第5話
『……と思われ、迅速な情報整理と電子DBの公開が……』
『そこ、スライド停めて。二つ目の『目的』の所に戻って?』
一通り流して貰った後の二度目の練習で、私はパワーポイントのスライド操作をしていた派遣の徳永さんの手を止める。
『このスライドから、皆さんがそれぞれ一生懸命に取り組んだと言う事が窺えます。ですが正直、このパワーポイントは、全体的に漠然とした出来です。発表原稿のキーワードを大きく提示して、視聴者側に判り易くなるよう工夫した方がより効果的です。この場面では何を訴えたいのか、どう言った表現が望ましいのか……眼で認識出来るように。文章だと文字が細かくなってしまいます。その上この画面では、切り替わるまでに全文を読み切れません。眼で追わせる表し方よりも、画像が直接頭に入って来る様、視覚に直接訴えるスライド……例えばこの場合なら……』
私からのアドバイスが終ると、誰からとも無く溜息が漏れた。
『初めからそう言ってくれれば……これでもう完成したものだと思っていたのに……』
司が愚痴った。
確かに、この時点からスライドを見直して修正を掛けると言う作業は、殆んど白紙状態に戻してやり直すべきだと言われているようなものだと思った。
一次選考の場での発表は、この内容でも十分だと思ったけれど、二次選考が決まってしまった以上、今となってはこのスライド内容で第三設計課の代表として出場させる訳にはいかなかった。二次は全国からの選抜組みなのだ。発表原稿は別としても、パワーポイントの完成度だけで比較すれば、司達が恥を掻くのは眼に見えている。
だからこそもっといいものを……と、私はつい熱弁を揮ってしまった。
部内フロアの壁掛け時計は既に退社時間を一時間以上も過ぎている。何より、社員の人手が不足しているからとは言え、派遣の女の子を二人とも巻き込んでの残業だった。
あの後、私は自分の権限で彼女達を退社させ、なんとか協力して貰えそうな社員数人に声を掛けて、他部署での別の打ち合わせ会議に行ってしまい、そのまま部署には戻らずに、司とのプライベートの待ち合わせ場所に急いだのだった。