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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第四章
18/33

四星術の面白さ

「よーし分かった! 一発殴らせろ!」

「はいいいいい!?」

 語り終えた瞬間に相田が席を立って訳の分からないことをのたまった。

「中里の笑顔を見ただと? 万死に値する!」

「はいいいいい!?」

「あの天使の微笑みを見たからには死で償ってもらうしかねえな!」

「なんで笑顔見ると殺されなくちゃいけないの!? ちょっと落ち着け!」

「落ち着けるか! 中里の笑顔にどれだけの――」

「あの~」

 と、テルが申し訳なさそうに手を上げる。

「もしかして、相田君って詩月ちゃんのこと……?」

「な、なんでそれを!?」

「今の会話で気付かないやつはいないだろ!」

 相田は顔を真っ赤にして「ち、違う! 実は冗談だったり!」などと必死に誤魔化そうとしているが、手遅れ過ぎる。

「テル、そういうことだ。相田が妙にうちらにつっかかる原因の半分以上はそれが理由」

「おいスフレ! 貴様……」

「あはは。相田君って案外面白い人なんだね~」

「だろ?」

「おーまーえーらーなー……」

 怒り五割、恥ずかしさ五割の睨みつける攻撃を放ってくるが、緊張感ゼロ。

「もういい! と、とにかく、お前らの話をまとめると――」

「話題転換キタコレ」

「ス・フ・レ?」

「ごめんごめん」

 さすがにこれ以上はやめておく。何事も限度を見失っちゃいけないと思う。

「お前らの話をまとめると、要は印章格闘技術部にいる連中はそれなりのやる気を持ったやつらだが、自分たちは違う。特に、中里やフウロウ先輩と一緒にいるとそれを意識せずにはいられない。そんな感じか?」

「そうなるな」

 相田は「ふむ」となにか考える素振りを見せたあと、

「簡単な解決方法が思いついたぞ」

 と宣言した。

「簡単な?」

「ああ、そりゃもう面白いくらいにな」

「それはどういう?」

 相田はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「まあ待て。それには準備が必要だ」

「準備?」

「ああ。大切なことだ」

「もったいぶるなよ。早く言えって」



「中里を呼べ」



 ジャキン。テルがどこからかスプーンとフォークを取り出した。

「相田君。それは教える見返りに詩月ちゃんをどうこうするという……?」

「いや、テル、ちょっと待て。……相田、どういうことだ? ちゃんと説明してくれ」

「どうもうこうもねえ。お前らはつまり四星術をやりたいって気持ちが薄いんだろ? なら四星術の本当の面白さを教えてやりゃいいだけだ。それなら経験者である中里もいた方がいい」

 四星術の楽しさ、か。

 口止めされているが、この際だ。花夏には申し訳ないが相田になら言っていいだろう。

「相田、それは試合をするってことか? それなら実は先日、花夏先輩にだな――」

「試合なんかしねえよ。人数が足りない中でやったって本当の面白さは伝わらねえ。そうじゃくて、四星術の一番面白いところを経験させてやるって言ってんだ」

 よく分からない。

 四星術はスポーツである以上、実際にやっている時が一番楽しいのではないだろうか。印章を使用する競技でも、そうでない競技でも、やってみてなんぼのはずだ。それ以上に楽しいこととは一体なんだろうか。

