第七話
夏休みも終わり今日から新学期が始まる。俺はいつものようにベットから起き出し、キッチンで朝食と二人分の弁当を作った。そして坂下を起こしにいった。部屋に入ってベットに近づいて
「ご主人様、今日から新学期ですよ。起きてください」
と彼女を起こす。
「・・おはよう祐樹、・・・そっかぁ今日から新学期か」
「はい、朝食の用意は出来ておりますのでお早めに召し上がり下さい」
「そうだね」
俺と坂下は一緒にキッチンに向かった。朝食を食べている時に俺は話し始めた。
「ご主人様、首輪外して下さい」
「なんで?カワイイじゃん。そのまま学校に行ったら?」
「首輪してたら恥ずかしくて外に出られません!」
「嘘よ嘘、玄関で外して上げるから。それとこれ渡しておくね」
彼女がテーブルに置いたのは鍵と携帯電話だった
「これは・・・」
「この鍵は玄関の鍵よ。一緒に帰るつもりだけどね念のため渡したほうがいいと思ったの。それとあなた携帯持ってなかったよね、連絡する時に困るから私が貸してあげる」
「はい。ありがとうございます!」
実はクラスで唯一俺は携帯電話を持っていなかった。なぜなら両親が家にいないので頼めなかったからことと、しかも頼んだとしても携帯ショップが家からかなり遠いので自分で取りに行く事が出来ないのだ。
「じゃあ学校に行く途中で操作方法教えるから。ちなみに私のとお揃いよ」
彼女は色違いの携帯電話を出す。坂下は早々と食べ終わった。
「じゃ、早く玄関に来なさいよ。待ってるから」
「はい!」
俺も食べ終わり、使った食器を最近買った食器洗い乾燥機に入れた。
流石に食器を洗っていると身支度が出来ずに遅刻するかもしれないので俺が坂下に頼んだのだ。食器洗い乾燥機のスイッチを入れて洗面所で歯を磨き、髪を整えて自分の部屋に向かった。クローゼットを開けてメイド服を脱ぎ、制服に着替えた。鞄と財布、携帯を持って玄関に急いだ。すると玄関には坂下が退屈そうに待っていた。
「遅いわよ」
「申し訳ありません」
「じゃあ首輪外すから」
「お願いします、ご主人様」
坂下は素早く首輪を外した。風呂に入る時位しか外されないので少し首がスースーした。そして玄関に鍵をかけて二人で学校に向かった。 学校に登校中、俺は坂下に携帯の使用方法を聞いた。俺はパソコンや携帯などの電子機器が大好きで知識だけはあった。学校に着くまでに携帯をほぼ完璧に使いこなしていた。
「・・祐樹、あんたすごいわね・・」
「ありがとうございます。・・・」
「どうしたの?」
「いや、外では何て呼べばいいのかわからないので・・・」
「あなたに任せるわ」
「そうですか、わかりました」
そうしている間に学校に着いた。
坂下の家は学校まで十分かからない。
(ちなみに俺の家は学校まで電車で二十分、それから歩いて二十分かかる) 玄関に入ると回りの生徒の視線が突き刺さる。
靴箱の中はやはりラブレターで一杯だった。
ラブレターを鞄に素早く入れた。
教室に入った瞬間にクラスメートの目線が俺に注がれた。特に男子の視線が痛い。理由は解っている。俺の身体が女の子の身体になっていて、しかも女子の制服である。俺と坂下は席に着いた。やはり机の中もラブレターで一杯だったのでこれまた手早く全て鞄に詰め込んだ。学校に来る前と今では鞄の重さが若干重くなっている。
「祐樹、モテモテね」
「そっ、そんな・・・」
坂下はかなり怒っていた。前までは見て見ぬ振りだったのになぜ・・・?
