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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第五章
21/33

露見

「よう、スフレ」

「おう」

 部活終了後、約束通り相田が部室へ姿を現す。

 スフレという呼び名が定着してきた感があるが、もはや気にはすまい。

「今日の部活内容はなんだったんだ?」

「校内清掃」

「校内?」

「ああ。最近、やることがなくなってきたのか部室外に進出してるんだよ。先週の金曜日は近隣のゴミ拾いだったしな」

「悲惨だな」

「そうでもない」

 今日は割りと楽しかった。

 一年生皆と仲良くなれたせいか、清掃中も細かいことで勝負をしたり、どうでもいい会話に花を咲かせたりと有意義に過ごせた。

「中里さんは散々だったみたいだけどな」

「なに?」

「そんな恐そうな顔するなって。相田と中里さんの中学が結構な実力校だって知ってた人がいたんだよ。相田がいなかったから中里さんに質問が集中しただけだ。俺やテルが代わりに答えられるなら答えてたんだがな……」

 詩月は部活が終了してから椅子の上で体育座りをしてピクリとも動かない。

 膝の上に頭を乗せ、ぐったりとした様子。

「んで? その花夏だかフクロウだかっていう先輩は?」

「そろそろ来るんじゃないか? 他の先輩方に見つからないようにしてるから、一度校外に出てから戻ってきてるらしいし」

「なるほどな」

「ちなみに、これが練習表だ」

「練習表?」

「花夏先輩が持ってきてくれたんだよ。自分たちが一年生の時使ってたっていうものを」

 そのまま、数分適当に喋っていると、いつものようにバンとドアが開く。

「やっほー! みんな、元気にしてたかい?」

 相変わらずテンションが高いこと。テルよりも明るく、元気はつらつとしている。

 芽依はどうも、と頭を下げる。

「およよ? そちらさんはどなた?」

 芽依の隣に座る相田に気付いたのだろう。

 フクロウフードを揺らして問いかけてくる。

「ああ、こいつは相田隆」

「相田くん?」

「はい。今日、先輩に質問したいことがあるとかで、残ってます」

 相田は笑顔こそ見せないが、「こんちはっす」とあいさつをする。

「うん、こんにちは。すっごい身体大きいね~。中学時代、なにかスポーツでもやってたのかな?」

 対する花夏は人懐っこい笑みを浮かべて親しげに話しかける。

「はい、それなりには」

「そっか。もしかして四星術だったり?」

「ですね」

「おお! 英くん、すっごい人連れてきたね!」

 相田の反応がよほど驚きだったのか、テンションがさらに三割り増しになる。

「それでそれで? 質問ってなにかな?」

 興味津々といった様子で先を促す花夏。

 ちらりと相田が芽依に視線を向けてくる。このタイミングでいいのか確認のためだろう。芽依は頷く。

「それじゃ、早速――」

 と、姿勢を正し、相田が本題に入ろうとした瞬間、



「一年、誰か残ってるか? 試合の詳しいルールを確認してなかった…………花?」



 突然ドアが開き、黒江とリタが入ってきた。



    ◆



 場の空気が一瞬で凍りついた。

 芽依もテルも来訪者の姿に身体を硬くし、詩月は椅子から落ちそうになっている。

 花夏自身はドアに背を向けていたが、声で誰だか分かったのか、笑顔のまま硬直。

 相田だけは平然としていたが、出しかけた言葉を止めた。

「花? 何故、一年と一緒にいる?」

 黒江がキツイ口調で尋ねてくる。

「……」

「どうも最近、部活終了後の付き合いが悪いと思ったらこういうことか。答えろ。ここでなにをしている?」

 絶対零度の視線を向けてくる。

 この間、芽依に苛立ちをぶつけてきたのとは訳が違う。本当に恐い。黒江の全力の睨みを前にすると動けなくなる。

「ハナカ。まさか一年の肩を持つつもりか? 残ってアドバイスでもしてたんじゃねえだろうな?」

 リタの方は嘲り百パーセントという感じ。

 なにか間違った解答でもしようものならすぐさま刃物が飛んできそうだ。文字通り、飛んでくる、だ。

「花」

「ハナカ」



「「答えろ。ここでなにをしている?」」



 息を詰まる。指先が冷え、体中から嫌な汗がふき出してくる。

 この二人は敵に回しちゃいけない。

 直感的にそう思った。

「……」

 花夏は笑みを消して、無表情を貫いている。

 今、どういう心境でいるのか察することはできない。

「花、とりあえずこっちを向け」

 立ったまま固まっている花夏に黒江が指示を出す。

「……」

 花夏はふう、と息を吐き、顔つきを真剣なものに変えてから振り向く。

「まず一つ目の質問だ。ここでなにをしている?」

「別に。ただ喋ってただけだよ」

 と、花夏の口から発された声に芽依とテル、詩月は驚く。

 別人が喋っているような、鋭い声音だった。三人が知る花夏の声じゃない。

「喋っていただけ? じゃあもう一つ質問だ。先週の火曜日、部活終了後に小型通信端末の使用申請があり、実際に使われたそうだがそれはなんだ? 私たちは一年が使ったのかと思ったが、もしかして花が一年のために――」

「知らない。そこの一年が自分たちで申請して使ったんじゃない?」

「ほう。なるほどな」

 黒江は口角を上げて花夏の言葉を聞く。

「ハナカ。じゃあ、顧問の先生が部活後に残って練習している人がいると言っていたけど、その中にフードを被っている人物がいたというのは?」

「先生の見間違いじゃないの? その話を聞いた時、私も一緒にいたけど見間違いだったってことになったでしょ?」

 リタも、どこか遊ぶような声音で詰問する。

 黒江とリタの言っていることは全て事実だ。隠し通すのも限界があると思うが……。

「じゃあ、最後の質問だ」

 黒江がこれ以上ないくらいの嫌らしい笑みを顔に張り付かせて言う。



「一年が持ってるその紙はなんだ?」



 芽依は反射的に紙を後ろへ隠した。

 だが、もう遅い。芽依が持っていたのは、黒江や花夏が実際に使っていたという練習表。花夏が一年生に協力していることを証明するものだ。


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