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第三十一話

 ナツが小学校に入学して大分月日が過ぎてもう初夏です。初夏といっても体感温度は真夏そのものです。

「あ〜つ〜い〜」

この家のご主人様がソファーに寝そべり働いているメイドに文句を言っています。

「クーラーがあるんですから使えばいいじゃないですか。この暑さで仕事をする私の身にもなってください」

「もうクーラーは使ってるけど暑いの〜」

「だったら我慢してください。やっぱり私と働いて汗流しますか?」

「それは嫌」

「じゃあ我慢してください」

「おねえちゃん〜あつい〜なんとかして〜」

とナツがリビングに入ってくる

「氷でも置くか・・」

俺は物置からたらいを持ってきて中に冷凍庫に入っていた氷柱を入れて塩をかけた。

「おねえちゃん、なんでこおりにおしおかけるの?」

「氷に塩をかけると更に冷たくなるのよ」

「へ〜ほんとだ、つめたい!」

「ちょっとユキ、なんで私にやらずにナツにするの?」

「ご主人様もですか?」

「当たり前じゃない!」

「いらないと思っていました」

「そんな訳ないじゃない。・・ユキ、命令よ!今すぐ私を涼しくして!」

「畏まりました。その前にこの氷柱を置いてきますね。ナツ、部屋に戻ろう」

「うん!」

そして氷柱を俺の部屋(俺とナツは相部屋である)に置いてリビングに戻った。俺は冷凍庫のありったけの氷をいくつものたらいに入れて塩をかけて坂下の寝そべるソファーの回りに置いた。しばらくしてソファーの回りが涼しくなってきた。

「あ〜ユキ〜ありがとう〜。さっきより涼しいわ〜」

「ありがとうございます。それと今ご主人様とナツに大量の氷と塩を使ってしまったのですがいかがなさいますか?」

「塩は近くのスーパーで買ってきて、氷は氷屋に特注してるから。大きいけどあなたなら持てるでしょ」

「わかりました」

そして俺は近くのスーパーで塩を買いその足で今や珍しい氷屋で一立方メートルぐらいの坂下が特注した氷を買って帰った。(氷屋の主人は俺が氷を持って帰る姿を見てびっくりしていた)さすがにこの大きさの氷は冷たい。(ヤバイ、凄く冷たいし目立つ・・急いで帰ろう)

「ただいま帰りました〜氷を冷凍庫に入れて置きますね」

「よろしく〜」

そして素早く氷を冷凍庫に入れた。(凄い・・この氷が入った・・)

氷を冷凍庫に入れ終わりリビングに戻ると坂下とナツがソファーに寝そべっていた。

「ユキ〜お腹空いた〜」

「おねえちゃん、おなかすいた〜」

確かに時間は昼時だが俺は疑問が頭に浮かんだ。

「・・ナツはともかくご主人様はご自分で料理をして食べようとは思わないんですか?」

「だってこの暑い中に料理なんか出来ないわよ。しかも料理の上手いメイドのユキがいるんだし、私はご主人様なんだから料理をしなくてもいいじゃない」

「そーですか・・」

(なんて自分勝手なんだ・・)

「ご主人様はもし私がいなくなったら困りませんか?」

「確かにユキがいなくなったら凄く困るわね・・もしそうなったら私が世界中どこにいても必ず探し出して屋敷に連れ戻すから大丈夫よ」

(そんな力があるならその力を自分に使って下さい・・)

「余程の事がないといなくなりませんから安心してください」

「余程の事って?」

「ご主人様がナツに凄く酷い事をした時などですかね。万が一の場合にはご主人様に暴力をふるい永遠に屋敷には来ません。その後ご主人様が屋敷に私達を連れ戻そうとしましたら実力行使をしますので」

