第三十二話
俺達の学校は体育祭のシーズンになり今クラスでは体育祭の各種目に出る選手を決めている最中だが相変わらず坂下がクラスを仕切っている。(まあ別に問題は無いのだが)坂下は俺に近づいて話し出す。
「もうすぐ体育祭ね、ユキ〜私凄く楽しみ〜」
「そうですか?」
「あらテンションが低いわね」
「嫌な予感がするもので」
「嫌な予感ってなに?答えて」
「嫌です」
「ふ〜ん」
坂下は素早くポケットから首輪を出して俺の首に嵌める。
「なんであるんですか?」
「いつも念のために持ってきてるのよ」
「壊していいですか?」
「駄目、早く質問に答えて」
「・・私が種目すべてに出させられるんじゃないかと不安なんです」
体育祭のルールでは全員が一種目以上出ていれば個人がいくつ掛け持ちしても大丈夫となっていて、俺はかなりの数を掛け持ちさせられるのではないかと不安なのだ。しかも先日体育の授業で俺は種目を決める参考にするとは知らずに実力を発揮してしまった。
「そんなこと?大丈夫よ、ユキは出られるすべての種目に出てもらうから」
(やっぱりか・・)
「・・ご主人様が決められたなら私は別にいいですけど、もう少しメイドを労ってくださいよ」
「じゃあこれがあなたが出場する種目のリストよ」
(無視かよ!しかもいつの間に決めたんだ?)と坂下は俺に紙を渡し俺はぼんやりと紙を眺めた。やはり運動部に所属している男子の名前がびっしりと書いてある。所々に俺の名前があったのでチェックした。
「ご主人様、酷いですよ。私が全種目の九割に出てますよ」
出ていないのは男子の二百メートル走ぐらいである。
「ユキなら大丈夫でしょ」
「そうかもしれませんけど・・私が本気出したら大変な事になりますよ」
「どんな?」
「各部活から死ぬ程勧誘がきますよ」
「断ればいいじゃない」
「・・わかりました。早く首輪を外して下さい。とっても恥ずかしいです」
「ネコミミを出したらいいわよ」
「なんでですか?」
「萌えるから」
「・・一瞬だけですよ」
俺はネコミミを出すと坂下は抱き着いて来た。
「やっぱり萌える〜」
(なんで俺はこんな人を好きになったんだろう・・)
俺はネコミミをしまって坂下を引きはがした。
「ユキ、なんで?」
「ご主人様、ここ学校ですよ。それに首輪外してもらわないといけませんから」
「しょうがないわね・・」
坂下は渋々首輪を外した。
それから数日が過ぎて本日は坂下が待ちに待った体育祭当日である。
俺はいつもより早く起きて弁当を作り始めた。俺と坂下とクラスの女子の分はもちろん先生の分と他のクラスにも販売すると学校帰りに言われたためスーパー(といっても高級食材を沢山おいている坂下ご用達の店)で食材を買いまくって今料理をしている。なんとか料理を作り重箱に詰め終わると調度坂下を起こす時間になってしまった。坂下の部屋に入りベットでぐっすり眠る彼女に声をかけた。
「ご主人様起きて下さい。今日は体育祭ですよ」
すると勢いよく起きた
「おはようユキ」
「おはようございます、ご主人様。朝食は出来ておりますのでお早めにお食べ下さい。私はナツを起こしますので」
「わかったわ」
「失礼します」
俺は坂下に頭を下げて部屋を出て自分の部屋にいるナツを起こした。今日は人型でベットに寝ている。
「ナツ、起きて朝だよ」
「・・おはよう、おねえちゃん・・」
「早くご飯食べよ」
「うん」
俺はナツを連れて行った。すると坂下は朝食を食べずに待っていた。
「ユキ、ナツ早く食べましょ」
「は〜い」
「はい」
俺達は一緒に朝食を食べた。
「そういえばユキ、皆の昼食を作ってくれた?」
「作りましたけど急いで作ったので味が不安です」
「今まであなたが美味しくない料理を作った事は無いから大丈夫よ」
「ありがとうございます、ご主人様」
「あと学校に行くときにメイド服を持って行ってね」
「なぜですか?」
