待ち合わせ
先輩たちとの試合まであと九日と迫った土曜日。
「眠い……」
芽依はテルと学校近くの商店街で会う約束をしていた。
花夏はなんだかんだ言いつつ、毎日のように部室へ現れ、芽依たちの指導に当たっていた。日に日に練習内容は厳しく、ハードなものへと変わっていき金曜日は帰宅途中によろけて車に轢かれそうになった。
詩月は、試合には出ないと明言しているが芽依たちと一緒に練習しており、今ではすっかり打ち解けている。
「なんでこんな早くに……」
現在の時刻は午前十時。
芽依は疲れて九時過ぎまで寝ていた。テルが強引にこの時間を指定してきたため、しょうがなく布団から這い出てきた。
集合場所は駅前の噴水前。ここはクリスマスなんかにはライトアップされるため、カップルが待ち合わせ場所に使うことが多い。この辺りに住む人間は誰でも知ってることだ。
「なんでこんな場所で待たなきゃならんのだ……」
周りには彼氏か彼女かを待っている人が大勢いる。聞く気などないのに「待った?」「全然。今きたとこだよ」などという会話が耳に入ってくる。
数分、ぼうっとしていると、
「待った~?」
肩を叩かれる。
「いや、今きたとこ……て、なにを言わすんだお前は」
勢いで答えてしまってから突っ込む。
「今あたし、なにか問題発言した?」
「いや、こっちの話だ」
テルは青を基調としたワンピース姿。そういえば、私服を見るのは久しぶりかもしれない。最近は制服姿しか目にしていないし。トレードマークのツインテールはいつもと全く変わらないが。
「で、呼び出した用件は?」
「え、いきなり?」
「なんだ? ここじゃ話せないとか?」
「ううん。そういうわけじゃないけど。でも立ちっぱなしは嫌だしどっか行かない?」
「それもそうだな」
適当に喋りながら場所移動。
どこへ向かっているのかは知らないが、テルが歩き出したので着いていく。
「芽依」
「ん?」
「話し始めちゃうと言えなくなりそうだから、今言うね」
なにやら異様な緊張感を醸し出してテルが言う。ちらっと表情を窺うと赤くなっている。かなり恥ずかしいのか、芽依から視線を逸らしている。
「お、おう。なんだ?」
この緊張感はまさか、告白……?
「こ、この間はありがとね」
ま、そんなわけもなく。
「この間? なんのことだ?」
「だから、その……」
「中里さんじゃあるまいし。そんな言い淀むな」
「それは詩月ちゃんに失礼だと思うけど……」
確かに。心の中で謝っておく。
「えっと、ほら、あたしの名前の……」
「ああ、あれか」
先日、詩月がテルの名前について触れたとき、芽依は話題を違う方向にずらした。そのことだろう。
「別にいいって」
「……ごめんね」
「謝ることでもないだろ」
「うん」
沈んだ表情を見せるテル。
「思い出したのか?」
「……うん」
芽依はぎゅっとテルの左手を握る。
「芽依?」
「あんま、意識するなよ」
「……ありがと」