表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第三章
13/33

理解

「し、死ぬ……」

「だから、やりたく、なかった……んです、が……」

「…………」

 芽依はぐったりと倒れ、テルはもはや言葉すら出ないらしい。

 詩月は立っているが、膝に手をつき、荒くなった息をなんとか整えようとしている。

「あっはっは。体力ないね~。昔の自分を見てるみたいでなんか面白いや。でもやっぱ経験してると反応が違うね。詩月ちゃん、一人だけ良かったよ」

 指令塔から花夏が降りてきて、感想を口にする。

「これはね、指令者から指示が出された時の反応速度を高める練習。瞬間的に動けないとすぐ点をとられることになるからね」

 今更のように花夏が練習内容を説明する。そういうことは練習前に言うものではないだろうか。

「…………」

 もう暗くなってきてる空を見つめ、芽依は思う。


 先輩たちの言い分が、納得できてしまった。


 こんな練習を一年生の時からずっと積み重ねて頑張ってきたんだ。今年が最後となれば練習に打ち込みたい気持ちは分かる。分かりたくなくても、分かってしまう。

「花夏先輩」

「およ? 英くん案外まだ平気?」

「いや、全然ダメっす。そうじゃなくて、一つ質問良いすか?」

 本当は挙手したいのだが、全身が重くてそれすらできない。

「いいよ」

「黒江部長と花夏先輩、それにリタ先輩ってすごく仲良いですよね?」

「うん? 突然なに?」

「いえ、なんとなくそう思っただけですけど」

「そう……? うーん。仲が良いっていう定義が曖昧だからなんとも言えないよ。全然意見がまとまらなくてすごく困ることもあるし。でも、うん。たぶん一般的な『仲が良い』って部類には入るんじゃないかな?」

「ですよね……」

 やはりと思う。こんな練習をずっとしてきて、大会にだって出ているのだ。仲間意識が出てきて当然だ。

「……分かる、な」

 声に出してみる。

 今年が最後。今までの集大成を見せる時だ。そして、その最初の相手が因縁のある学校だという。練習試合とはいえ、一年生に構っている暇などない。そうかもしれない。芽依だってきっとそう思う。

 一年生の時に自分たちで部活を立ち上げて、皆で一生懸命頑張って、努力してきた。全国大会まで行って、すごく嬉しかったはずだ。ただひたすら練習をして、上へ上へ目指して……。

 相田の言葉はおそらく間違っている。先輩たちは、本当に練習したいだけなのだろう。

 一年生を邪魔者扱いしたいからあんな態度をとったのではないはずだ。こんな辛い練習を毎日積み重ねてきて、四星術の楽しさ、一番大切なことが分からないはずがない。芽依は、先輩たちがこなしてきたメニューを体験したことで、そう感じていた。

「よし! じゃあ、今日はここまで。着替えて帰ろっか!」

 花夏の声が響く。

 凛とした、強くて優しい声音だった。

「ほら! いつまでも寝てないで立って! 早くしないと校門閉まるよ!」

 芽依とテルはゆっくり身体を起こす。

「よし。それぞれ着替えて校門前集合で!」

「了解です」

「分かりました」

 花夏の行動が一致しないわけが、分かった気がする……。





 花夏と分かれた後、一年生三人は一斉にため息をついた。

「なんか、やる気そがれた感……」

「だよね……」

 テルも同じことを感じたらしい。

「え……なんのことですか?」

 詩月だけは違ったようだ。

「いや、花夏先輩がどうして俺らに協力しつつもあくまで三年生側に立ってるのか分かるなって話」

 花夏は自分の立ち位置を変えていない。いろいろめんどうを見てくれてはいるが、ついさっきも情報を売りたくないと質問を受け流していたし、必要以上の会話もとっていない気がする。黒江やリタと同じく、練習に集中したいという気持ちがあるのだろう。先輩チームの一員であるということを、常に考えているように見える。

 しかし、その一方で一年生たちに申し訳ないという気持ちがあるのではないかと思う。黒江が『一年は邪魔だから帰れ』と言った時も、『そんな言い方はないでしょ』と注意していたのが良い証拠だ。だからこそ、危険を冒してまで学校の備品を取って来てくれたり、練習方法を伝授してくれているのだろう。

 それらのことが結果として、花夏は一年生に協力しつつもあくまで三年生側にいるという一見矛盾した状況を作り出しているのだ。

「でも、一年生を邪魔だと言い切るのは許せないんだけどな……」

「……だからわたしは試合に出たくないんです」

「中里さん?」

 芽依の呟きに詩月が反応した。

「その……わたし、最初から先輩たちの気持ち、理解できてました。一年生に構わず自分たちの練習をしたい。すごく分かるんです……。えと……だから……」

「じゃあ、『一年生の皆に迷惑をかけたくない』って理由は?」

「あ、それも、だからこそです。わたしは、先輩たちの気持ちが理解できる。だから、試合をするってなっても……本気でやれないかな、って……」

 最後に「でも、一年生を追い出そうとするのは悪いことだとは思いますが」と付け足す。

「なるほどね……」

 詩月の言うことは芽依にもよく分かった。

 先輩たちに不満があるのは嘘じゃない。いくらなんでも、「一年は邪魔だから帰れ」なんて酷いと思う。それは変わらない。

 ただ、花夏に先輩たちが積み重ねてきたトレーニングの一端を見せてもらったことで本気で戦いにくくなったのもまた事実だ。これまでただの反抗心だけで動いてきたが、どうにも気持ちが落ち着かない。こんな状況で試合に出ても中途半端なまま終わってしまうだろう。

それは確かに、一年生の皆に申し訳ない気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