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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
エピローグ
33/33

もう二人きりじゃない

「今回の試合、ドローと言わせてもらっていいかな?」



「なに?」

「え?」

「……?」

「へ?」

 一年生チームが全員そろって反応した。

 他の一年生たちも壮太に注目する。

「この状況だといい訳にしか聞こえないだろうけど、僕だってベストメンバーの一人だ。納得できないことは言わせてもらうよ。いいかい? そもそも不公平だったと思わないかな?」

「どういうことですか?」

 芽依は首を傾げる。

 今回の試合が不公平、とはなんだろうか。三回までというルールはこちらに合わせてもらったが、それは先輩方も納得していたはずだ。審判も問題なかったはずだ。

「僕の印章は知らなかったようだけど、他の三人の印章は知っていただろう?」

 壮太の言葉にはっとする。

 その通りだ。

「これはとても大きな違いだよ。相手の印章をまるで知らずに試合を行う場合、試合中に対策を考えなければならない。それに対して、相手の印章を知っている場合、試合の前からあらかじめ何パターンも対策を作ってくることが可能となる。どちらのチームも相手の印章を調べる術がある場合は別に構わない。けれど、今回はそうじゃなかった。一方的にこちらの印章だけが知られる形になっていた。四星術において、作戦を事前に立てられるかどうか。これがどれだけ戦局を左右するか君たちなら分かるだろう?」

 試合前、全身真っ黒の服装をして現れた一年生チームを先輩たちは『おかしな服装だ』と言っていた。それに、一回はリタが先頭に立っていたのに対し、二回、三回は黒江がその位置に移動した。もっと言えば、一回の四点。あの点は先輩チームの虚をついた面が大きかった。こちらの印章が最初から知られていたら通じなかったかもしれない。

「それから、まだある。君たちは、今回の試合で花夏を脅威として見ていなかっただろう?」

「それは、まあ……」

「君たちがどういう風にしてチームを作ったのかは知らないけど、花夏の印章をここまで的確に潰せるチームというのはほとんどないと思う。もちろん、相性が良かっただけという可能性もあるけど、花夏はチームが完成する前から君たちと交流があったそうじゃないか。真偽がどうあれ、君たちは花夏の印章を知った上でチームを作ることが可能だった。これも不公平だと思わないかい?」

「……」

 そう言われてしまうと反論できない。

 花夏の印章を潰すチームを作ったわけではない。結果的に集まったメンバーがこうだったというだけだ。しかし、壮太の意見は最もなものだ。花夏自ら一年生に接触してきたとはいえ、相手の印章を知ってからチームを作ることが可能だったのだ。これ以上の不公平はないだろう。あらかじめ、相手が嫌がる印章を持った人間をチームに加えることができたのだ。これを不公平と言わずなんというのか。

「よせ壮太」

「黒江?」

「負けは負けだ。公式試合では無名のチームが優勝候補を敗ることだってある。自分達の印章が知られていようが、花の印章が使えなかろうが、勝てなかったことは事実だ」

「それはそうなんだけどね」

 壮太それっきり、何も言わなくなる。

「……」

 一年生の間に微妙な空気が流れる。

 自分達の力でつかんだと思っていた勝利が、実はそうでもなかったかもしれないという事実にどう反応していいのか分からなかった。

「まったく。そんなんだから女子にもてないんだぞ? 壮太」

 立ち上がったのは、黒江。

「壮太の言ったことなど気にするな。お前らは私たちに勝ったんだ。祝勝会でもなんでもしろ。変に気にされると逆に気持ち悪い。特に、そこのバカ」

 黒江がビシっと指差したのは、

「バカ? どういう意味だ吊り目」

 相田だ。

「ふん。そのままの意味だ。こっちを敵視するだけしといてなにをしんみりしてる? ここは壮太に『負け惜しみだろうが』と突っかかる場面だろう?」

「はあ? 吊り目、お前自分のチームが負けたことをなんとも思ってないのかよ。爽やか先輩はお前らを庇ったんだぞ?」

「あいにく、私たちはその阿呆に庇ってくれなどと頼んでない。負けは負けだ。そのくらいの分別はつくさ。お前はそれすらできないのか? せっかく勝ったというのに、敵の心配をしてどうする。勝ったのならもっと喜べ」

「ほーう? じゃあ、思いっきり喜んでいいんだな?」

 相田が挑戦的な笑みを浮かべる。

 なにか企んでるな……。

「ああ。構わないぞ」

「そうかい……。よっしゃあ! 吊り目のチームなんてどうってことなかったな。いやーまさかここまで弱小チームだとは思ってなかった。本当はもっと策を練ってきてたんだが、全部無駄になっちまったな! つまんない試合だったぜ! これのどこが全国大会出場チームなんだ? 俺らでも――」

「十回死ね!」

 相田の頭に拳骨が落とされた。

「痛えじゃねえか! そっちが喜んでいいって言うから喜んだだけだろ!」

「百回死ね!」

 と、床がなにやら歪み始める。

「やんのかこら!」

 相田は相田で周りにあった食器やら芽依やらを浮かせ――

「て、人を武器に使うな!」

「なみ! 落ち着いて!」


「「知らん!」」


 妙なところで息がピッタリの二人だった。

「いや、洒落にならないって! うわわわわわ」

「なみ。リアルに警察に捕まるから!」

 芽依と花夏がなんとかして止めようとしていると、

「あ、相田くん……その……暴力、は、よくないと思いますっ!」

 詩月が相田に注意。

「おう。すまなかったな。許せ、吊り目」

「「切り替え早っ!」」

 相田はどっしりと腰を下ろす。

「そんなに女の上に座りたいか? デカブツ」

 リタの膝の上に。

「うおおおう! 金髪、なんでそこに?」

「お前が移動したんだろうがボケ!」

 強烈なアッパーが繰り出された。

「……」

 芽依は苦笑いでその光景を見つめる。

「芽依」

「ん?」

 テルが、隣で満面の笑みを浮かべていた。



「あたしたち、本当にもう、二人きりじゃないんだね」

「ああ。そうだな」





                                    END.


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