「いいから、中里を呼べ。どうせあいつは休日、一緒に遊ぶ友達もいないし趣味もない。中学時代は四星術しかしてなかったからな」

「おお、さすが。よく見てるな」

「茶化すな」

「すまん。じゃあ、テル」

「うん」

 さすがに、アドレスはまだ教えてもらってない。なにかあった時のためにと電話番号を聞いていただけだ。

「ていうか、相田が呼べばいいんじゃねえの?」

「できるかそんなこと!」

 妙なところで純情だった……。





 詩月が来店したのは全員がすぐに分かった。

「あぅ……」

 どれだけ急いできたのか、自動ドアに正面衝突していた。店内にいた客の視線が集中していると気付くと、そのままどこかへ猛ダッシュで逃げ去る。

「て、ちょっと待て」

 放っておいたらそのまま帰りそうだったため、芽依が追いかけた。

 相変わらずというか、なんというか……。

 芽依がなんとか追いつき、店内へユーターン。

 とりあえす座ってもらう。

「よう中里、久しぶりだな」

「うん、久しぶり」

 と、詩月はいきなり笑顔を見せた。

 なんだかんだ言ってかなり親しい仲になれてるじゃないか。

「どうだ中里、こいつらとは上手くやっていけそうか?」

「ええと、たぶん大丈夫。二人とも優しいし、練習も頑張ってるし」

「そっか。なら安心だな」

「そ、そうでもないよ! わたし、まだ全然その……」

「いや、聞いたところ初対面こそ逃げちゃったみたいだが、二回目は自分から行ったんだろ? すげー進歩じゃねえか」

「そうかな……?」

「そうだよ」

 相田の言葉に詩月は照れ笑いを浮かべる。

 詩月は黒系の色が好みなのか、真っ黒のパーカーをはおり、黒地に赤のラインが入ったプリーツスカートを着ている。いつも付けているカチューシャは今日も変わらず頭の上にある。

「今なにしてた?」

「することなくて、パソコンいじってた……」

「いつも通りか。練習できないとなると、中里はいつもそればっかだもんな」

「そ、そうでもないよ……」

 相田のやつ、詩月の私生活までばっちり知ってるし、詩月もそれを不満に思ってないようだ。もはや付き合えよと言いたくなる雰囲気なんだが。

「世間話はそこまでにして。今日呼んだのはこの二人に四星術の面白さをもっと分かって欲しいと思ったからなんだ」

 やっと本題に入った。

「面白さ……? でも、二人とも初心者さんだけど、一応試合もしたし、楽しんでくれてるように見えるけど?」

「ああ。その話も聞いた。だが、四星術の面白さは試合だけじゃないだろ?」

「……そうだね」

 詩月には相田の言葉が理解できたらしい。

 そして相田の声がやたら優しげなのは、やはり詩月が相手だからだろうか。

「でも、メンバーは……?」

「しょうがないから、この四人でいく。あっちの印章はもう調べてあるんだろ?」

「あ、うん」

「うん!?」

「なんだスフレ」

「中里さん、先輩たちの印章調べてあるんだなって……」

 驚いていると、詩月がさらに衝撃的なことを言う。

「去年の全国大会の映像、まだ残ってますから……。ネットで調べれば出てきますよ」

 出てきますよ、って、なんでそこまで調べてあるのか謎だ。絶対試合には出ないと明言しているのに……。

「よし、じゃあ、それでいこう」

 二人はカバンの中から紙とペンを取り出してなにやら書き始める。

「ほれ、三分で頭に入れろ」

 五分ほどで書き終わると、二人そろって芽依とテルにその紙を渡してくる。

 紙を見ると、そこにはそれぞれの印章の詳しい能力が書いてあった。



・英芽依……視力向上:五十メートル先からでも視標の一番小さいものが見える。

・藤山テル……天候結界:結界内の天候を自由に操ることができる。ただし、その現象によって起こったものは結界解除時に全て消失する。例えば、結界内で雪が積もっても、解除するとなくなるなど。

・中里詩月……変色結界:結界内の色を一つに統一できる。もとから付いている色に上塗りする形になるため、モノの輪郭等ははっきり見える。ただし、同じような色が元から付いているモノに関しては非常に見えにくくなる。また、発動時には詩を詠むことが必須とされる。

・相田隆……念動力:二百キロ以内であれば、どんなものでも動かすことができる。ただし、重量が重くなればなるほど動かすスピードは遅くなる。軽いものであれば同時に十個以上のモノを動かせるが、三十キロ以上のモノの場合、一度に動かせるのは二つのみ。



「ああ、なるほど」

「なんだ?」

「この前、本が勝手にめくれてると思ったら念動力だったのか……」

「そうだよ。いいから早く頭に入れろ」

「はいはい」



・部長、黒江なみ……床歪み:人が乗れる程度の強度と面積があるものであれば、好きなように歪ませることができる。『歪ませる』ということにほとんど制限はなく、床を盛り上げて壁のようにすることも可能。ただし、あくまで歪ませる能力のため壁になるくらいまで歪ませるとフィールドが極端に狭くなるなどの弊害はある模様。

・副部長、高嶋花夏……影踏み:影を踏むことによってそのモノの動きを完全に止めることができる。大会の様子を見る限り、他の能力を行使しても動かせない。空中に浮いてるものの影を踏むことで浮かせることも可能。

・エース、リタ……刃変化:刃物の刃の部分の形を変えることができる。伸ばしたり縮めたりするだけでなく、刃を分裂させることも可能。ただし、速度はそれほど速くなく、注視していればある程度は避けられるものと思われる。



