第3章:悪夢の夜と嵐の予感
俺の家において「静寂」とは、アオイという名の業務用シュレッダーによって効率的に破壊される希少資源だ。
英語の動詞に振り回されて疲れ果てた俺の脳を休ませるべく、大人しく解散すればいいものを、アオイは目を輝かせてリモコンを掴んだ。
「ダメに決まってるでしょ! 寝ないなら『呪いの血人形』を見るの! これぞクラシック、倫太郎!」
俺は硬直した。胃の奥が嫌な感じに収縮する。ホラー映画は俺の弱点だ。教師の怒りも、過酷な練習も、親父の説教も耐えられるが、ジャンプスケアや関節の曲がった化け物は、俺の心臓をハードベースのリズムで叩き始める。
「却下だ」俺は眼鏡を押し上げ、冷ややかに言い放った。「休息が必要だ。脳はストレス状態では情報を吸収しない」
アオイは一瞬動きを止め、ゆっくりと首を回して目を細めた。その唇には、最高に腹立たしい、勝利を確信したような笑みが浮かんでいた。
「おやおや……倫太郎、もしかして……怖いわけ?」
語尾を強調したその言葉に、部屋の空気が張り詰めた。頬に血が上るのを感じる。それは卑怯な一撃だった。
「俺が? 怖いだと?」声がいつもより半音高くなった。「馬鹿馬鹿しい。座れ。見るぞ」
俺は過剰なほどの威厳を持ってソファーに腰を下ろした。それまでの言い合いを黙って見ていたナナが頷き、反対側に座る。俺は二人に挟まれる形になった。
最初は順調だった。画面の中では古い屋敷にいる連中が、最高に愚かな行動を繰り返している。だが、音楽が不穏になり、クローゼットから青白い手がゆっくりと這い出してきた時、俺の手のひらは裏切り者のように湿り始めていた。
突然、それまで無表情で座っていたナナが俺の方を向いた。その黄金色の瞳には、どこか騎士道的な高潔さが宿っていた。
「荒木くん」彼女はアオイに聞こえないよう、静かに囁いた。「もし怖いなら……私の手を握っていいわよ。構わないから」
俺の心臓がバク転した。だが、その提案を理解する間もなく、左側からアオイのヒステリックな叫び声が上がった。
「ちょっと! なんでナナちゃんの手なのよ!? 倫太郎、私のを掴みなさいよ! 私はバレー部で握力には自信があるんだから。どんな悪夢からも引きずり出してあげる!」
ナナはライバルの方を見向きもせず、淡々と切り返した。
「バスケットボール選手の手の方が強いわ。私たちは指先でボールをコントロールすることに慣れている。私の手の方が、より確かな支えになる」
「スパイクの破壊力の何がわかるっていうのよ!?」アオイが今にも飛びかからんばかりに身を乗り出す。
「いい加減にしろ!」俺は二人の手のひらを強引に押さえつけた。
二人の手は温かく柔らかかった。それが彼女たちの超高校級の競技実績とは結びつかない。一瞬、リビングに沈黙が流れた。二人は、繋がれた俺たちの手を見つめて固まっている。
「この茶番は終わりだ。もう夜中の三時だぞ。寝る時間だ」俺は断固として立ち上がり、その奇妙な接触を断ち切った。
「ただの腰抜けじゃん! まだ半分もいってないのに!」
押し入れから布団を引っ張り出す俺の背中に、アオイの罵声が刺さる。
「お前たちの生活リズムを守るためだ。二人は俺のベッドで寝ろ」俺はリビングの床に布団を叩きつけた。「俺はここで寝る」
アオイの抗議はデモ行進ができるほど長く続き、ナナも床でいいと丁寧に断ろうとしたが、俺は譲らなかった。結局、二人は肩を落として俺の寝室へと消えていった。
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部屋に一応の静寂が戻ったが、ナナにとっての試練はここからだった。一つの掛け布団に入った途端、アオイは制御不能の移動要塞と化した。
