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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第七章
31/33

最終回

「――てな感じだ。オーケーか?」

〈もう、立派な指令者だな。褒めてやる〉

〈だね~。芽依、かっこいいよ!〉

〈では、そのように動きます〉

 三人からの賛辞を芽依は「いやいや」と否定する。

 実際、ここまで大きく点差が広げられたのは皆のおかげなのだ。芽依が先ほど咄嗟に思いついた案では三点までしか取れるはずがなかった。ところが、テルが風を起こし、相田が空中で攻撃を入れるという、芽依の考えにはなかった連携プレーが発生した。その結果、五点という差がついたのだ。

「よし、ここで踏ん張れば勝利だ! 行くぞ!」

〈〈〈おー!!〉〉〉



 そうして、ついに最終回が始まった。



    ◆



 三回裏は、これまでの試合内容からすると呆気ないものだった。

 最初の黒江によるフィールド半減攻撃から逃れるために、一年生チームは開始直後に相田以外の全員がフィールド後方に下がった。ラインギリギリまで下がったため、強引に床歪みを使用すると怪我をしいてしまう恐れがある。

「おっし。これで全員完了だな」

 壁生成によるフィールド半減攻撃が使用できなくなった先輩チームはリタを中心としたがむしゃらな攻撃に切り替える。だが、テルの天候結界、詩月の変色結界で視界を封じ、さらに一回、二回に繰り返された謎の攻撃対策としてとにかく動き回った。この対策はどうやら正解だったらしく、先輩チームは一年生チームを追いかけまわすことになった。

〈余裕でいけるんじゃねえか?〉

 そして、つい先ほど、焦れた先輩チームは限界ギリギリまでフィールドを縮めようとしたのかこちらの陣地に巨大キノコを作り出した。これには皆驚いたが、対策はすぐに思いついた。

 相田の念動力でキノコの上に全員を運べばそれで済むのだ。運んでいる途中で、相田が二回タッチされたが、それだけで終わった。

「さあね。あと一分ちょい残ってる。さっきはこっちがこの時間から五点取ったんだ。安心はできないな」

〈そうですね。あと三点取られたらアウトですからね……〉

〈今、先輩たちはどんな様子?〉

 巨大キノコの上からテルが大きく手を振るのが見えた。振り返してから、先輩たちに目をやる。

 リタの印章はどうやら伸ばせる距離は限界があるようで、巨大キノコの上までは登ってこようとしない。黒江と花夏は腕を組み、思案顔。

「今のところ動こうとしてる様子はないな」

 とはいえ、油断は禁物だ。

「とりあえず、テル、状況が変わったら吹雪を」

〈うん、分かった〉

 こちら同様、あの先輩たちがあきらめるつもりなどないだろう。

 まだ、なにか仕掛けてくると考えた方が良い。

 と、

「動いた」

 花夏とリタが陣地後方へ、黒江が前方へ分かれる。

 なにをするのかと思っていると、

〈うお!〉

 相田の声で視線を巨大キノコの方へ戻す。

「崩すつもりか!」

 巨大キノコがどんどん小さくなっていく。

〈違います。これはただ崩れているというより――〉

〈――壁だな〉

 三人はギリギリまでキノコの傘の上に乗っている。キノコの崩壊は思ったよりも遅く、僅かだが猶予がある。それは確かに、元に戻っているというより、薄く、高い壁のような形に変わっていっている。

〈どうする?〉

 壁だというなら、おそらくこちらを二分割するのが相手の策だろう。

 ならば、

「相田は後ろへ飛んで、他二人は前の方へ。それと、テル、吹雪はなしだ」

 手早く指示を出す。

 相田は二人までなら念動力で抑えられる。これで、なんとかなるは――

「え?」

〈なに!?〉

〈マズイですよ!〉

〈どうするの!?〉

 突如、壁になると思っていたものが一瞬にして地面に戻る。

 そして、床に何本になるかも分からないリタの刃物が敷かれる。それぞれが落下しそうな場所を狙ってじゅうたんのように敷かれている。しかも、その近くにはそれぞれ、先輩方が駆け寄り、キャッチしてみせるという構えをとっている。

