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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第三章
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スフレメイプル?

 翌日の昼休み。芽依は約束どおり一年二組の教室を訪れた。

 相田の姿を探すとすぐに見つかる。あれほどの長身は学年に十人といないだろう。

「相田、ちょっと話があるんだけど、いいか?」

「誰だお前」

「酷いな!」

 相田は読書中。触ってないのに勝手にページがめくれている。

 どんな能力か詳しくは分からないが、印章によるものだろう。

「印章格闘技術部の英芽依だよ。忘れたのか?」

「あー…………忘れた」

「おい!」

 読書の邪魔だからあっちへ行けと言わんばかりの対応だ。いや、事実そう思ってるのかもしれないけど。

「うるせえな。なんのようだ? スフレメイプル」

「俺はそんな美味しそうな名前じゃねえ!」

「じゃあなにがいいんだ?」

「なにがいいって、名前になにがいいもないだろ」

 相田はバンと本を閉じると立ち上がる。

「そんなことどうでもいいだろ。用件を手短に、簡潔に述べろ」

「上から目線は気に入らないけど……。まあ、いいか」

 芽依はため息一つ、本題を口にする。

「昨日、中里さんから聞いた。四星術の経験者なんだって? それも中学じゃキャプテンだったとか」

 舌打ちが聞こえたが無視する。

 余計なこと言いやがったな、とか考えてるんだろう。

「まだ実は、先輩たちと試合するメンバーが集まってないんだ」

「で、俺を誘いに来たってか?」

「いや、それもあるんだが、その前に一つ確認したいことがある」

「確認したいこと?」

 訝しげにこちらを見る相田に、芽依は昨日思いついた仮説を口にする。



「相田、お前、中里さんのことが好――」



「それ以上言ったら本気で殺すぞ?」

 大正解だった。

 殺意のこもった目で睨みつけられるが、全く恐くない。黒江の睨みに比べたら天と地ほど差がある。というより耳まで赤くなってるから笑ってしまいそうになる。

「じゃあ、ちょっとこっちに来てくれ」

「どういうつもりだ?」

「いいから」

 二回目の舌打ちが聞こえたが、素直に着いてきてくれた。

 自分のトップシークレットを知った人間に逆らう気はないのだろう。

「さて、と」

 屋上へ続く階段の踊り場。屋上は使用禁止になっているためか、誰もいない。

「優しい相田にお願いがある」

「誰が優しいって?」

 全力で不愉快だという視線を送ってくる。

「だって、自分がやめても中里さんがこれ以上困らないよう、最大限の配慮をしたんだろ? 中里さんがメンバーに入れば勝率は格段に上がるし、なにより友達ができるきっかけになる。それにあの場で試合を受けろと言ったのもそうでもしなきゃ――」

「用件だけを簡潔に述べろと言ったはずだが? くだらない憶測はやめろ」

 相田は背を向けて、苛立ち半分恥ずかしさ半分といった感じで芽依の言葉を遮る。

 芽依は再び笑いそうになったが堪える。ここで笑ったら本当に半殺しにされるだろう。

「分かった。じゃあ、簡潔言う。試合のメンバーになってくれ」

「断る」

 ばっさり切られた。

「中里がなにを喋って、お前がどんな推測をしたのか知らんが、俺はあの先輩たちと部活なんてやりたくない。あの場で助言したのは……悔しいがお前の言うとおり、中里が今後あの部でやっていける可能性を残すためだ」

「ならさ、なおさらメンバーになってくれないか? 初対面とはいえ明らかに中里さんは怯えてたぞ? コミュニケーションを取るのにどれだけ苦労したか……」

「初対面でコミュニケーションが取れれば十分だ」

「はい?」

「中里の中学時代を知らないからそんな風に思うのかもしれないが、大変なものだったんだぞ? 部活にきた当初は誰が話しかけても会話が成立しないしまるで意見が聞けない。教師すらお手上げという状態だった。恐がられていようが、ちゃんと話せているならそれだけで十分だ」

「それ、マジか?」

「大マジだ」

「……」

 言い返せない。

 中学時代の詩月など知らない。もし相田が言うようにチームメイトどころか教師までお手上げだったというなら、昨日、あれだけ会話ができていたのは奇跡に近いことだったのだろう。理由の一つとして、テルがやたら上手くなだめてくれていたというのはあるが、それでもとても凄いことだったのだろう。

「じゃあ、相田はこのまま本当にやめるつもりなのか? 中学ではキャプテンもしてたんだろ?」

「だからこそだ。ああいう、四星術の練習をしたいとか言って、結局何も分かってないようなやつらとは絶対やりたくないんだよ。あれじゃあ、仲間割れしてるだけだろうが」

「……」

「あの先輩たちはどうせ、練習したいっていうことを口実に、ただ一年を邪魔者扱いしたいだけだろ。自分たちで創ったんだがなんだが知らないが、このままじゃどうせあの部活はそのうち潰れる。誰もあんな先輩に着いて行こうとは思わないだろうからな。そんなとこにいたって無意味だろ。それなら、中学のメンバー集めてやってた方がまだマシだ」

 芽依は、頷かざるを得なかった。

 勢いで正面から立ち向かう形になっているが、相田のようなやり方も正解の一つだと思ったから。特に黒江や金髪ショートヘアーの先輩を思い出すと、その気持ちは強くなる。

唯一、花夏だけは毛色が違ったように思えるが、彼女は彼女で不自然な点が多い。信頼できる存在ではなかった。

「用件はそれだけか?」

「……ああ」

「じゃあ、そういうことだ。俺はメンバーに入る気はねえよ。ま、応援はしててやるから精々頑張りな」

 相田はそれだけ言い残して、階段を下りていく。

「こりゃ無理かな……」

 手近な壁に寄りかかってため息をつく。

 まさか詩月がそこまで内気だったとは思いもしなかった。彼女があまり上手くコミュニケーションを図れてないと言えば入ってくれるかも、と考えていたが甘かった。中学時代の話を持ち出されてはこちらは黙るしかない。

 それに、そうでなくても、相田はメンバーに加わることはなかったように思う。相田は心から先輩たちに対して嫌悪感を抱いているようだった。例え詩月のことがあっても首を縦に振ってくれたかどうか……。

「どうすっかな……」

 芽依は頭をガリガリかきながら階段を下りた。


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