一致団結
約束の月曜日。
印章学で実技も入ってきて、授業の方も高校生っぽくなってきた。部活の方も詩月がメンバーに加わり、本格始動だ。
「テル」
「なに?」
「土曜日、聞きそびれていたが、俺をいじろうとしたらその明るいキャラになったというのは本当か?」
現在、ショートホームルームも滞りなく終了し、お待ちかねの部活の時間。テルが髪型を変えてる間、芽依は手持ち無沙汰になって気になっていたことを尋ねてみる。
「うん、だって芽依ってばカッコ良すぎなんだもん。どうにかしていじれないかなー、と思ったらこうなったのですよ」
「素でカッコイイとか言うな」
「冗談だよ?」
「冗談かよ!」
なるほど。人をいじることに関しては進歩しているようだ。
テルの準備が完了し、二人で部室棟へ向けて歩き出す。
「それで、相田君、なに質問するんだろうね」
「さあ?」
管理棟を通り過ぎ、印章格闘技術部の部室へと歩を進める。
「どもーっす」
「こんにちは~」
いつも通りのあいさつをして部室へ入ると、
「「「「「英くん!!」」」」」
鼓膜が破れそうになった。
中にいた一年生たちが駆け寄ってくる。
「え、なに?」
聞くと、
「なにか手伝えることないかな?」「やっぱ任せておけなくてさ」「メンバー揃ってるの?」「先輩たちって全国大会まで進んでるんだよね? 大丈夫?」「俺もなんか手伝えることないかな?」
口々にそんな言葉が飛んでくる。
なにが起こったのだろうか。
「なんだかよく分からんがまず落ち着け!」
声を張り上げると、一瞬で静かになる。
「ええと、応援は嬉しいんだけど、なんでみんな揃って同じこと言うんだ? もしかしてなにかあったのか?」
一年生たちはいつものテルと芽依のように顔を見合わせて、
「別になにも起こってはいないけど」
と返してくる。
「じゃあ、なに?」
「なにっていうほどじゃないけど、ほら、やっぱり任せっきりって気分悪いし……」「友達とも話したんだけど、自分から強力を申し出るべきかなって」「あの先輩たち思い出すとぶっとばしたくなっちゃってさ」「先週の土曜日こいつと相談して、一人だけを矢面に立たせるわけにはいかなよなって」「そうそう。一年生みんなで力を合わせるべきだよなって」
「……」
胸が熱くなった。
応援してくれてるのは知っていたけど、こうして明確な態度として表されるとやはり違う。全員がちゃんと考えてくれてるんだなと嬉しくなる。
「ねえ、まず、メンバーは揃ってるの?」
一人の女子が質問を投げかけてきた。
「ああ、今のとこまだ三人だけど、今日、たぶん最後の一人が決定する」
「なにもしてなかった私が聞くのもどうかと思うけど、そのメンバーで勝てそうなの?」
「どうだろ……。でも、今日入ってくれそうなやつと、一人は四星術の経験者だし、なんとかなるかもしれない」
「そのメンバーって誰なん?」
今度は別に男子が質問してくる。
「ああ、ええと、まず俺、それからこいつ。テルと、中里詩月さん。あそこで蹲ってる人な。で、今日入ってくれそうなのは相田ってやつ」
「ああ! あの相田か!」
「はい?」
「県大会のかなり良いとこまで進んだ中学のキャプテンだろ?」
「え、そうなの?」
「おう。一部の地域だけだったけどテレビでも中継されてたんだぜ?」
そんなこと一言も話してなかったけどな。相田本人は。
「ん? 待てよ? ということは中里さんも……?」
「どうした?」
「いや、中里さんも相田と同じ中学で、四星術やってたって……」
「マジで!? じゃあ、それってもうベストメンバーじゃね?」
と、話しているうちに女子数人が詩月の元へ。
「な、なんてこと話すんですかあああああぁぁぁーーーーー!」
案の定、悲鳴をあげて逃げ去っていった。
知られたくなかったのか。
「中里さんは超がつくくらい内気で内向的な性格の子だから下手に話しかけるとああなる。だからそこの女子の皆さん、あまりショックを受けた顔しないで」
「先に言ってよ!」
そう言われましても……。
「じゃあさ、あたしたちはむしろなにもしない方がいいかな? 邪魔になりそうなんだけど……」
「う~ん。それはどうだろ……。まあ、なにか手伝って欲しいことがあったらお願いするよ。その時は全力で頼む」
「うん、分かった!」
話しているうちに、いつの間にか部活開始の時刻。
一年生全員が一致団結。
これなら、先輩たちにも勝てる気がした。




