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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第六章
28/33

二回裏

〈スフレ。なんか良い案は思いついたか?〉

「申し訳ないが、壮太先輩の印章が分からない以上、対策の立てようがない」

 一年生チームは善戦していると言えた。

 今のところ、互角の勝負、と言っても過言ではない。二回裏でどうなるか分からないが、それでも全国大会へ出場経験があるというチームとここまでやりあえている。試合前、先輩にあった余裕の表情はもう消え失せている。本気で潰しにかかってくるとみていいだろう。

 問題は、リタが飛ばしてきたナイフ。より正確には、壮太の印章だ。芽依でさえ視界が悪かった状況で、なんのためらいもなく飛ばされたナイフ。どうしたらあんなことができるのか。答えが見つからない。

 空中に逃げたら攻撃が止んだことから、とりあえずはそれでいくしかないと思う。先ほどのようなミスがないよう、フィールドの中心で二人を飛ばし、相田はできる限り逃げる。それこそ天候結界で吹雪にでもして、逃げ回ればそう何点も取られることはないだろう。

「そんな感じでいいか?」

〈まあ、そうするしかないだろうな〉

〈わたしは?〉

「中里はいつも通り黒の結界を頼む。もしも吹雪でも通じなかったから最悪、また雨に戻す可能性がある。その時のためだ」

〈分かりました〉

「じゃあ、それで行くぞ」

〈〈〈了解!〉〉〉

 そうして、二回裏が始まる。





「どうなんてんだよ!」

 だが、一年生チームの希望は打ち砕かれる。

 二回裏開始直後、黒江が一年生の陣地の後ろに巨大な壁を作り出した。その結果、陣地の縦半分が消失。床歪みの弊害として陣地が狭まることがあるとは聞いていたが、それは十分攻撃にもなり得る。

しかし、一年生チームを混乱の渦に落とし込んだのは別のことだ。相田の念動力で二人を浮かせてテルの吹雪で視界を封じたのだが、今度は上空の二人へ向けてナイフが繰り出された。相田は狭められたフィールドから二人が出ないよう注意しつつ、自分も攻撃を避けるという高度なことやっているが限界がある。既に二回攻撃をくらっていた。

 開始一分で既に四点を失っていた。これで同点。

「逃げなくていいのかい?」

 と、またも宙へ浮かぶ二人にナイフが繰り出される。

 相田はそれを見て位置をずらそうとするが、

「こらこら。人のこと構ってる暇なんてないでしょ?」

「その通りだ」

〈くそっ!〉

 黒江と花夏に挟まれてタッチされる。上空の二人も攻撃を受けた。

 これで七点目。

「……」

 芽依は指示を出しかねていた。

 上空にいても地上にいても狙われる。視界がどうでも関係ない。正確に、精密にナイフを突き出してくる。不自然な点には気付いている。宙へ浮かべてから、そして一回裏で攻撃された時も、妙な間があった。おそらく、その時に距離を測っているのだろう。ならば常に動き続ければいい。そうすれば対策にはなる。

「……」

 だが、問題はそれができないことだ。

 今、地上へ下ろしたら間違いなくリタもこちらの陣地へ突っ込んでくるだろう。そうなったら逃げ切れるわけがない。状況はまるで変わらない。このまま五秒ごとに点をとられることよりはいいかもしれないが、打開策にはなっていない。

〈スフレ! どうにかならないのか!〉

 相田の怒鳴り声が聞こえる。

 どうにかできるなら今すぐにでもしたい。なにか手があるのなら、もうやっている。

「もういっちょ!」

 考えている間に空中の二人にまたナイフが突き出される。

 九点目。

「相田、二人を地上に」

〈おう。それでどうする気だ?〉

「防御プランEを」

〈E? それでどうにかなるのか?〉

「無理だろうな。でも、今はそれしかない。持ちこたえてくれ」

 相田の舌打ちが聞こえるが、返答はしない。

 打つ手が、ない。一年生チームの作戦の要は相手のかく乱にある。詩月とテルによる二重結界で相手を揺さぶり、相田の念動力で確実に点をとっていく。それが、皆で考えた基本のスタイルだ。

 しかし、その根幹が揺るがされているのだ。二重結界が意味を成さず、相田の念動力でも防ぎきれない。幸いなことに攻撃の方はある程度上手く言っているが、それでも点を取られすぎている。

〈輝け、太陽(ゾンネ)!〉

 テルの声が聞こえる。

 プランEはテルの天候結界を自分たちにしか分からないサイクルで立て続けに変えることで相手の虚をつくものだ。

「くそっ! うざいな」

「時間稼ぎのつもりか?」

「眩しいし寒いし冷たいし、なにこれ……」

 先輩たちは急激な変化に戸惑っているが、

〈やべっ!〉

 それでも、守りきれるはずがない。相手は狭いフィールドの中に突っ込んできている。目くらましや視界制限だけで防ぎきれるものではないのだ。これで一回に二桁の得点を与えてしまったことになる。差はついに六点に広がった。



 英芽依は考える。


 どうしたら、ここから逆転できるのか。


 どうしたら、先輩チームの攻撃を防げるのか……。


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