「体育祭で着るのよ」
「いいんですか?」
「余り派手じゃなくて担任の先生が止めなきゃいいって」
(メイド服は派手の部類に入るんじゃないか?先生が止める訳ない・・むしろ着てほしいって言うかも・・)
「せめてメイド服のスカートを長くさせて下さいよ」
「なんで?」
「このスカート丈だと競技してるとパンツが見えますから」
「いいじゃない」
「・・お昼ご飯がどうなってもいいんですね?せっかくデザートまで作ったのに・・まあ私の料理を欲しい人は沢山いますし無駄にはなりませんから」
「卑怯よユキ・・」
「ナツ、デザート食べる?ご主人様がくれるって」
「うん!」
「わかったわ。だからやめて」
「最初から素直ならこんな事はしませんのに」
「おねえちゃん、デザートは?」
「ちゃんと冷蔵庫にあるから大丈夫よ。帰って来たら食べてね」
「おねえちゃんありがとう〜」
俺は時計を見ると家を出る時間になった。
「もうこんな時間ですよ」
「早いわね〜じゃあユキ、学校に行くわよ」
「はい」
そして俺は鞄とメイド服を入れた紙袋と大量の料理が入った重箱を持って学校に向かった。
そして体育祭が始まった。開会式は全校生徒の服装は体育着だったが競技が始まる前にちらほらとコスプレしている人がいてもちろん俺は持ってきたメイド服に着替えさせられた。幸か不幸かクラスの女子は着替えなかった。
「絶対に優勝するわよ!」
「あんまりテンションが上がりませんけど」
「もし優勝したらあなたの願いを一つだけ叶えてあげる」
「本当ですか?」
「私が出来る範囲でね」
「わかりました。・・絶対に優勝して願いを叶えてもらいますからね!」
「ユキ、あなた怖いわよ・・」
「どうしよう〜願い事は沢山ありますからね〜」
そして競技が始まった。最初の競技は女子の百メートル走(俺は女子として競技に参加する)
女子でもコスプレして走る人がいるがメイド服を着ているのは俺だけだ。俺の走る番になると応援が一際凄くなり、スタートすると俺は全力で走る。もちろん順位はぶっちぎりの一位で世界新記録のおまけ付き、このため更に注目を浴びた。
「ご主人様、私恥ずかしいです」
「だったら全力を出して黙らせなさい!」
「はい!」
そして学年別トーナメントで綱引きが始まった。
もちろん俺達のクラスは注目を浴びる。
俺のポジションは一番後ろで、スタートすると互角の勝負を繰り広げる。
そして坂下が合図すると俺が綱をゆっくりと引っ張り同時にクラスの皆は綱を離す。俺は全力で綱を引くと相手のクラスがみんな引っ張られて転び呆然とした。なんせ四十人対一人でしかもか弱そうなメイドさんに負けたのだから。そしてこんな感じでどんどん勝ち進み決勝も勝ってしまった。
「作戦どうりね!」
「あれ作戦だったんですか?」
次の競技はボール投げだった。出場者は各クラス代表の男子と女子が一人ずつボールを投げて飛んだ距離の合計を競う。俺のクラスの代表は野球部の山本君と俺だった。
「山本君頑張ってね!」
「俺はほどほどに頑張るわ。坂本が頑張ってくれ」
そして俺達のクラスの順番がまわってきた。山本君は他のクラスの野球部の男子と互角の記録を出した。
「さすがです」
「じゃあ坂本、やっちゃってくれ!」
「うん!」
俺は本気でボールを投げた。すると野球部の男子を遥かに越える大記録が生まれた。他のクラスの人達は呆然としていた。
「わかってたけど凄いな・・」
「ご主人様の命令ですから」
そして午前の競技はどんどん進み競技は全力を出した俺のワンマンショーとなり途中経過を見ると俺達のクラスが独走状態である。
昼食の時間になりグラウンドで待っているみんな(女子のみ)に俺は重箱を持って来た。
「みなさんの口に合えば嬉しいです」
そして俺は重箱をみんなの真ん中に置いて箸を配り蓋を開けた。その瞬間に重箱の中で無数の箸が乱舞し料理がすぐに無くなる。
