を送る。
二人も困った表情を浮かべている。
「もう少し詳しく説明してもらえませんか?」
「んー、そうしたのはやまやまなんだけど、この話をすること自体、問題がありそうなことだから……。判断は任せるよ。無理そうなら私はこのまま帰るし」
そう言われても困る。
とりあえずテルに振ってみる。
「テル、どうする?」
「え、あたしに振る?」
「じゃあ、中里さんどうする?」
「え? あ、あの……わたし、は……その……」
案の定、はっきりとした答えは返ってこない。
「ほら、やっぱりテルが決めるべきだ」
冗談半分だったのだが、むむむとテルは真剣に考えてくれる。
妙な話ではある。花夏の立場、というとこの場合、印章格闘技術部の副部長としてという意味だろう。その立場で口にすることすら問題がありそうなこととは……。
「あたしはいいと思うよ」
テルが先に解答を導き出した。
「どうして?」
「花夏先輩、悪い人じゃなさそうだもん」
「あのな、花夏先輩だってこの間、俺たちを帰らそうとしてたのは変わりないだろ? どこからそんな考えが思い浮かぶ?」
ついさっきだって、芽依に同意していたはずだ。
「だって、他の先輩たちにばれちゃマズイってことは、もしかしたらこうしてあたしたちと話してることだって危ないんじゃない? 実際、黒江先輩とかあの金髪の先輩に見つかったら引きずられていきそうだし」
「……そりゃそうかもな」
あの二人の先輩を思い出すとテルの意見は最もなものだ。
黒江と金髪ショートヘアーの先輩ならこうして話しかけてくることすらないだろう。
芽依は完全に納得できはしなかったものの、話を聞くくらいなら良いかと判断する。
「分かりました。じゃあ、ここに居る四人の秘密ということで」
芽依の了承の言葉を受け、花夏は頷くと笑顔でこう言った。
「四星術、やってみない?」