眠りについた「太陽のような少女」は、あらゆる方向に動き回る。五分後にはその足がナナの腹の上に乗り、さらに十分後には、アオイはバスケ部のエースを巨大な抱き枕と勘違いして、力一杯抱きしめていた。
「パス……持ってきて……」アオイはナナの肩に鼻を埋めて呟く。「もっと……高く……ブロック……」
ナナは天井を見つめたまま横たわり、倫太郎が長年どうやってこの嵐の隣で生き抜いてきたのかと自問した。だが疲れには勝てず、バレーの戦術に関するうな言を聞きながら、彼女もまた眠りに落ちていった。
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窓から差し込む強烈な光で目が覚めた。眼鏡を外して寝たため、最初の数秒間、世界はぼやけた斑点だった。テーブルの上の眼鏡を弄り、鼻の上に乗せてから時計を確認した。
「くそっ……」
声が漏れた。単なる遅刻ではない。大惨事の瀬戸際だった。
俺は飛び起き、寝室へと駆け込んでこの「睡眠部隊」を叩き起こそうとした。だが、ドアを開けた瞬間、俺の動きは止まった。
そこには、ユーモア溢れる画家が描いたような光景が広がっていた。アオイは両手両足をナナに絡め、文字通り彼女の胸に顔をうずめて、まるで最高のお宝であるかのように抱きしめていた。ナナもまた、無意識にアオイの背中に腕を回し、まるで世界から守るかのように抱き寄せている。朝の静寂の中で、二人はあまりにも平和そうに見え、俺は思わず苦笑した。
(これは逃すには惜しすぎる、一級品の証拠写真だな)
そう思い、俺はスマートフォンを取り出して素早くシャッターを切った。その音が彼女たちを揺り起こした。
「え……? 倫太郎……?」アオイが最初に目を開けた。彼女は俺の手にあるスマホを見、次に自分たちの体勢を理解した。一瞬で、その顔は完熟したトマトのような色に染まった。
「消して! 今すぐ消してええええ!」
彼女は野生の猫のように、ベッドから俺に向かって跳躍した。長年の付き合いで慣れている俺は、ただ一歩横に避けた。アオイは危うくクローゼットに激突するところだった。
「断る」俺はスマホをポケットにしまい、冷静に答えた。「これから、一度でも俺の課題をサボったり授業を欠席したりしてみろ。この写真は学校のグループチャットに流れるからな」
ベッドに座り、乱れた赤い髪を必死に整えていたナナも、真っ赤になって視線を逸らした。
「それは……卑怯よ、荒木くん」
「勉強のためなら手段は選ばない」俺は言い切った。「さっさと着替えろ。出発まで十分だ」
学校までの道のりは拷問だった。エネルギーが全回復したアオイは、パン屋のショーケースを見るたびに足を止めた。
「倫太郎おぉ! 見て、ソーセージロール! こっちを見てるよ! 寂しがってるよ!」
「あれは軽蔑の眼差しだ。遅刻しそうなんだからな」
俺は彼女の制服の襟を掴み、ジタバタする足を宙に浮かせて引きずっていった。ナナはその横で、尊厳を保とうと背筋を伸ばして歩いていたが、その視線は時折、スマホの入った俺のポケットへと戻っていた。
ようやく校門に辿り着いた時、ナナが立ち止まった。
「じゃあ……私は自分の校舎へ。休み時間にね」彼女は短く頷き、クラスメイトの待つ教室へと急いだ。
俺は、まだ近くの自販機に突撃しようとしているアオイを見た。俺の「地獄」は始まったばかりであり、学校で最も人気のある二人の少女に監視される一日が待ち構えていた。
鞄を直すと、俺は自分の「罰」を連れて教室へと向かった。
