第十九話
クラスの女子の島田さんが坂下家にバイトに来た時のこと。朝早くから坂下が何かの本を見せて俺と島田さんに言う。どうやらグルメ雑誌のようだ。
「ねえ、この本にあるこのケーキを食べたいの」
とその本の特集記事を指差す。
「ご主人様、そのケーキ屋さんは早朝から行列が確実に出来る事で有名なお店です。今からだとちょっと厳しいのでは・・」
と島田さん。島田さんは学校でも有名なグルメ通である。俺は嫌な予感がした。もしかしたら行列に並ばないといけなくなるからだ。
「しょうがないわね・・・。」
(ほっ、諦めてくれた・・・。)安心するがすぐに俺は絶望した。
「ユキ、ちょっと今から買ってきて。はいお金」
やっぱりか・・・。
俺はお金をポケットに入れて
「わかりました・・」
と小さな声で返事をして着替えようとした。
「服を着替えてる暇なんかないわよ。早く行きなさい。もちろん全力疾走で行くのよ」
と坂下に催促されたので俺はメイド服に首輪スタイルで玄関で
「ご主人様、いってまいります。島田さん、家の家事をよろしくお願いします」
と言い店に急いだ。
俺の全力疾走は世界記録を遥かに越えるスピードである。人目につきにきい道を通り店に着くと島田さんの情報どうりに行列が出来ていた。どうやら先頭は夜中から並んでいたらしく顔色が悪い。行列の最後尾に並んで数時間後、店が開店した。俺が店に入れたのは開店してしばらくしてからで目的のケーキは無くなっていると思っていた。・・・一方ケーキを待っている坂下と島田さんはというと。
「大丈夫かな〜ユキはちゃんと買って来れるかな〜」
「そうで・・・あっ!ご主人様!私大変な事を言うのを忘れていました!」
「どうしたの島田さん?急に大きな声を出して」
「実はあのケーキは余りにも人気があるために一人一個までしか購入出来ないんです。だから坂本さんが三人分を買って来る事は不可能なのです」
「わかってるわよ。本にお一人様一個限定と書いてあったわ。だからユキが一個買ってくればいいのよ」
「どうゆう事ですか?ご主人様?」
「ユキが買って帰って来ればわかるわ」
・・・そしてケーキ屋に入ったユキはというと
(あった!行列が凄いから諦めていたけど・・あっ!お一人様一個限定って書いてある。
どうしよう坂下に怒られる・・しょうがないから一個でも買って帰ろう・・)と俺はケーキを購入した。当然ながらメイド服の俺はケーキ屋さんの中でも当然目立つ。もちろん行列の中でも目立っていたので通行人の視線が痛かった。俺は購入すると素早く店を出てケーキが崩れないように細心の注意をはらって帰宅した。
「ただ今帰りました」
玄関で坂下が待っていた。
「ユキ〜遅いよ〜今何時だと思ってるの〜?」
「申し訳ありません。ただ今十一時二十三分です。ご主人様」
「うっ・・とりあえず戦利品を見せてちょうだい」
「こちらです」
俺はケーキを坂下に手渡した。
「申し訳ありません、ケーキがお一人様一個限定で一個しか買って来れませんでした。」
「わかってたわよ」
「へっ?」
「まずキッチンに来なさい」
「はい」
俺は訳がわからず坂下に付いていく。そしてキッチンに着くと
「お帰りなさい、坂本さん」
と島田さん。すると坂下はケーキを箱から取り出し三等分する。
「さあユキ、このケーキを食べてみて」
と言う。
「はい」
「島田さん、私達も」
「はい!」
俺と坂下と島田さんは同時に食べた。
「美味しい〜」
と二人。
「美味しいです!ご主・・」
その時俺の頭の中にケーキの材料とその作り方が出て来た。
「どうしたんですか?坂本さん」
と少し心配している島田さん。
「・・島田さん、紙とペンをご用意できますか?」
すると坂下は用意していた紙とペンを取り出す。紙とペンを受け取った俺は素早く俺は頭の中に浮かんだ物を紙に書き出した。数分後紙は俺の書いた文字で埋まった。そこに書かれていたのはあのケーキの材料と作り方だった。
「流石ねユキ、予想どうりよ」
「これってあのケーキのレシピ?」
「どうゆう事ですか?ご主人様」
坂下と俺は島田さんに聞こえないように囁き合う。
「実は睡眠学習でユキが食べた料理の材料や作り方がわかるようになったの」
「睡眠学習ってそんなに万能なんですか?」
「そうよ。そもそも一流の料理人なら出来る事よ(漫画の世界だけど)。私の理想のメイドであるあなたが出来ない事ではないわ」
「そうだったんですか・・」
そして島田さんにも聞こえる声で言う。
「じゃあユキ、このケーキを再現してみなさい」
「はい!」
と返事をする。
「その前にお昼ご飯ね」
軽くずっこける俺。
そして昼食を終えると
「今度こそケーキを再現してみてね。ユキ、期待してるわよ!」
「はい。ご主人様!」
そして三時頃にケーキは出来上がってテーブルに置いた。テーブルには今か今かと坂下と島田さんは待っていた。外見は完璧に買ってきたケーキと同じだ。そしてケーキを二人(坂下と島田さん)同時に食べる。
「味はどうですか?」
「美味しい〜さっき食べたのと同じです〜」
と島田さん。
「流石ユキね、完璧よ・・」
と坂下
そして俺も一口・・そして俺は言った言葉は
「美味しい!」
とコメントするが、その直後言った言葉は
「オリジナルとの適合率は九十九パーセントですご主人様」
だった。
「あと一パーセントは何なの?」
「私の料理の腕です。大変申し訳ありません。ご主人様」
と俺のは頭を下げた。
「まあ今はこれで十分よ。早く完璧に再現出来るようにね」
「凄いです坂本さん!」
「畏まりました、ご主人様。島田さん、ありがとうございます」
そして夜になり島田さんがバイトを終えて帰るので俺と坂下は見送りに玄関まで来た。彼女は玄関の機械に腕輪を近付けていた。すると機械からピッと電子音がして画面には今日のバイト分の給料が銀行口座に振り込まれた事が表示された。彼女は機械から出て来た明細書を財布にしまった。坂下によるとあの機械が彼女達のバイトをした時間や給料を管理しているらしい。
島田さんが帰ろうとした時に俺はケーキのレシピを彼女にあげた。ちなみにケーキのレシピは頭の中に記憶されているようだ。そして
「失礼します、ご主人様、坂本さん」
と挨拶して島田さんは帰った。
「そういえばご主人様はどうして私にこのような事を出来るようにしたのですか?」
「それはね、私が行列とかに並ばなくても美味しい物を食べるためよ」
やっぱり自分のためか・・・。
「ちなみに一度食べた料理の味やレシピとかは二度と忘れないわ」
「そうですか・・」
「じゃあユキ、これから暇な時は有名な店の料理を味わってきてね。もちろんお金は出すわ」
「わかりました」
そして俺は暇があれば有名な店に足を運んだ。
そして俺は家で食事やおやつの時間のたびに坂下とクラスの女子に今まで食べた有名店のメニューを出して注文を聞いて作った。(ラーメンなど時間がかかる物は遠慮して貰った)そのため料理の腕が格段に上がり料理を完璧に再現できるようになった。有名店の味が無料で食べられるし、バイトも出来るとあって以前よりバイトに来る女子が増えてしまった。