「・・あなたはいいの?」

「私は自分より妹のナツが大切です。それにご主人様が私にしてくれる事すべてはご主人様がする私への愛情表現だと思ってますから」

「ふーん、じゃあ昼ご飯よろしく」

「もうすぐ出来ます」

そして昼食が出来上がるが坂下はテーブルに近づかないどころかソファーから一歩も動こうとしない。

「ご飯できたんですから早くこないと美味しくなくなりますよ」

「無理・・このソファーから動けない・・」

「あんまり駄々こねると氷を私の部屋に持って行きますよ」

「やめて!ユキ〜ここまでご飯持ってきて〜」

「いいですけど私とナツはこっちで食べますから一人で食べてください」

「ユキ、冷たいわね・・ユキ、ナツこっちの涼しい所で一緒に食べましょ」

「は〜い」

「わかりました」

食事をもってソファーの横のテーブルに置いて昼食を取る。

「おねえちゃん、しゅくだいでわからないところがあるんだけど」

「わかったわ。ご飯食べたらすぐにやろうね」

「うん」

「随分とユキはナツを贔屓にしてるわね」

「私の妹ですから」

「じゃあ私は?」

「私のご主人様ですよ」

「じゃあ聞くけど私とナツのどちらを愛してるの?」

「それは・・」

俺は本気で悩んだ。妹であるナツと永遠に側にいると誓った坂下の一体どちらを愛しているのだろうと。

「おねえちゃん、どうしたの?」

「ユキ、泣いてるの?」

俺は気がつくと涙を流していた。

「私はナツとご主人様のどちらを愛しているのでしょうか・・答えを出せない駄目なメイドである私をお許し下さい・・ご主人様・・」

「ごめんねユキ、そんな答え出せる訳ないよね・・」

「本来はご主人様とお答えしなければならないのに・・申し訳ありません・・」

「・・そういえばあなたが駄目なメイドなんて言ったのは初めてね」

「私はご主人様に絶対服従、永遠に側にいると誓ったはずなのに・・」

「そうやって自分を責めないでユキ、元気だして」

「でも・・」

「おねえちゃん・・」

「ごめんねナツ、宿題のわからない所教えるんだったね。部屋に行こうか」

「うん」

「ユキ・・」

「失礼します、ご主人様・・」

俺はナツを部屋に連れていき宿題のわからない所を教えた。宿題はすぐに終わり坂下のいるリビングに向かった。リビングにはソファーで眠る坂下がいた。周りのたらいの氷が殆ど溶けていたので氷を補充した。

「ご主人様・・」

俺は坂下に呟きリビングを出て各部屋の掃除に取り掛かった。掃除をしていても先程の坂下からの

「ナツと坂下のどちらを愛しているか」

という質問が頭を駆け巡った。

(俺は坂下を一番に愛すべきだ。しかしたった一人の妹だって俺は・・)

俺の頭はまたもや葛藤を繰り返した。今回の葛藤は坂下の側にいる事を悩んだ時の比ではなかった。掃除を終えてリビングに入ると坂下はテレビを見てくつろいでいた。

「ご主人様・・」

「どうしたの?」

「私を助けて下さい・・」

「初めてね、あなたが私に助けを求めるのは」

「先程の質問の答えがどうしても出せないのです」

「あなたは私にどうしてほしいの?」

「私が永遠にご主人様を一番に愛するようにと命令して下さい・・」

「ナツはどうするの?」

「大切な妹ですけど私はご主人様のメイドですから・・」

「・・メイドがご主人様に命令させることをお願いをするとはね・・ユキ、この質問の答えを考える時間を与えるわ。そうね・・期間は無期限ね」

「えっ・・?」

「聞こえた?期間は無期限よ。期限が来たら必ず答えを言うのよ。これは命令だからね」

「わかりました、ご主人様!」

妹か坂下のどちらかを愛しているかという今一番辛い質問の答えを考える時間をもらってしかも期限は無期限なのだから。俺は坂下に抱き着いて泣いた。

「あなたがこんなに泣くのは初めてね」

「ご、ご主人様〜」

「あなたは私の質問に答えられなかった駄目なメイドね」

「そうです〜ユキは駄目なメイドです〜」

「お仕置きかな?」

「ご主人様〜駄目なメイドの私をお仕置きしてください〜」

「じゃあ行きましょうか」

俺は頷いて坂下にお仕置きを受けた。内容はご想像にお任せする。

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