第三話
夏休みも中頃のある日、俺は仕事も一段落して坂下の部屋でテレビを見ているが(坂下は俺になぜか部屋を与えなかった。恐らく俺と一緒に居たいからだと俺は睨んでいる)坂下は少し離れたパソコンを打っている。ネットサーフィンかな?とチラッと見えたが違う、どうやら文章を打っている。何が書いてあるか覗こうと近いた時に、呼び鈴がなった。どうやら宅配便らしいが坂下は宅配便が来たと知ると途端に、
「やっと来た!」
と叫び、段々と目が輝きだし、息が粗くなっていた。その姿を見た途端俺の本能は激しく警鐘を鳴らして
「今すぐ坂下から離れろ!!!」
と叫んでいる。俺は素直に本能に従い急いで部屋を飛び出て宅配便を受け取った。部屋に戻るのが怖い俺は扉の前に立つと扉を開けずに扉に耳くっつけて部屋の音を聞いた。そうしたら坂下の女子高生とは思えない荒々しい息遣いが聞こえたので、恐る恐る
「ご主人様宛てに宅配便が来ていますがどうなさいますか?」
と扉の前で報告した。すると部屋の中から
「とりあえず部屋の中に入って着て」
と聞こえた。
・・無理だ・・今俺にはこの部屋が野獣の檻、俺自信はか弱い子羊で宅配便は野獣の大好物のように見えているのである。勿論入ればどうなるかは火を見るよりあきらかだ。俺はまだ死にたくない・・・。しばらく扉の前でどうにかして安全に宅配便を渡すかを考えいると、扉のドアノブが微かに動いた。その瞬間、
「ヤバイッ!」
と思ってたが扉の隙間から見える野獣の目と俺の目が合ってしまい全身が凍り付き、ピクリとも動かない。そして気が付くと俺は宅配便と共に野獣の檻の真ん中に座っていた。 そしてただならぬオーラを放つ方向をゆっくり見上げると、目や口はまさに野獣という表現がぴったりの坂下がいた。俺は死を覚悟して
「あ、あの・・ご、ご主人・・様?・・」
と坂下に呟いた。
そうすると坂下は俺の横にある宅配便を手に取り、贈り主を確認した瞬間に包みを乱暴に引き裂いた。
(坂下・・・おまえ本当に女子高生だよな・・・)と心の中で呟くと坂下は宅配便の中身を取り出して俺に見せた。
それは革のような素材でできた真紅の輪とおなじ色をした紐であった。輪の直径は約二十センチぐらいで紐の長さは二メートルぐらいである。そして俺は瞬時にその二つが意味するものを理解して、野獣の檻から脱出を試みたが、扉に鍵がかかっていて外すのに戸惑ったせいで呆気なく部屋の主に捕まった。そして坂下は俺に
「祐樹、これ、な〜んだ」
と無邪気に聞いて来た。俺には早くこの問題を解決しないといけないと大変な事になるのは解っていたので正直に答えた。
「・・首輪とリード・・ですか?・・ご主人様・・?」
と小さな声で答えた。そしたら
「大正解〜!!!」
と言って近付いてきた。そして
「じゃ祐樹、付けましょうね〜」
と首輪を俺の顔の前に持ってきた。どうせ
「嫌です!」
って言っても後で寝ている間にでも無理矢理付けられるのだし今のうち面倒事になる前に手を打っておくか・・・そうして俺は坂下に
「お願い・します、ご主・人様・・」
と小さく呟いた。俺の言葉を言い終わるのとほぼ同時に坂下は俺の首に首輪を嵌めていた。すると坂下が俺の首輪から手を離れる直前に小さな金属音がしたが俺は気のせいと割り切った。
そして彼女は首輪にリードを取り付けた。
俺の首から離れる彼女の手は微かに震えていた。
おそらく坂下は俺にメイド服を着せ、首輪を嵌め、リードを繋いだこの瞬間に理性が限界なのだろう。
理性が飛んだ瞬間に俺の心身は大変なことになるのは間違いの無い。しかし逃げようにも、首輪とリードがそれを阻止しているし、第一俺が何か一つ行動しただけでそれが引き金になりかねないので俺は全く動けないでいる。つまり俺の身体が起爆装置で坂下が爆弾本体であるような感じである。 そして緊迫状態からだいぶ時間が経過して俺は坂下に
「ご主人様、そろそろ夕食の支度をしたいので、首輪とリードを取ってもらえますか?」
と起爆装置が働くのを覚悟で説得を試みた。すると坂下は
「お願いするわ・・・」
と返事を返した。
そしてリードだけ外すとパソコンに向かった。
俺は静かに扉を開けて坂下に頭を下げてから扉を閉めた。
(何とか不発ですんだか・・・)俺は命びろいをした。
最近はメイド服にも慣れて来た。
(誤解の無いように言っておくがメイド服は毎日洗濯している。実は彼女が持っているメイド服は一着だけではない。ある日坂下はある部屋に俺を案内した。その部屋は衣装部屋らしくクローゼットの一つを開けた。そこには大量のメイド服が掛けてあってしかも何種類もあるようだ。他のクローゼットを開けるとそこには様々なコスプレ衣装がギッシリ入っていた。 実は彼女は大のコスプレ好きで金をかなり使い込んでいる。 俺が呆然としていると
「なんならナース服で仕事してみる?女子高生でもいいわよ?衣装は沢山あるから」
と坂下は言い放つ。俺は(このままだと俺は坂下の着せ替え人形になってしまう。それだけは嫌だ!)と不安になり俺は坂下に
「お許し下さい・・ご主人様」
と呟き俺は観念した)
そして夕食の支度をしようとキッチンに向かう廊下で俺は首輪が気になって外そうとした。(坂下を呼んだ時にまた嵌めればいいか)と考えて外そうと試みた。
そして数秒後に諦めた。
理由は簡単、首輪に南京錠で鍵がしてあったからだ。あの時俺が聞いた音は南京錠が首輪に嵌まる音だったのだ。(どっからこんな首輪買ったんだ?)と疑問を持ちながら夕食を作った。そして夕食が出来上がり坂下を呼びに部屋に向かった。部屋の前で恒例?となった
「扉に耳をくっつけて部屋中の音チェック」
をすると微かにプリンタの音しかしない。少し安心して扉をノックして部屋に入り挨拶すると同時に
「ご主・・」
「出来たー!」
と坂下の声が部屋に響く。
「あ、あの・・ご、ご主人様?」
と俺が声をかけると、
「あ、祐樹?どうしたの?」
と坂下は俺に声をかける。そして俺は
「い、いや、夕食の準備が出来ましたので・・」
「ありがと、ゆ・うき・・」
と坂下は俺の話しの途中で俺に抱き着いた、いや、俺の身体に寄り掛かっているのだ。彼女はスースーと俺の腕の中で寝ていた 。俺は起こさないようにそーっと彼女を抱き抱え、静かにベットに寝かせた。(余程疲れているんだな)と彼女を見ていた。そして部屋を出ようとしたが、さっきまで彼女が使っていたパソコンが俺の目に入った。
「何印刷したんだろう」
と俺はパソコンの画面を見つめた。しばらくしてパソコンの電源を切って部屋の明かりを消して扉を閉めて部屋をあとにした。キッチンに着くと夕食を食べて、坂下の分の料理を冷蔵庫に入れて椅子に座り、パソコンの画面に映った物を思い出した。
「奴隷契約書だと・・・馬鹿げてる・・・」