「あれ? 四人目は?」

「四人目は、その……指令を出してる人だったので分かりませんでした」

 それもそうか。指令を出す人間は印章を使って攻撃することも守ることもできない。試合を見ているだけでは分からないだろう。

「うん、だいたい分かった。それで、なにをするんだ?」

「お前なら、どう戦う?」

「え、なに?」

「スフレ、お前ならどう戦うかと聞いている」

「どう戦うか?」

 突然そう言われても困る。

「相田くん、それじゃあ分かりにくいよ。まずは、攻める時から」

「お、そうだな。じゃあ、攻める時、このメンバーの印章を踏まえてどう戦う?」

「攻める時? そうだな……」

 思いつくことを並べてみる。

「まず、このメンバーなら指令を出す人間は俺になるな。視力が良いってのは武器になると思うし。んで、他の三人だけどとりあえずは相田が中心になって動いて、他の二人が補助って感じか?」

「具体的には?」

「具体的に? ええと、相田の念動力で適当になんか動かして、相手を牽制する。その隙に他の二人が結界を張って、視界を悪くするとかして虚をつく。あとはみんなで攻める、みたいな?」

「典型的な素人考えだな。というか全然具体的じゃねえ」

「……」

「まず、相手が攻めてくる危険がない四星術で相手を牽制ってなんだ? それから虚をつくのはいいが、中里の印章は発動までの時間がかかる。その間、そこのツイテンテールはなにをしてるんだ? 発動まで立ってるのか?」

「う……」

 確かにそうだ。

「俺なら、そうだな……。まず、開始位置だが俺が一番前に出るべきだろうな。そして開始直後に正面にいるやつを全力で潰す。邪魔は入るだろうが、成功する確率は高い。そしてその間にツインテールも相手の陣地へ切り込む。相手の印章を考えるとただ突っ走るだけじゃ途中で動きを止められそうだが、構わない。できるだけ近づいておく。そこで、中里とツインテールの印章発動だな。黒に染めるのにプラスして、雨でも降らせてくれればいい。視界が悪くなるだろうがそこは指令者の役割だ。視力向上なんつー便利な印章持ってるんだから、的確に動かしてくれれば動けるだろ」

 べらべらと、当たり前のように相田は言うが、素直にすごいと思った。相田にしても芽依やテルの印章を知ったのは今さっきのはずだ。それでここまで作戦を立てられるのか。

「あの、わたしはそうしません……」

「中里さん?」

「わたしなら、変色結界の白とテルさんの太陽を合わせて視界を遮る方法をとります」

「え、でも、そしたら花夏先輩の印章がフルに使えることになるんじゃ?」

 と指摘したのはテル。

「いえ、それはそうなのですが、それこそが狙いです」

「どういうこと?」

「花夏先輩の印章はとても強力ですが、使用するには自分から相手に近付かなければなりません。そこを相田くんの印章で狙えば良いと思います。誰か一人が止められても相田くんの念動力なら必ず助けられますし。それに、リタ先輩の刃物も、太陽光を浴びれば反射するはずです。こちらにとっても困る事態になりかねませんが、上手くいけば自爆を誘えると思います」

 相変わらずというか、詩月は四星術のことが絡むと途端に饒舌になる。

 それは良いのだが、芽依はふとあることに気付き、発言する。

「二人の意見は最もだと思うけど、一ついいか?」

「なんだ?」

「もし、黒江部長にフィールドの端から端まで塞がれたらどうするんだ?」

「あ、それは問題ないです」

「ん?」

「いくつか試合を見ましたが、そんな芸当ができるなら簡単に凌げるだろうなと感じる場面がありました。おそらく歪ませることのできる範囲が限られているんじゃないでしょうか?」

「ふーん。なるほど。了解した。でもさ、さっき相田はテルを突っ込ませるみたいなこと言ってたけど、壁作られたら大回りしなくちゃならんよな? 時間の無駄じゃね?」

「む。そりゃそうだ。そもそも、範囲が限られていようが移動しながら発動されたら回り込めねえな」

「なら、相田君の念動力で誰かを上空まで吹っ飛ばして越えちゃえばいいんじゃない?」

「テル、それ危険じゃないか? 壁の向こう側に花夏先輩がいたら空中で動きを止められるだろ」

「だったら、そうならないように変色結界と天候結界を使用すれば――」



 と、お互いの意見交換をしてるうちにいつの間にか二時間以上経っていた。


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