プロローグ
英芽依は考える。
部活とはなにか?
部活とはどういう場であるのか?
部活とはなにをする場所であるのか?
普通、『部活』と言えば一つの目標に向かって皆で努力を積み重ねる場所。練習に励む場所。そんな感じではないだろうか?
先輩や教師、あるいは監督に指導してもらい、上達できた喜びを味わう。時には上手くいかなくて泣いてしまうことだってあるだろう。けれどそんな辛いことですら、後で思い返すと輝かしい思い出になる。
技術だけじゃない。部員と仲良くなり、皆でなにかに向けて頑張る。そのことにだって大きな意味がある。時には意見が合わずに対立してしまうことだってあるだろう。けれどそんなことですら、後で思い返すと大切な思い出になる。
もしかしたらいじめられるかもしれない。仲間外れにされるかもしれない。それは決して良い思い出にはならないだろう。けれど、その過程があるからこそ仲間外れにされることの苦しみを知ることができる。だから他人に優しくなれる。
英芽依は考える。
部活とはなにか?
部活とはどういう場であるのか?
部活とはなにをする場所であるのか?
「芽依」
「なんだ?」
「行くの?」
「……まあな」
目の前には三人の先輩方がいる。
先ほど、部室で備品整理をしていたら、先輩たちが入ってきた。そこで言い渡された指示に、他の一年生は呆然としている。というより、なにを言われたのか理解できないという雰囲気だ。
「やめた方がいいんじゃ……」
「いや、ここで何もしなかったらなんでこの部活に入ったのか分からなくなる」
「それはそうだけど」
真っ黒な髪の毛をポニーテールに結んだ少女が心配そうに話しかけてくる。
芽依はその少女に「大丈夫だよ」と優しく言い、立ち上がる。
そのまま、先輩たちの前まで歩み出る。
後ろの一年生たちから注目を浴びてるのを感じるが、芽依は動じない。
昔から、こういう場面でものを言うのは慣れていた。
「黒江部長、ですよね?」
「そうだが? なんだ一年。なにか文句でも?」
心底自分が悪いと思っていない態度に苛立ちつつ、芽依は言葉を紡ぐ。
「先ほどの指示はどういう意図があるんですか?」
「どうもこうも、言った通りの意味しかないが?」
芽依は鋭い視線を黒江に向ける。
そして、さっき言われた言葉をそのまま返す。
「つまり、一年は邪魔だから帰れ、一年はいなくても問題ないから帰れ、一年はこの部活に必要ないから帰れ。これらの言葉はそのままの意味だと?」
「その通りだが、なにか問題でも?」
本当に、自分はなにも悪くないという風に返されて、芽依の中でなにかが切れた。