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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第六章
24/33

試合開始

 芽依たちが四星術場へ着くと、先輩たちからどよめきが起こった。

「なんの冗談だ一年? その服装は」

 黒江が呆れ果てた様子で聞いてくる。

 そう思うのも無理はない。芽依たちは今、頭のてっぺんからつま先まで全身真っ黒なのだ。もともと持っていた詩月以外の面々は土日に黒一色のジャージを購入した。頭に被っているものは他の一年生たちに作ってもらったものだ。目の部分しか穴がない、ただ黒いだけの被り物。

 左胸と背中中央にそれぞれの名前を示す、『S』、『A』、『F』、『N』という文字が小さく入っている。四星術のルールを詳しく調べたら、服装は自由となっているものの、誰なのか分からない変装は禁止となっていた。そのための処置だ。

「傑作だなこりゃ」

 と、言うのはリタ。その手には既にナイフが光っている。

 先輩たちはというと、バスケのユニフォームだろうか。赤を基調とした袖がないシャツに短パンをはいている。

「……」

 一人、無言でこちらに視線を向けてくる花夏の表情は真剣そのもの。

 花夏は他の先輩たちにテルや詩月の印章を教えていないのだろう。この全身真っ黒という服装の恐さを知っているのは花夏だけだ。

「はは。僕もそんな服を着てみたいな。一年生の皆さん、初めまして」

 爽やかな笑みを携え、こちらに接近してくる一人の男子生徒。花夏たちと同じ服装をしているということは……。

「僕は三年の桜川(さくらがわ)(そう)()と言います。指令者をやらせてもらってます。今日は良い試合にしましょうね」

 やはり、先輩チームの指令者だ。

 はっきり言って、美形だ。性格も良さそうだし、モテルタイプな気がする。

「どうもです」

「敬語とか使わなくていいですよ。もともと僕は黒江やリタの意見には反対してたからね。ああ、でも、試合では手を抜くつもりはないですよ」

 きらっと歯を光らせた……ように見える。

 キザっぽく見えないから不思議だ。本当に爽やかでいい人っぽい雰囲気がある。

「壮太。位置につけ。すぐに始めるぞ」

「はいはい。分かりましたよ」

 肩をすくめて壮太は指令塔へと向かっていく。

「みんな、これを」

「ありがとうございます」

 花夏から小型通信端末を受け取り、イヤホンを耳につける。

「じゃあ、審判の先生も来てくれてるし、準備してもらえる?」

「了解しました」

 フィールド外には『必勝』の文字を掲げた一年生たちがいる。

 芽依は指令塔に登りながら、鼓動が早くなるのを感じた。

 四人で一緒にいたからか、芽依はあまり緊張していなかった。だが、こうして自分のポジションに着くと全然違う。自分がもし間違った指示を出したら、それは全て悪い結果に繋がる。相田にはお前が中心になる、などと言ったが本当は違う。四星術おいて一番重要で、チームの中心になるのは指令者だ。

〈スフレ、聞こえるか〉

「相田?」

 芽依が指令塔の頂上に着くと、イヤホンから相田の声。

〈さっき、中里にあまり緊張するな、いつも通りにやれといってたが、お前もな。練習ではきっちり、良い指示が出せてたんだ。緊張するなよ〉

〈そうです。経験者のわたしたちから見ても、英くんは素人とは思えない指示を出していました。わたしたち自身もある程度は自分で考えて行動します。あまりかたくならにように。テルさんも〉

 続いて、四星術前後のみ饒舌になる詩月からも応援の言葉がくる。

「分かってる。出来る限りのことはやってきたんだ。ちゃんとやるさ」

〈あたしも、頑張るよ〉

 頑張ると言いつつ、やはり緊張しているのかテルの声は少しだけ強張っていた。



『それでは、試合を開始します!』



 審判役の教師がマイクを使ってアナウンスを入れる。

 審判は全部で五人だ。主審は守備チームのフィールドを主に見て、残り四人はフィールドの四つ角に立つ。

『試合は、三回までの短期決戦。その他は四星術のルールをそのまま適用します。通信端末の故障がないか、両チームとも今一度確認をお願いします』

 芽依は全員に呼びかけ、全員から返答を受け取る。

 審判にオーケーサインを出す。

『時間はフィールド脇の電光掲示板で確認してください』

 芽依から見て左側のフィールド外。

 二メートル四方くらいだろうか。大きなボード状のものが見える。既に三分にセットされていた。おそらくゼロになった瞬間に大きな音がなるのだろう。両チームの得点を示すと思われる枠も確認できる。

『先攻は一年生チームです。両チーム、準備はよろしいでしょうか?』

 こちらのメンバーの位置、相手のメンベーの位置を再確認する。

 作戦通り、相田は三角形の頂上、敵の陣地に一番近い場所にいる。テルは左に、詩月は右にいる。対する先輩チームは、相田の正面にはリタがいる。その距離は僅か五メートル。そして芽依から見て左、テルの正面には黒江が、詩月の正面に花夏がいる。両者間の距離は約三十メートルだ。

 芽依は一度深呼吸をして、それから審判にサインを送る。

『では、試合を開始します』

 会場がシンと静まり返る。

 審判がゆっくりと手を上げ、そして、振り下ろされる。



『始め!』



 戦いの火蓋が、切って落とされた。


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