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婚約破棄されたので離縁裁判所で働き始めたら、壊れた関係の“理由”が見えるようになりました  作者: 雪乃フィオナ


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第7話 期限は三日

 通達は、あまりにも簡潔だった。


 リシェルのもとに届けられた書簡は、封蝋も簡素で、装飾もない。

 だが、その内容は明確だった。


「——王宮滞在は、三日以内に限る」


 それだけ。


 理由も、説明も、添えられていない。


 だが。


 ——十分だった。


 リシェルは書簡を机に置き、静かに息を吐く。


 これは“決定”だ。

 交渉の余地はない。


 婚約破棄は、単なる関係解消ではない。

 それに伴う、立場の整理。


 そして——排除。


 その最終段階に入ったということだ。


 リシェルは椅子に座り、指先を組む。


 思考は冷静だった。


 時間は三日。


 短いが、不可能ではない。


 必要なのは、選択だ。


 だがその前に。


 ——確認するべきことがある。


 立ち上がる。


 目的地は、王宮内の一室。


 カイルの執務室。


 廊下を歩く。


 すれ違う者たちの視線が、以前とは明確に違っていた。


 同情、警戒、そして——


 距離。


 リシェルはそれを正確に認識する。


 だが、影響はない。


 目的を優先する。


 扉の前に立つ。


 軽くノック。


「リシェルです。お時間をいただけますか」


 一拍。


 そして中から声が返る。


「……入ってくれ」


 扉を開ける。


 室内は整理されていたが、机の上にはいくつかの書類が積まれていた。


 カイルはその前に立ち、こちらを見ている。


 その表情は、読み取りにくい。


「どうしたんだ、リシェル」


「通達を受け取りました」


 単刀直入に言う。


「王宮滞在は三日以内、とのことです」


「ああ……」


 カイルは目を伏せる。


 わずかな沈黙。


 リシェルは続ける。


「確認したいことがあります」


「……何だ」


「これは、殿下のご意向ですか」


 視線を逸らさずに問う。


 カイルは一瞬、言葉を失った。


 だがすぐに、答える。


「……王の決定だ」


「承知しました」


 即座に頷く。


 それ以上は追わない。


 だが。


 リシェルは、もう一つだけ言葉を重ねる。


「では、殿下個人のご意向は」


 カイルの視線が揺れる。


 ほんのわずか。


 だが確かに。


「……リシェル」


 名前を呼ぶ。


 だが、その先が続かない。


 沈黙。


 部屋の空気が重くなる。


 リシェルは待つ。


 言葉は、選ばれるべきだ。


 やがてカイルは、ゆっくりと口を開いた。


「……君は」


 一度、言葉を切る。


 そして。


「君は、このまま王宮にいても……苦しいだけだと思う」


 その言葉は、拒絶ではなかった。


 だが、引き止めでもない。


 ただの——判断。


 リシェルはそれを受け取る。


 そして、分析する。


 ——合理的。


 確かに、そうだ。


 現在の立場では、ここに残ることに利点は少ない。


 むしろ、不利益の方が大きい。


 だから。


「理解しました」


 短く答える。


 だが。


 胸の奥に、わずかな違和感が残る。


 それは、言葉にできない。


 ただ。


 ——あの時と同じ“未完”が、そこにあった。


 カイルは何かを言おうとし、そしてやめた。


 それを、リシェルは見逃さない。


 だが。


 追及はしない。


 必要がない。


「では、失礼いたします」


 礼を取る。


 完璧な角度で。


 そして、踵を返す。


「……リシェル」


 背後から呼ばれる。


 足を止める。


 振り返らないまま、答える。


「はい」


 沈黙。


 数秒。


 そして。


「……気をつけて」


 その言葉だけが、落ちた。


 リシェルは一瞬、思考を止める。


 ——それは、何に対する注意なのか。


 危険か。状況か。あるいは。


 だが。


 問いは発しない。


「ありがとうございます」


 それだけを返す。


 扉を開ける。


 外の空気が流れ込む。


 部屋を出る。


 そして、扉が閉まる。


 音は静かだった。


 だが。


 それは、確かに区切りだった。


 リシェルは廊下に立ち、わずかに視線を落とす。


 ——三日。


 時間は限られている。


 選択しなければならない。


 だが。


 これまでの人生で。


 “自分で選ぶ”という行為は、ほとんど存在しなかった。


 すべては、用意されていたから。


 だから。


 今。


 初めて。


 その問いが、現実として迫っている。


 ——私は、どこへ行くべきか。


 リシェルは目を閉じる。


 思考を整理する。


 感情ではなく、判断で。


 それが彼女のやり方だ。


 だが。


 そのやり方だけでは、足りない何かがあることも。


 すでに、薄く理解し始めていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ついに「期限」が提示され、

主人公が動かざるを得ない状況になりました。


ここから物語は、

“考えるだけの状態”から“選ぶ状態”へと移行していきます。


もし「この先どう選ぶのか気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話では、具体的な選択肢が提示されます。

そして主人公は、初めて“自分の人生”と向き合います。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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