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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第三章
12/33

練習

「やっほ~みんな! 元気にしてたかい?」

 事の顛末をテルと詩月にかいつまんで話したところ、「やっぱりね」という反応が返ってきた。最初から望み薄だと思っていたようだ。

 部活終了後、花夏がやってこないかと待っていたら案の定、ハイテンションで入場してきた。今日もお馴染みのフクロウフードをかぶっている。

 ちなみに、今日の部活は校内清掃。どこのボランティア団体だよと皆で突っ込んでいた。

「花夏先輩を待ってた俺らが言うのもなんですけど、大丈夫なんですか? 黒江部長とかに見つかったらマズイんでしょう?」

「大丈夫。ちゃんと見つからないよう注意してるから……ん? 私のこと待ってたってなにか用事でもあった?」

「いや、別に。ただ、今日も来てくれるのかなと思ってただけです。……あ、でも質問いいですか?」

 ふと、聞いておきたいことがあったので手を上げる。

「なになに?」

「先輩方のベストメンバーで誰なんですか? やっぱり部長と、花夏先輩、それから金髪ショートヘアーの先輩辺りですか?」

 聞き終わると、花夏は何故かニヤリと笑う。

「ふふふ。私がそんなことを教えるとでも?」

「教えてくれないんですか? かわいい後輩からの質問ですよ?」

「やっだよ~」

 子供みたいに舌を出してあっかんべをする。

「それはまた……。どうしてですか?」

「私は先輩チームの人間だからね。敵に情報は売りたくないの」

「……」

 やはり、花夏の言うことは統一性がなかった。

 先輩チームの人間だというならどうしてここに来ているのだろうか。

「それよりさ、英くん」

「なんですか?」

「金髪ショートヘアーの先輩はないんじゃないかな? あの子にはリタっていう名前があるんだからさ。そう呼んであげなよ」

 あの人の名前はリタというのか。初めて知った。

「でも、黒江部長や花夏先輩はともかく、ほとんどの先輩とは無関係なままですから名前んて分かりませんよ?」

「あ、それはそうかも……。ごめんごめん」

 ぽりぽりと鼻の頭をかいて花夏は謝罪してくる。

「あの……練習しませんか?」

「ん?」

 詩月から提案。

 時計を見ると七時近くになっている。校門が完全に閉まるのは八時過ぎ。着替える時間も入れるともう一時間も練習する時間がない。

「そうだな。時間もないし練習するか……」

「だね。でも、練習ってなにすればいいの?」

「う……」

 テルの的確な突っ込みに固まる。

 四星術の練習などしたことがない。ここは経験者である詩月に頼むべきか。

「あ、それなら持ってきたよ!」

「先輩?」

 広げられる一枚の紙。

 かなり年季が入っており、ところどころ破れている。

「これはなんですか?」

「私たちが一年生の頃にやってた練習表。今とそんなに変わらないから、良かったら使っていいよ」

 目を落としてみると、そこには普通の持久力をつけるためのトレーニングや、字面を見ただけでは何をするのか分からない練習まで数々のメニューが記されている。

「えーと、まずランニング十キロ……十キロ!?」

「へ? そんな驚くこと?」

「いや、え、先輩。これマジでやったんですか?」

「うん」

 事も無げに頷く花夏。

 よくよく見ると、基礎トレーニングはかなりハードな内容になっている。しかも休憩時間がほとんどない。

「じゃあ、とにかく走ってこようか~! 今日は初日だし五キロでいいよ」

「え、あの……」

「ほら、早く行かないと他のことできないよ!」

 無理矢理外へ追い出される一年生三人。

 花夏は追い出すだけ追い出すと部室内へ戻る。

「どうする?」

「どうするって、走るしかないでしょ……」

「はい……」

「あ、おい、ちょっと待てよ」

 先に走り出した二人を、芽依は慌てて追いかけた。





「終わりました……」

 意外にも最後まで余裕があったのは詩月だった。男としてはかなり情けなさを感じながらもなんとか五キロ走りきった。

「お疲れ~。んじゃ、五分休憩ね」

 部室へ戻ってくると、花夏が爽やかな笑顔で出迎えてくれる。

「花夏先輩なにしてるんです?」

 何故か花夏は逆立ちをしていた。

「ん~? 別に意味はないかな?」

「ないんだ……」

 突っ込む元気すらない。三人ともぐったりと椅子に倒れこむ。

「よし、次行こうか!」

 息がようやく整ってきた頃、花夏がぱんぱんと手を叩いて言う。

「え、もうですか?」

「大丈夫、次のは楽だから」

「分かりました」

 若干ふらつきながら花夏の後を追う。

 運動不足とはまさにこのことだ。中学時代はなんやかんやで部活とかしている暇がなかったからまるで運動していないのだ。

 四星術場に着くと、花夏は指令塔へ登る。

「なにするんですか?」

「簡単だよ。私が言った方向にステップしてくれればいいだけだから!」

「ステップ? 反復横とびみたいな感じのですか?」

「そう。そんな感じ」

 なんの練習なのかはよく分からないが、確かに楽そうだ。ただ走るだけのトレーニングよりは良い。

「懐かしいけどやりたくない……」

「詩月ちゃん?」

「これ、すごく疲れますよ」

「え?」

 詩月の言葉を聞きつつ、足を肩幅くらいに広げる。

 ぶつからないよう間隔を空けて準備完了。

「それじゃあ行くよ!」

「はい!」

 と、答えた瞬間、

「前! 右! 後ろ! 前! 右! 左! 前! 左! 後ろ! 右! 前!」

 早い!

 聞こえた瞬間に動いていないと次のステップが間に合わない。

「左斜め前! 後ろ! 右! 右斜め前! 前! 左! 前! 左斜め後ろ!」

「くっそ!」

 なにが楽だと全力で突っ込みたい。が、突っ込むことすらできない。息を切らしてなんとか着いていく。他の二人のことを構っている暇などない。自分のことで精一杯だ。

「反応悪いよ! 前! 後ろ! 左! 右斜め前! 右! 左! 前!」

 いい加減、辛くなってくる。五キロ走ったあとにこれはキツイ。

「詩月前! 英後ろ! テル右! テル左! 英右! 詩月左斜め後ろ!」

 今度は一人一人違う動作を指定してきた。他の人の時に動きそうになるが、なんとか堪える。自分の名前が聞こえた時のみ反応する。

「英前! テル左! 詩月右! 英左斜め前! テル後ろ! 英右! 詩月前!」



 これが、十五分間続けられた。


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