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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第六章
25/33

一回表

「相田」

〈言われなくても!〉

 相田はポケットから真っ黒に塗りつぶした消しゴム三つを取り出す。

 それを念動力で浮かせて正面のリタへ真っ直ぐ飛ばす。

「これでまず一点」

 相田の印章を知らなかったリタはいきなりのことに反応できず、直撃をくらう。

 ボードに一の文字が刻まれる。第一段階クリアだ。

〈〝新月の夜。真っ暗な部屋でわたしは問う。貴方は誰?〟〉

 その間にもイヤホンから詩月の綺麗な声が聞こえてくる。

「テル、相田」

〈おう〉

〈了解~〉

 詩月の印章が発動するまでに他のメンバーは相手の陣地へ踏み込んでおく。これが第二段階。相田とテルは先輩チームのフィールドへ切り込む。

 が、

「なめないでくれるか一年。そう簡単に進行を許すはずがないだろう」

〈なっ〉

〈床歪みっ!〉

 二人の驚きの声が聞こえると同時に、床が盛り上がって三メートルほどの壁となる。左端から中央まで、完全に進路を塞がれた。

「右側が空いてる。そっちから」

〈了解した〉

 二人は右方向へダッシュ。

「おっと。そっちも通行止めだ」

 だが、またしても進路を塞がれる。

 黒江の印章でできた壁の後ろから、ナイフが飛び出してくる。足、腹、頭の部分の三本に枝分かれしており、飛び越えることも隙間を通ることも不可能だ。

〈〝黒い影。黒い影。貴方は一体、誰なの?〟〉

 詩月の印章の発動はまだだ。

 どうするべきか。

〈スフレ。俺とポニンを念動力で壁の上まで飛ばすか?〉

 相田からの提案。

 芽依は数瞬考えを巡らせて、すぐに答えを弾き出す。

「中里の印章発動と同時に念動力で壁を飛び越えてくれ。それから落ちるタイミングに合わせてテルは雨を!」

〈さすがだスフレ。それでいこう〉

〈芽依、カッコいいよ!〉

 相田とテルの返答を受け、詩月の発動を待つ。

〈〝そう。わたしと同じなのね。喋ることもできない。暗い、暗い影〟〉

 少しだけ、語尾が強くなる。

 あとワンフレーズくらいか。

〈〝一緒に踊りましょう? 影同士、仲良く、ね?〟〉

 瞬間、視界が一気に暗くなる。

「よし! 今だっ!」

〈行くぞポニン!〉

〈どうぞ!〉

 相田の印章で二人が不自然な軌道を描いて飛び上がる。

 床歪みによって発生した壁を飛び越え、向こう側へ。

「そんなのお見通しだって――」

「テル」


〈降りしきれ、(レーゲン)!〉


「うわっ!」

 リタの驚いた声が聞こえる。

 タイミング良く決まってくれたようだ。

 二重結界。詩月とテルの結界を二つ合わせることでその威力は倍増する。

「よし! 二点目」

 着地と同時にテルが顔面から雨を受けてよろけるリタにタッチ。これで二点目。

 だが、芽依たちの攻撃はこの程度で終わらない。残り二分。まだまだいける。

「相田」

〈あいよ!〉

 再び消しゴムが飛ばされる。ただでさえ黒一色の視界なのにさらに土砂降りの雨が降っているのだ。先輩たちがいかに優秀だろうとこの悪条件の中で防げるわけがない。

「くそ!」

 黒江は陣地を仕切っていた壁を引っ込める。リタもナイフを元の長さに戻した。

「中里」

〈行きます〉

 一年生チームの三人目が突入。

 黒江は壁を作り、リタはナイフで相田の攻撃をギリギリのところで避けているが、

〈三点目!〉

 この状況で影などできるはずもない。

 花夏は相田の消しゴムとテルに追われて逃げ切れなかったようだ。一年生チームに三点目が入る。

〈四点目っと〉

 リタに消しゴムが当たった。真っ黒く塗りつぶしたのはこのためだ。さぞ見えづらいだろう。さらに追加点が入る。

「ん?」

 と、壮太がなにか指示を出したのか、先輩チーム三人が少しずつだが一箇所に集まっていく。なにをするつもりなのか、三人が密着する。

 相田とテル、それに詩月は当然のようにそれを追っていくが、

「げっ」

〈おい、これ反則じゃねえのか?〉

〈うわ、最低……〉

〈こちらの攻めが上手くいっているとプラス思考で捉えましょう〉

 先輩チームは、簀巻き状態になった。ナイフの腹の部分がやたら拡大し、それが全員を包み込んだ。

 これでは攻撃のしようがない。どこに当ててもナイフに当たるだけだ。点にはならない。

 観客、特に一年生からブーイングが出ているが、先輩たちはすました態度。もしかしたらよくやっているのかもしれない。

〈どうするの?〉

 どうするのと言われても困る。

 先輩方を包んでいるのは仮にも刃物だ。体当たりでもしようものならこっちの身体が切れるだろう。だからといって結界ではどうしようもない。

〈中の先輩たちは大丈夫なんでしょうか?〉

〈刃物が密着してる感じだよね、あれ〉

〈自分たちでやってることだ。大丈夫なんだろ〉

 試合が一時的に停滞する。

 文字通り鉄壁だ。破壊する方法はない。

「しょうがない……。三人ともこっちのフィールドに退避。テル、あっちのフィールドだけ気温上げて晴れにして」

〈……お前も酷いな〉

〈分かった〉

〈北風と太陽の原理ですね〉

 それぞれ感想を言いつつも従ってくれる。

「相田、消しゴムは地面に落としておいて」

〈あ? なるほど。了解した〉

 相田はさりげなく消しゴムを地面に落として自分たちのフィールドへ戻ってくる。

 全員が戻ったのを確認し、テルが短く告げる。

(レーゲン)解除。輝け、太陽(ゾンネ)

 雨が止み、真夏を連想させる太陽が顔を出す。

 気温もかなり上がっているはずだ。

〈あの亀、開くかな?〉

「あと一分もない。嫌がらせ程度しかならないな」

〈向こうの指令者もバカではないはずです。こちらが罠を張ってることくらい分かるでしょうし〉

〈だね〉


 と、話していた通り、結局先輩チームの亀作戦(相田命名)が解けることはなく、一分が経過した。



      一回表終了:一年生チーム四点先取


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