「坂本さん、とても美味しい!」
と声をかけられまくった。周りを見るとクラスの男子と先生だけじゃなく他のクラスの人達も見に来ていた。そして坂下はもう一つの重箱を持って料理を売り始めた。担任の先生も買おうとしたが俺がやめさせた。
「先生、まった!」
「どうして?早く買わないと!」
「先生の分を私が作って来ましたから大丈夫です」
「へ?」
と俺は弁当を渡した。
「坂本さん、ありがとう!」
「いつもご主人様がお世話になっているお礼です」
「いや、ご主人様にお世話になっているのは私ですから・・」
「まあ先生食べて下さい」
そして先生は弁当箱の蓋を開けて箸を持ち料理を一口。
「美味しい〜!」
「ありがとうございます先生。ちなみにこの箱には私お手製のケーキが入ってますからよかったら食べて下さい。何個かありますから他の先生にも味わってもらってください」
俺は先生に紙製の箱を手渡した。
「じゃあ先生、帰る時に私に弁当箱を返して下さいね」
「わかったわ。坂本さん、ありがとね」
そして坂下を見ると重箱と体育着の袋を持っていた。
「ご主人様、どうでした?」
「袋の中を見てみなさい」
袋の中を覗くと硬貨紙幣が大量に入っていた。(みんな財布持ってたんだ。競技の邪魔になるんじゃないかな?)
「凄いわね、生徒だけじゃなくて先生も買いに来たわよ。もっと作ればよかったわね」
(坂下、無理だ・・時間がいくらあっても足りない・・)
「そのお金どうするんですか?」
「ユキの料理で稼いだお金だから少しはもらえるわよ?」
「いりません。お金の使い道はすべてご主人様にお任せします」
「じゃあ優勝祝いでクラス全員にご馳走するわ」
たしかにその位の事が出来るお金が袋に入っている。
「気がはやいですね。まだ午前の部が終わっただけですよ」
「もう決まったも同然よ。ユキが手を抜かなきゃね。絶対に手加減しちゃ駄目よ」
「わかりました」
午後の部が始まった。
種目は主に男女混合のリレーで長距離(学校の敷地を一周)中距離(トラック一周)短距離(トラック半周)の三つをクラスの男女の代表が走る。
俺はすべての距離に出場して他のメンバーは全員陸上部だ。ちなみにリレーに出る女子は俺だけだ。(ルールではメンバー全員男子でも問題ない)俺のポジションは第一走者でリードを作る役目だ。スタートして俺はもちろん世界記録を越えるスピードで走り大量リードを奪った。その後はリードを守りきり一位になりすべての距離で同じような展開だった。
種目もすべて終わり閉会式が始まった。
俺達のクラスはもちろん学年一位で俺は女子のMVPをいただいた。(ちなみに男子のMVPは他のクラスの男子で坂下はちょっと苛立っていた)閉会式も終わり全校生徒で片付けが始まったが、俺は片付けでも実力を発揮して先生達が予定していた時間を大幅に前倒しさせた。服をメイド服から制服に着替えて教室でホームルームを終えると坂下が話し掛けてきた
「ユキ、MVPおめでとう!」
「ありがとうございます、ご主人様。・・そういえば優勝したら願いを一つだけ叶えてくれるんでしたね?」
「(覚えてたか・・)私が叶えられる願いだけよ」
「う〜ん、特に願いはないので保留にしていていいですか?」
「・・あなた欲がないわね」
「そうですか?」
「じゃあ私があなたにお願いをするわ」
「何ですか?」
「優勝祝いに何かご馳走するって言ったらクラス全員があなたの手料理が食べたいと言うのよ。だから料理を作って欲しいの」
「ご主人様の家でなら食材もありますし招待しますか?」
「そうするわ」
すると先生が近づいて来た
「坂本さん、ご主人様、優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます先生」
先生は俺に弁当箱を返す
「お弁当凄く美味しかったわ」
「ありがとうございます」
