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婚約破棄されたので離縁裁判所で働き始めたら、壊れた関係の“理由”が見えるようになりました  作者: すずり


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第28話 あの日と同じ構図

 案件の概要を見た瞬間、手が止まった。


 紙に書かれているのは、簡潔な事実だけだった。


「——婚約解消申請」


 それだけなら、珍しくない。


 だが。


 次の一文。


「——一方的破棄に対する異議申し立て」


 その構図。


 リシェルの思考が、わずかに遅れる。


 ——同じだ。


 あの日と。


 ユリウスが、横から書類を覗き込む。


「顔が変わったな」


 短く言う。


 リシェルは、すぐに表情を戻す。


「……問題ありません」


「そうか?」


 疑うような声。


 だが、追及はしない。


「今回の相手は、少し厄介だぞ」


 一拍。


「感情が強い」


 その言葉に。


 リシェルは、わずかに息を整える。


 そして。


 頷く。


「承知しています」


 書類を閉じる。


 立ち上がる。


 歩き出す。


 だが。


 足取りが、ほんのわずかに重い。


 ——これは。


 ただの案件ではない。


 自分の過去と、重なる。


 それを。


 理解している。


 扉の前に立つ。


 深く息を吸い。


 押し開ける。


 中には、すでに二人がいた。


 女性と、男性。


 年齢は近い。


 だが。


 空気は、明確に分かれている。


 女性は、まっすぐ前を見ている。

 その目には、怒りと、強い意志。


 男性は、視線を逸らしている。

 どこか、距離を取るように。


 その構図。


 リシェルの胸の奥で、何かが強く響く。


 ——同じだ。


 あの日と。


 ユリウスが低く言う。


「記録しろ」


 リシェルは、ゆっくりと頷く。


 ペンを持つ。


 だが。


 今回は、少しだけ違う。


 ただ記録するのではない。


 ——見る。


 そして。


 ——理解する。


 裁判官が告げる。


「本件は、婚約解消に対する異議申し立て」


 女性を見る。


「申立人、発言を」


 女性が、すぐに口を開く。


「納得できません」


 強い声。


 迷いはない。


「一方的に破棄される理由がありません」


 その言葉。


 リシェルの手が、わずかに止まる。


 ——理由。


 あの日も。


 それを求めた。


 だが。


 得られなかった。


 男性が、静かに言う。


「理由は説明したはずだ」


「形式だけでしょう!」


 女性が即座に返す。


「“合わないから”なんて、理由にならない!」


 その言葉。


 リシェルの胸に、鋭く刺さる。


 ——同じだ。


 言葉は違う。


 だが。


 本質は、同じ。


 男性は、少しだけ眉をひそめる。


「それ以上の説明は、必要ない」


 冷静な声。


 だが。


 そこには、距離がある。


 女性が、強く言う。


「必要よ!」


 一歩、踏み出す。


「私は、何も間違っていない!」


 その言葉。


 リシェルの中で、過去が重なる。


 ——自分も、そう思っていた。


 正しかった。


 だから。


 納得できなかった。


 男性は、視線を逸らす。


「……そうかもしれない」


 小さく言う。


 その一言。


 女性の動きが、止まる。


 リシェルも、息を止める。


「だが」


 一拍。


「それでも、無理だ」


 その言葉。


 あまりにも、あの日に近い。


 リシェルの思考が、一瞬揺れる。


 ——なぜ。


 なぜ、そうなる。


 正しさはある。


 問題もない。


 それなのに。


 関係は、壊れる。


 女性が、震える声で言う。


「……どうして」


 その問い。


 過去と、完全に重なる。


 リシェルの手が、止まる。


 書けない。


 ——これは。


 ただの記録ではない。


 自分の中の未完と、繋がっている。


 ユリウスの視線を感じる。


 試されている。


 だが。


 今回は、それだけではない。


 リシェルは、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 決める。


 ——逃げない。


 この案件からも。


 この構図からも。


 そして。


 自分の過去からも。


 リシェルは、静かに口を開く。


「確認します」


 場が止まる。


 二人の視線が向く。


 そして。


 リシェルは。


 初めて。


 “あの日の自分”に向けるように、問いを投げる。


「この関係は」


 一拍。


「どの時点で、変わりましたか」


 その言葉。


 空気が、大きく揺れる。


 男性の目が、わずかに動く。


 女性も、息を呑む。


 そして。


 リシェル自身の中でも。


 何かが、大きく動いていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ここから物語は大きく動き始めます。


主人公にとって、

「他人の案件」ではなく「自分の過去と直結する案件」に入りました。


ここで逃げるか、踏み込むかで、

主人公の本当の変化が決まります。


もしここまで読んで面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話では、この問いに対する答えが、

物語の核心に触れていきます。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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