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婚約破棄されたので離縁裁判所で働き始めたら、壊れた関係の“理由”が見えるようになりました  作者: すずり


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第9話 提示された三つの道

 呼び出しは、午後の遅い時間だった。


 王宮の一室。応接用に整えられたその部屋に、リシェルは一人で通された。


 装飾は控えめ。

 だが、それは軽視ではない。


 ——“形式的な対応”として、十分な格だ。


 そう判断する。


 しばらくして、扉が開いた。


 入ってきたのは、見覚えのある男だった。


 王太子側近。

 名は、ヴェルナー。


 常に冷静で、無駄のない動きをする人物。


「お時間をいただき、感謝いたします。アルヴァーレン嬢」


 丁寧な礼。


 だがその声音は、どこか事務的だった。


「用件を伺いましょう」


 リシェルは簡潔に返す。


 前置きは不要だ。


 ヴェルナーは一度頷き、書類を机に置いた。


「結論から申し上げます。あなたには、三つの選択肢が提示されています」


 ——来た。


 リシェルは内心でそう思う。


 ようやく、明確な分岐が示される。


「一つ目」


 ヴェルナーが指を一本立てる。


「修道院への入所。王家の庇護下に入り、静かに過ごす道です」


 安全な選択。


 だが同時に。


 ——終わりの道。


 社会的な役割からは、完全に切り離される。


 リシェルは即座に理解する。


「二つ目」


「実家への帰還。公爵家の管理下に戻り、将来的な再縁を視野に入れた生活となります」


 名誉は保たれる。


 だが。


 ——従属。


 再び“誰かに選ばれる側”に戻る。


 それもまた、明確だった。


「そして三つ目」


 ヴェルナーの視線が、わずかに鋭くなる。


「他国への移動」


 一拍。


「具体的には、港湾都市国家連合への派遣です」


 ——敵国。


 リシェルの思考が、一瞬だけ止まる。


 なぜ、その選択肢があるのか。


 だがすぐに、分析に入る。


「理由を伺っても?」


「あなたの能力を、別の形で活用するためです」


 曖昧な表現。


 だが、その裏にあるものは明白だった。


 ——厄介払いと、利用の両立。


 王宮に置くには都合が悪い。

 だが完全に切り捨てるには惜しい。


 だから。


 外に出す。


 その上で、使えるなら使う。


 合理的な判断だ。


「……危険性は」


「あります」


 即答だった。


「文化も法も異なります。あなたのこれまでの常識は、ほとんど通用しないでしょう」


 淡々と告げられる。


 だがそれは、脅しではない。


 事実だ。


 リシェルは沈黙する。


 頭の中で、三つの選択肢を並べる。


 安全。

 安定。

 未知。


 どれも、合理的な選択ではある。


 だが。


 ——どれを選ぶべきか。


 これまでなら、答えは用意されていた。


 だが今は。


 誰も提示しない。


「……期限は」


「明日までに」


 短い。


 だが、十分でもある。


 決断に必要なのは時間ではない。


 判断基準だ。


 ヴェルナーは静かに続ける。


「なお、どの選択肢を選ばれても、王家としては異議はありません」


 それは。


 ——責任を取らない、という宣言でもあった。


 リシェルは理解する。


 ここから先は、完全に“自分の選択”になる。


 その事実が、静かに重くのしかかる。


「……確認したいことがあります」


「どうぞ」


「この提案は、殿下の関与があるものですか」


 一瞬。


 ヴェルナーの表情が、わずかに変わる。


 だがすぐに戻る。


「王太子殿下は、最終的な承認をされています」


 ——承認。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 つまり。


 発案者ではない。


 だが、拒否もしなかった。


 その意味を、リシェルは正確に理解する。


「そう」


 短く答える。


 それ以上は問わない。


 必要がない。


 ヴェルナーは書類を差し出す。


「詳細はこちらに。お目通しください」


 受け取る。


 紙の重みが、やけに現実的だった。


「……ご決断を、お待ちしております」


 それだけ言い、ヴェルナーは礼を取る。


 そして、部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


 静寂。


 リシェルは一人、立っていた。


 手元の書類に視線を落とす。


 三つの道。


 どれも間違いではない。


 どれも、合理的に説明できる。


 だが。


 ——どれが“自分の選択”なのか。


 それが、わからない。


 椅子に座る。


 ゆっくりと、書類を開く。


 内容を確認する。


 条件。制約。利点。


 すべてを整理する。


 だが。


 途中で、手が止まる。


 ——これは、本当にそれだけの問題なのか。


 合理性だけで、選んでいいのか。


 その問いが、浮かぶ。


 これまでなら、迷うことはなかった。


 最適解を選べばいい。


 それが正しい。


 だが今は。


 その“正しさ”が、わずかに揺らいでいる。


 リシェルは目を閉じる。


 そして。


 初めて。


 思考ではなく、“自分”に問いかける。


 ——私は、どうしたいのか。


 その問いは、まだ曖昧だ。


 だが。


 確かに。


 これまでとは違う形で、そこに存在していた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ついに「選択肢」が提示されました。

ここから物語は、完全に“受動”から“主体”へと移行していきます。


どの選択も正しく見える中で、

主人公が何を基準に選ぶのかが、この物語の核心になります。


もし「この選択の行方が気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話では、主人公が初めて“自分の意思”に向き合います。

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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