学校での時間は順調に過ぎて行ったが、俺は学校に来てから男女問わず質問責めにあっていた。
「夏休みに何してた」
など普通の質問が一割未満で、
「どうしたのその身体?」
とか
「どうして女子の制服を着てるの」
など、外見の変化について聞かれるのが九割以上だった。その度に、
「夏休みに身体が急に変化してしまった」
「男子の制服が着れなくなったので先生に相談したら女子の制服を着ることになった」
と説明していた。俺の席に人が集まり、質問責めをするので前の席の坂下はかなり迷惑がっていた。そして彼女は突然俺の耳に小声で
「お仕置きね」
と囁いた。俺はその囁きで身体が凍り付いた。しばらくして学校生活で困る事が判明してしまった。トイレや体育の時の着替えなどである。俺の外見は女なのだが中身が男なのでどうしようか困っていた。すぐにどうしようもなくなって坂下に相談することにした。
「トイレとか着替える時とかってどうすればいいの?」
「女の子って事でいいんじゃないの?あなたの事を悪く思っている人なんて学校にいないでしょ。ていうか男として着替えたりトイレに行ったりしたらあなた大変な事になるわよ」
俺はこの身体で男として生活することを考えた。地獄が頭に浮かんだ。しかし女として生活することを考えてもやっぱり頭には地獄が浮かんだ。結局どちらも地獄である。
「・・そうですよね・・」
それから俺はトイレにいくときは回りに誰もいないことを確認して素早く女子トイレに駆け込んだ。
外見が女なので見つかっても大丈夫と思ったからで、男子トイレだと見つかったらただではすまない。なので女子トイレにすることにした。トイレに関しては坂下の家で慣れているので問題無かった。 放課後、何とか新学期初日を終えた俺は精神的に疲れ果てていた。しかし俺はこのあと坂下の家でメイドとして働かなければならなかった。憂鬱になっていると坂下から
「帰るよ祐樹。あなたどうしたの?」
「何でもありません。大丈夫です」
俺はゆっくり立ち上がり、ラブレターで重くなった鞄を持って歩き出した。
靴箱の中もやっぱりラブレターで一杯だったが男女の比率が違っていた。今までは女子が多かったが今の靴箱は男子の比率が多くなっていた。女子のラブレターの数が下がったのでは無く、純粋に男子のラブレターの数が多くなっていた。ラブレターの量が多く、鞄に詰め込むのに困っていると坂下が背後に立って俺の耳に小さく
「あと十秒で鞄にラブレター仕舞わないと帰りに私の鞄持って貰うから」
と囁く。坂下の囁きが俺の頭に響いた。何とか必死にラブレターを詰め込んで立ち上がり
「詰め終わりました!」
と報告した。
「残念、持って貰うから」
「まだ十秒経ってません!」
実際は六秒くらいである。
「私のカウントはととっくに十秒を過ぎてるわ。何か文句ある?」
「・・ありません・・」
俺は渋々彼女から鞄を受け取った。しかし最近感じているのだが力仕事が全く苦にならないのだ。家で家事をしても全然疲れないし、今も鞄を二つ片手に持っても全然重さを感じないのだ。以前は鞄を持って駅に行くだけで腕が疲れていたのに・・・。
「あの・・」
「どうしたの?」
「鞄を二つ持っても全然重くないのですが」
「ふ〜ん、家で仕事してるからじゃないの?仕事するにはそのほうがいいじゃん」
「そっ、そうですね」
前にも記述したが祐樹の体力が上昇したのは仕事をしているからでは無く、毎晩坂下が祐樹の部屋に忍び込み投与している肉体強化液のためである。何故祐樹は気付かないのか?それはこの薬には実は副作用があって強い睡眠作用があるのだ。そのため祐樹は気付かないのである。 彼女に投与されている薬のお陰で今の祐樹はオリンピック金メダル級のアスリートを越える身体能力を持っている。
しかも身体は普通の女子高生の身体である。彼女がこの薬を祐樹に投与した理由は家事をさせるのに必要な体力を付ける為である。
(薬の効果が出て来たわね。
家で格闘技のトレーニングさせてみようかな?外見はか弱い女子高生、しかし実は最強の格闘家・・・凄く面白い!早速やってみよう!)そして俺は坂下の命令で毎日家で仕事がない時に格闘技の稽古をみっちりやることになった。俺は身体を動かす事が好きなので格闘技の稽古はいい運動になった。
(ちなみに祐樹のいい運動と言っている稽古はトップアスリートでも数十分で根を上げるほど超ハードである)俺はすぐに俺は格闘技をマスターした。しかし学校、家事、稽古と超ハードスケジュールを送っていたが俺は全てを完璧にこなしていたし、なぜ坂下は俺に格闘技を習わせたのかは不明なのだが深く考えないようにした。今は暇な時間があれば坂下の家のトレーニング室で汗を流すようになった。