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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第六章
27/33

二回表

 四星術では、一回が終了するごとに三分間だけチームごとに集まって話し合う時間が設けられる。

 芽依は指令塔を降りて、皆の下へ向かった。

「さっきのアレ、どういうこと?」

 開口一番、テルがそう言った。

「なんとも言えんな。俺らですら、よく前が見えないのにどうしてナイフなんて危険なものを躊躇なく飛ばせるのか、不思議でしょうがない」

「そうですね……。もし、考えられるとすれば――」

「あっちの指令者、だろうな」

 詩月の言葉を引き継いで芽依が答えた。

「黒江部長の印章でなにかしているなら、誰かが気付くだろ? 花夏先輩じゃこっちの位置をつかむなんてできないし、リタ先輩にしてもそう。となると、壮太先輩しかいない」

「あっちの印章も視力向上という可能性は?」

「ないな。一度目はともかく、吹雪の中で攻撃してきたのは視力向上だけじゃ不可能だ。もっと別の印章だ。それに、宙へ浮かんだらそっちへの攻撃はなくなった。単に視力向上なら浮かんでいようがそうでなかろうが関係ない」

「ですね。もっと言えば、攻撃前の不自然な時間。三十秒くらいでしょうか? 中途半端に時間が空きましたよね。あの間になにかしていたのでしょうか?」

 そこで、会話が中断してしまう。

 ここまでは分かるのだ。ノーマークだったあの壮太という先輩がなにかをしている。それは間違いない。だが、そのなにか、が分からない。

「とにかく、この点差をひっくり返すことから始めないとマズイ。策だけならかなり考えてきたが、どうするつもりだ?」

 全員の視線が芽依に集中する。

「……プランBでいこう」

「Bか……。違いはあるが、さっきとほとんど変わらないだろ? 理由は?」

「一回で四点とれたのは事実だ。ひっくり返せるまでいけるかどうか分からない。でも、危ない橋を渡るのは三回でいい。ここはまず引き離されないことが第一だ」

「危ない橋を渡る必要があるかどうかは二回が終わってから考えろ。……じゃあ、あの亀作戦はどうする? Bじゃ、またあの体勢に入られる可能性があるぞ?」

 そこは、芽依だって考えている。

 さっきはいきなりのことでどうしようもなかったけど、冷静になってみれば打開策の一つや二つ思いつく。

「あれの対応策は――」

 芽依の言葉を三人とも、黙って聞いてくれる。

 話し終えると、

「できるかどうか分からんぞ?」

 相田は難しい表情で解答する。

「たぶん、大丈夫だろ」

「ちっ。軽く言うなよ」

 相田の舌打ちが響く。

 まだ付き合い始めて間もないが、相田の舌打ちは了承の証なんじゃないだろうか。なんだかんだ言って要求したことを全てやってくれてる気がする。

「あたしたちはそれだけでいいの?」

「ああ」


『では、両チームとも位置についてください』


 審判からアナウンスが入る。

「よし、ひっくり返してやろうぜ!」

「おう!」

「うん!」

「頑張りましょう!」



 両チームが開始位置につくと、二回の表がすぐに始まった。



    ◆



 先輩チームは開始位置を変更してきた。

 一回ではリタが相田の正面にいたのに対し、今回はそこに黒江が陣取っている。リタは芽依から見て、右。詩月の正面にいる。花夏はテルの正面だ。

「これでも、防ぎきれないか」

 開始直後、一回と同じく間が正面の黒江に消しゴムを飛ばした。

 先輩チームは壁を作ってそれを防ごうとしたようだが、かろうじてスピード勝ち。消しゴムが黒江に当たった。

〈〝終焉を迎える時、貴方は何を思いますか?〟〉

 プランBでも、詩月には変わらず結界を作ってもらう。

 先輩チームは一回と同じく、黒江の壁とリタのナイフで進路を塞いできた。

〈いくぞポニン〉

〈いつでもどうぞ!〉

 プランBでは詩月の結界が作られるのを待たない。相田とテルが身体を浮かせて敵陣地へ突入する。

「私の印章対策はどうしたのかな?」

 そこに立ちはだかるのは当然、花夏。

 二人が地上へ落ちる前に、どちらの影も踏んでしまう。二人は空中で強制停止。