「先生から一つお願いしてもいい?」
「何ですか?」
「坂本さんからもらったケーキを他の先生に配ったらある先生が特にはまっちゃってね。もしよかったら坂本さんの手料理を食べたいって言うのよ。もちろん他の先生もね」
「ちなみにある先生って誰ですか?」
「・・校長先生」
「本当ですか!」
「校長先生甘い物が好きで箱の中にあったケーキを一つ食べちゃって。味を絶賛しちゃってたわよ」
実は俺の通う高校の校長先生は全国でも珍しい女性でまだかなり若い。(やはり若い女性は甘い物が好きなんだな)
「私はいいですけどご主人様が駄目って言ったら駄目ですよ」
「私は別に構わないわよ。家なら五十人位楽に食事出来るわ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ連絡したら来てね」
「わかりました。早速伝えて来ます!」
そして先生は職員室に向かった。
「いいんですか?」
「先生達と仲良くなるのは全然構わないわ」
「じゃあ早速帰って料理を作らないといけませんね。ご主人様は料理が出来たらみなさんに連絡をお願いします」
「わかったわ」
そして家に帰るとまたメイド服に着替えて料理を作り始めた。
さすがに料理が五十人前なので作るのが大変だった。ようやく八割方出来たので坂下に連絡をお願いするとすぐさまクラスメートが来て次に先生達が来た。(本当に校長先生も来た・・。仕事大丈夫かな?)ちなみにみんなは映画に出てくるような長テーブルに座っている。座っている順番は上座?から先生達、クラスメート、ナツ、坂下と座っている。
「皆様、私の手料理を食べに来ていただきありがとうございます。皆様のお口に合えば嬉しいです」
そして俺は出来たばかりの料理を出した。全員が料理を美味しいと褒めてくれた。特に甘い物好きの校長先生はデザートに出したケーキを何個もおかわりした。校長先生は
「こんな美味しいケーキはお金を払ってもいいわ!」
と言っていた。すると坂下に呼ばれ耳打ちを受けて校長先生に話しかけた。
「校長先生」
「坂本ユキさんだったわね。このケーキは絶品よ!」
「ありがとうございます。坂下さんが提案したのですけど、平日だけですが校長先生に私が作った甘い物をお届けしなさいと。どうですか?」
「たしか坂下美紀さんだったわね。なぜ坂下さんが?」
「私がこの料理や甘い物を作れるのはすべて坂下さんのおかげでして」
「こんな美味しい物が平日毎日食べれるのね!ぜひともお願いするわ!」
「そのかわりといっては何ですが条件がありまして・・」
「なに?」
「それについて坂下さんが話しをしたいと」
「わかったわ」
そして坂下と校長先生は部屋を出て行って、みんなは料理を食べ終わり帰った。
しばらくすると校長先生が帰った。かなり嬉しそうだった。
「校長先生と何を話したんですか?」
「あなたの作る甘い物を食べるための条件を交渉してたの」
「条件ってお金ですか?」
「いや、お金は一円ももらわないわ」
「じゃあ何ですか?」
「私とユキの学校での評価を上げてもらうのよ。こればっかりはお金を使うのはヤバイからね」
なんと坂下は俺の作る料理を校長先生に食べさせるかわりに評価を上げさせる約束をしたらしい。(つーかそれもヤバイんじゃないか?お金か甘い物かの違いだぞ?)
「ちゃんと契約書もあるわよ」
坂下は俺に契約書を見せる。坂下と校長先生のサインが契約書の下の方にあった。
「抜かりがないですね」
「もし評価が上がらなかったらもう校長先生に料理を作らなくてもいいからね」
「わかりました」
それから俺は毎朝作る料理は三人の朝食、俺と坂下の弁当、クラスの男女の昼食、それに校長先生に渡す甘い物となり、より早起きしなくてはならなくなった。校長先生に昼休みの決まった時間ピッタリに甘い物を届けにいくと毎回嬉しそうに待っていた。そしてとても美味しそうに食べていた。