 さっき、こちらがやったことを逆にやられている感じだ。もしもこれで全員攻撃されれば同点になる。しかも、まだ時間は三十秒残っている。ここで攻撃をくらうわけにはいかない。

「相田! お前と中里は念動力で浮かせて落ちるな。持ちこたえろ!」

〈おい、それじゃあポニンはどうするんだ?〉

「気合いでどうにかさせる!」

〈はあ!?〉

〈芽依! それはちょっと無理!〉

「風で落下地点をずらせ! それ以外に方法はない!」

 相田の舌打ちが聞こえ、同時に相田自身と詩月の落下が止まる。

〈また無理難題を……。逆巻け、(ヴィント)!〉

 テルは風でどうにかして誰もいない落下地点を目指す。

 だが、そんな小さな移動で先輩たちが諦めてくれるはずがない。

 結局、

「あと二点だね」

 花夏の腕の中に納まってしまう。

 テルはすぐに花夏の腕から飛び降り、駆け出す。周りには花夏の他に黒江、リタもいる。残り三十秒弱とはいえ、ここから逃げ切るのは至難の業だ。

 当然、先輩たちも追って来る。

 指令塔から、その様子を見た芽依は、なんとなく、こんな言葉が零れていた。



「テル、今度は負けるな。俺もサポートする」



〈こんな時になんの話? 指示なら、もっとはっきり――〉



「俺たちはもう、二人だけじゃない」



〈あ…………そうだね。逃げ切って、みせるよ!〉



 テルの返事と同時に、リタが動く。

「おらぁ!」

 ナイフを容赦なく、テルへと伸ばしてくる。

「テル左!」

「こんのっ!」

「しゃがんで!」

「くそ!」

「右へ!」

 次々と分裂する刃をテルは後ろを向いたまま、全て避けきってみせる。

「ふん。指令者か。たかだか二週間でこれほどとは恐れ入ったが、ここはもらうぞ!」

 黒江の床歪み。

 テルの目の前に壁が生成される。逃げ道を塞がれた。

「残り十五秒! これで――」

〈輝け、太陽(ゾンネ)!〉

「うっ……」

 目くらまし。花夏の腕をすり抜けて今駆けてきた道へ引き返す。

「やらせるかっ!」

 立ちはだかるはやはり、リタ。

 テルの目の前に刃が突き出された。

 これで、もう一点もやれない。

「何度も同じことはさせんぞ!」

 行き先を拒むように、またも壁が生成される。鬼ごっこでは完全に不利だ。

 テルは時間があるうちにとにかく行ける方向へ走る。

「ふん」

 が、本当に意地が悪い。

 黒江はテルが行こうとした方向全てに壁を生成しては消し、生成しては消す。

 そうこうしてるうちに五秒が過ぎる。

 残り十秒を切っているが、

「もらった!」

 リタの追撃が入る。

もう数えるのもめんどくさくなるくらいの本数を飛ばしてくる。

「左へ!」

〈ッ!〉

 芽依の指示にテルは左へ飛ぶが、

「は~い、残念」

 そこにはいつのまにか花夏の姿があった。

 花夏の右手が、テルに迫る。

 万事休す。

 こんな土壇場で、同点に追いつかれるのか……。



「なーんて、思うとでも思ったか! 相田!」



〈おうよ! 飛んでけポニン!〉



〈うわわわわわーーーーー!?〉



 芽依の視力でも追えなくなるほど、遥か彼方、上空へ吹っ飛んでいく。

 いくらなんでもやりすぎだろう……。

「相田くんか詩月ちゃんを!」

 花夏の慌てた表情が見えるが、



『そこまで! 試合終了!』



 間に合うはずもない。



『この試合、二十六対二十五で、一年生チームの勝利です!』









 長かった試合が、終わりを告げた……。


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