 花夏は不敵な笑みを浮かべるが、

「相田」

〈フクロウ先輩、案外バカなんじゃねえか?〉

 予測通りどころか、その対応はこっちがして欲しかったものだ。

「え?」

「なに?」

 テルと自分を浮かせる必要がなくなった相田は念動力の対象を変える。花夏と、近くにいた黒江を宙へ誘う。

〈二人まとめて一網打尽、と〉

 花夏が地面から離れたことでテルと相田は落下。その進路に三年生二人を浮かせることで容易にタッチするこができる。空中では避けることなどできない。

〈この回、三点目だね〉

 点差はこれで一点に縮まった。

 プランBは見事に成功。

 そしてこのタイミングで、

〈〝ごめんね。わたしは貴方を喰らう。死ぬのは、嫌だから……〟〉

 変色結界が完成する。視界が黒一色に染まった。

〈このままいかせてもらうぜ〉

 花夏、黒江両名はまだ浮いたままだ。

 テルと相田が自ら近付いていく。

〈これで、五てええ!?〉

「うわっ! ホント危ないことするなあの人」

 テルだけでなく、見ていた芽依も思わず叫んでしまう。

 一年生二人と、三年生二人の間に、数本の刃が滑り込んできた。

 全身真っ黒のこっちの姿は見えづらいはずなのに、思いっきりがいいというかなんというか……。

 それとも、これも壮太がなにかしたのだろうか?

〈ちっ。やっぱり亀だ〉

 刃はそのまま花夏と黒江の体に巻き付き、リタがいる方向へ強引に引っ張っていく。相田が念動力で抵抗しているようだが、向こうの力が強い。

「相田、その前に中里を」

〈おっと。すまん。そうだな〉

 以前として壁はできたままだ。相田が詩月を浮かせてあちら側へ。

 そうこうしているうちに、先輩チームは刃でぐるぐる巻きになる。

 先ほど話した策が、上手く決まってくれればいいが……。

〈やるぞ。ポニン、中里、いいか?〉

〈はい〉

〈うん〉

 テルと詩月は簀巻き状態の先輩チームの両サイドにつく。

 相田は少し離れたところにスタンバイする。

〈せーのっ!〉

 相田の掛け声かかる。

「よし!」

〈いけた!〉

〈さすが相田くんです〉

 簀巻き状態になった先輩チームが全員一気に浮上した。

 相田の印章は三十キロ以上のものを二つまでしか浮かすことはできない。いくら全員女子とはいえ、高校二年生以上で三十キロ以下はないだろう。だが、簀巻き状態で一塊になっている今なら話は別だ。相田はできるかどうか分からないと言ったが、やはり、やってくれた。

「くそっ!」

 そして、こんな状態になれば、リタは当然守りを解こうとする。

〈解いていいんですか?〉

〈落ちた瞬間、もらいますよ〉

 だが、両サイドにはテルと詩月がいる。

 無策で守りを解けば二人が襲いかかる。

〈そして、動かせることも忘れるなよ〉

 かなりの重量になっているから、早くは動かせない。

 しかし、先輩チームはまとまったままリング外へ進んでいく。

 花夏が言った通りだ。『攻撃を当てるのではなく、フィールド外へ押し出す攻撃も効果的になる』。その言葉がそのままピッタリ当てはまる。

 相田自身も近寄っていき、完全に逃げ場を潰す。

「将棋も、案外役に立つもんだな」

〈ナイス発想だったね芽依〉

 この発想を思いついたのは、将棋の穴熊囲いという守り方からだ。

 穴熊囲いとは、王将を盤の端におき、他の駒で周りを全てかこってしまう、将棋において最も堅いと言われる陣形だ。芽依がそこから思いついたのは、四星術においてそのような堅固な守りが出てきたなら、そのままフィールド外へ押し出してしまえば良いのでは? というものだった。

「しょうがねえ!」

 と、フィールドアウトを嫌ってか、リタがナイフを収めた。同時に、念動力の効力が切れて先輩チームは地へ降りる。

〈もらった!〉

〈これで!〉

〈六点目です〉

 地へ降りた瞬間を狙って三人が襲い掛かる。

 先輩たちは逃げ場をなくし、全員がタッチする。

「このまま畳み掛けろ!」



 この後、なんとか態勢を整えようとする先輩たちを追撃し、さらに二点追加。

 二回表は八点をもぎ取った。



      二回表終了:十二対八(一年生チーム再び四点リード)


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