第4話
「無理よ……ち、ちょっと?」
社内で私と司が付き合っているのは絶対に秘密。誰も居ないだろうと油断していると、いつ他の人に交際がばれてしまうかも知れないし、妙な噂を立てられてしまえばお互いに身動きが取れなくなって困るだけ。だから余所々しくなるのはある程度当然の事だし、これは二人の暗黙の了解……だったのに……
司は私がカップを受け取ったのを確認したとたん、いきなり身体を押し付けるようにして寄って来た。そしてその勢いで、そのまま私に迫って来る。
二畳ほどの狭いお茶室で、カップに並々と注がれたコーヒーを溢してはと集中してしまい、司への警戒心を欠いてしまった私は、アッと言う間に壁際に追い遣られてしまった。
「ち、ちょっ、なにす……んっ」
司の口が、私の声を飲み込んだ。
強めに唇を押し付けて私の唇を割り拡げると、熱い舌を差し込んで来る。
私は一気に魂を抜き取られてしまったようになり、すぅうっと意識が薄れて、司の舌に翻弄された。
「あ……ん……」
気持ちいい……そう思った途端、司はいきなりキスを止めて、私の上気した顔を面白そうに覗き込むと、そっと耳元で囁いた。
「感じてる課長って、カワイー」
「なっ……?」
クスクスと声を押し殺して笑う司。
からかわれてしまったのだと思った私は、ムッとなって司をジロリと睨み上げた。
それでも司は、私がこんなに不機嫌になっている理由まで既に判っていたみたい。怯みさえしないんだもの。
「昨日の事、まだ怒ってンだ」
「あ、当たり前でしょう?」
強気で言い返したけれど、ドキドキが止まらない。顔が熱くなっているのは、きっと赤面してしまった証拠だわ。そうだと判っているのに、司のニヤニヤ顔が許せなくて、私は司から視線を外そうとはしなかった。
……だって……
昨日のお詫びがこの『キス』でごまかされそうな雰囲気だったから。
「だって、課長が悪いんだし」
「それ、どういう意味?」
まだ言う気?
聞き捨てならないセリフに、私は少々苛ついた。
「今日もQCを見るって言うけど、昨日だって相当パワーポにケチ付けてきたでしょ?」
「それが何か?」
平然として答えると、司は顔を顰めて左手で自分の頭をクシャクシャと掻き回し『あーっつ! 判ンねぇーのかよ?』と投げやりに呟く。
「昨日は誰かさんの指示で、パワーポの修正していたの」
「え? ……それであんなに遅くまで?」
「そ」
「……」
私は、昨日のQC発表練習の事を思い出した。