授業の一日は耐え難いほど長く感じられた。視線を感じる。アオイは後ろの席から何度も振り返っては変顔をし、「例の写真」のことを思い出させてくる。他のクラスメイトたちは、俺がいつものようにアオイと親密であることに嫉妬の視線を向けていた。
最後の授業、教室に佐藤先生が入ってきた。数日前、教職員室で俺の人生を自分の野心の質罪へと変えたあの女だ。彼女は教卓に寄りかかり、その視線——獲物を見つけた肉食獣の目——を真っ直ぐに俺に向けた。
「さて、クラスの皆、注目」彼女の声は欺瞞に満ちた柔らかさだったが、俺はそのトーンを知っていた。「ニュースがあるわ。学校側は、試験の前に皆さんに……心理的なリフレッシュが必要だと判断したの。明日の朝、学年全体で別の街へ出発します。海沿いのホテル、潮風、そして一週間の『合同学習会』よ」
教室は歓喜の叫びに包まれた。男子はすでに水着の話を始め、女子は日焼け止めの相談をしている。
「ああ、それから」騒ぎを制するように、佐藤先生は俺から目を離さずに付け加えた。「隣のB組も一緒よ。バレー部とバスケ部のクラス対抗戦も準備しておきなさい」
俺は凍りついた。B組はナナのクラスだ。つまり俺は、海辺のホテルに二つの自然災害と一緒に閉じ込められ、一秒の安らぎも与えてくれないであろう佐藤先生の監視下に置かれるということだ。
教師はゆっくりと微笑んだ。それは、俺に「契約」を結ばせた時と同じ笑みだった。
「準備、頑張ってね、荒木くん。あなたの教え子たちが……勉強に溺れないように」
背筋を冷たい汗が伝った。彼女は明らかに、海でも「個別指導」は続くこと、そして失敗の代償は依然として俺の推薦状であることを示唆していた。
放課後、俺とアオイは家路についた。太陽は容赦なく照りつけ、連れのエネルギーは無限の愚痴へと変換され始めていた。
「倫太郎おぉ……死んじゃう……カロリーが必要……クリームパン……雲の中にパンが見えるよ……」
彼女は足をもつれさせながら呻いた。俺は黙って前を見据えて歩いた。
「今すぐパンを食べないと、家まで辿り着けない。ここで、アスファルトの上で暮らすことになるよ……」
俺はため息をつき、立ち止まると、彼女を見ずに鞄のジッパーを開けた。あらかじめ買っておいた袋を取り出し、アオイに差し出す。
「ほら。食べて黙れ。途中でこのコンサートが始まるのは分かってた」
アオイの目が丸くなった。彼女は俺の指がもげそうなほどの速さでパンをひったくった。
「おおお! 倫太郎、あんた神様!? 私の救世主!」彼女はハムスターのように頬を膨らませて生地に食らいついた。「ありがと……あんた最高……」口いっぱいに詰め込んで、彼女は言葉を濁らせる。
「飲み込んでから喋れ」俺はこぼれそうになる笑みを隠して言った。
ようやく家の前に着いた時、俺は門の前で立ち止まった。
「アオイ。明日。時間通りに起きろ。朝の七時にはスーツケースを持って俺の家の前に立ってろ。もし俺が起こしに行く羽目になったら、駅に着く前にあの写真をネットに放流するからな」
アオイはおどけて敬礼をし、その場で飛び跳ねると、海についての鼻歌を歌いながら自分の家の中へ消えていった。
家に入ると、そこには祝福された静寂があった。リビングに行き、ソファーに倒れ込む。真っ先に眼鏡を外し、眉間を強く揉んだ。視界がぼやけ、世界が柔らかな色の斑点へと変わる。
だが、明日の旅行は現実だ。
「海、か……」俺は誰もいない部屋に呟いた。「どうやら俺の地獄は、より景色のいい場所へと舞台を変えるだけらしいな。佐藤先生、絶対に何か企んでる」
ため息をつき、俺は目を閉じた。俺の平穏な生活という章は、公式に幕を閉じたのだ。




