第6話
私の問い掛けに、司は少しだけ機嫌を損ねて頷いた。
「なに? 待ち合わせに行けなかったのは、私のせいだって言いたいの?」
「べ……別にそこまでは言ってないけどさ……」
司は口を尖らせて否定したけれど……だけど、やっぱり『そう』……なのね?
* *
「……以上で『ガテン系KIT―TOOLお助け隊』の発表を終ります。ご清聴、ありがとうございました」
お茶室での後、その日の夕方の合わせ発表で、チームリーダーの司が終了の口上を述べた。
私は昨日とは比較にならないくらい完成度の高いパワーポイントに、感動さえ覚えてしまった。途中、何度もストップを掛けた私の指摘を聞き流さずに、司はあれから居残り、殆んど一人でパワーポイントの変更修正を遣っていたのだそうだ。
これだけのものを作成し直したのだから、時間が掛かって当たり前だわ。だから昨日の朝、出社時の車内で司が誘ってくれた『外食』に、誘った司が間に合わなかったのね……
ドタキャンされたのは悔しくて本当に許せなかったけれど……でも、司がこれほどまでに私のオーダーに対して、忠実に応えてくれるとは思ってもみなかった。
「見直し……」
「うわぁー、日高さん凄いですぅー!」
『見直したわ……』私が言い掛けた言葉を遮るように、派遣さん二人が興奮気味に司を褒めて取囲む。
司は、一瞬だけチラリと私に視線を遣したけれど、すぐに女の子達の方を向いてしまった。
「そう? じゃ、打ち上げなんて出来そうかなぁー」
「モチじゃないですかぁー!」
「これだけ遣ったんですから、落ちても打ち上げはしましょうよー」
「なにそれ、落選決定ですかぁ?」
司はニコニコしながら余裕で突っ込みを入れた。
言葉では謙遜しているけれど、態度は堂々として自信に満ち溢れている司を、私は少しだけ見直して……そして今まで以上に司が頼もしく思えた。
景気の良い会話を持ち出す彼女達の明るい声に、いつの間にか司のチームの周りを、部内全員はもとより、通り掛かった他部署の社員までが取囲んでいた。
……なんだろう? この胸のモヤモヤは?
司の出来栄えを手放しで褒めてあげたいのに、何故だか言葉が胸に閊えて言い出せない。上司として、何か言葉をと思うのだけれど、気の利いた言葉どころか、マニュアル通りの褒め言葉ですら、今の私には思い浮かばなかった。