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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第三章
14/33

名前

「あ~、もうやめやめ! 暗い話題好きじゃない!」

「テル?」

「そういうことは帰ってからじっくり考えようよ! 皆でいる時は楽しく過ごそう!」

 なんとまあ、無茶苦茶な。

 皆でいるからいろいろ意見が出し合えるというものではないのか。

「ほら、詩月ちゃん! なんか楽しそうで明るい話題カモン!」

「ええ? あの……ええと、ええと……」

 いや、そんな必死に考えなくても……。

 どうせテルの思いつきなんだし。

 楽しい方が良いのは同意するけど。

「あ、ありました!」

「おお! なんだい?」

 苦笑いで二人の様子を見守っていると、



「テルさんの名前って、テルじゃないですよね?」



 予想外のセリフが飛び出した。

 芽依は一瞬で笑みを消す。

「……」

 テルは完全に沈黙。

「今日、クラスの皆さんがテルさんのことを……ええと、確か輝――」

「中里さん」

「え?」

 慌てて詩月の言葉を遮る。テルに対して名前の話題はタブーだ。

「テル?」

「……」

 反応がない。

 おろおろしている詩月はとりあえず放っておくとして、テルの言葉を待つ。

 数十秒にも及ぶ沈黙の後、



「……そっか、そういえば詩月ちゃんにはテルとしか名乗ってなかったね」



 と普段通りの声で返した。

「うん、そう。あたしの名前は藤山輝緒。隠してたわけじゃないんだけど、あんまこの名前好きじゃない……ううん。ちょっと嫌な思い出があって……。だから、テルって呼んで」

 声音こそいつもと変わらない。

 でも、長年一緒にいる芽依には分かる。笑顔が、歪だ。

「と、いうわけだ中里さん。こいつのことは今まで通りテルと呼んでやってくれ」

「あの……はい」

 芽依はなんでもない風を装う。

 詩月は困り顔でなにか言いかけたが、素直に答えてくれた。

「だいたい、名前なんて言ったら俺の芽依ってのも微妙だと思うぞ? 小さい頃なんか女の子と間違えられたからな!」

「そ、そうだね! だからみんな芽依のこと英君って呼ぶんだよ」

 無理矢理、話題を転換。テルはここぞとばかり乗ってきた。

「親に理由聞いたら『女の子が欲しかったから』とか、ふざけた答えしか来ないしさ」

「あはは。でも、良いんじゃない?」

「なにが?」

「だって、芽依の印章は視力向上でしょ?」

「そのネタはもう聞き飽きた! 目がいいから芽依、だろ? 中学の時から何回それでいじられたか……」

 元の調子を取り戻したテルにほっとする。

「そういや、中里さんの詩月って名前も結構珍しいと思うけど、由来とかあるの?」

「え? あ、はい。実はうちの両親が詩を書いてまして……」

「詩?」

「そうです。結構大きな賞も取ったことがあるらしくて、その世界ではかなり有名人らしいです」

「じゃあじゃあ、詩月って、もしかして詩を好きになって欲しいみたいなことから?」

 テルが安直な推測をする。詩を好きになってほしいから詩月。詩好き、か?

 気持ちは分からないでもないが、名前を付けるのにそれはどうかと思う。いや、芽依の親を考えるとそうも言えないが。

「あ、そうではないんです」

 だろうな。

「えと……詩を好きになってくれなくてもいい。でも、自分たちが大好きな詩をほんのり明るく照らしてくれるような、そんな優しい子になって欲しいと、そう言ってました」

「うわー、さすが詩人。なんか深いね」

「そ、そうですか?」

「だな。うちの親にそんな発想はできない」

 詩月ははにかんで「でも」と続ける。

「別にテルさんが言った由来でも良かったんですけどね……」

「どういうこと?」

「英くんは覚えていませんか? わたしが印章を使う時、詩を口にしていたのを」

 四人で四星術をした時を思い出す。

「ああ、そういや、言ってたな」

「はい。わたしの印章、変色結界はまず詩を言う必要があるんです。染めたい色によって内容は変わりますし、その場その場の思いつきで喋ってます」

「え、あれってその場で適当に考えたの?」

「はい。わたし自身、詩は好きなので、作ろうと思えば簡単にできるんですよ」

 と、言った詩月は、

「あ、笑顔」

「ホントだ」

 笑っていた。

「え……?」

 当の本人は無意識だったようだ。

「詩月ちゃんもっと笑って~! 絶対そっちのが可愛いよ!」

「え、あの……わたし、今、笑ってました?」

「笑ってたよ! すっごい可愛かった!」

「あぅ……。そんなことない……です」

 テルにべた褒めされて、出会って何度目になるか、頬を真っ赤に染める詩月。

 実際、反射的に目を逸らしてしまった。普通に可愛かった。

「ねえねえ! ほら、もっかい笑ってみて!」

「あうぅ……」

 テルの無茶な要求にどうしていいか分からなくなってる。

「ほれ、笑わんか!」

「テル、その変顔はやめろ。異様にブサイクに見える」

「ええ~、やっぱり芽依はあたしに対して手厳しい!」

「そうでもない」

「そうだよ!」

「勘違いだ」

「勘違わないよ!」

「勘違わないでくれ」

「勘違うよ! ん? あれ?」

「よし、勘違いだな!」

「芽依がいじめる~!」

「今のは俺は悪くないだろ?」

 言いつつ、横目で詩月を見ると、やはり笑っていた。

 相田の言葉が思い出される。詩月は本来、すごく内気で話すことすらままならない。サポート役の教師ですらお手上げだったと言っていた。



 二日目にして笑顔が見れたというのは、とてもすごいことなのかもしれない……。


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