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婚約破棄されたので離縁裁判所で働き始めたら、壊れた関係の“理由”が見えるようになりました  作者: すずり


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第20話 割り切れない関係

 次の案件は、これまでとは明らかに性質が違っていた。


 部屋に入った瞬間、リシェルはそれを察知する。


 緊張ではない。

 怒りでもない。


 ——軽さ。


 だが、それは決して穏やかさではない。


 表面的には落ち着いている。

 だが、その奥にあるものは。


 ——計算。


 席に着いているのは、二人の男だった。


 一人は年配。

 落ち着いた装いと、無駄のない所作。


 もう一人は若い。

 だが、その視線は鋭く、油断がない。


 どちらも、感情を表に出していない。


 裁判官が告げる。


「本件は、共同事業の解消に関する紛争」


 夫婦ではない。


 契約関係。


 リシェルは、わずかに意識を切り替える。


 ——感情より、利害。


 だが。


 本当にそうか。


 その問いが、同時に浮かぶ。


 ユリウスが小さく言う。


「今回は、単純じゃないぞ」


 リシェルは頷く。


 ペンを持つ。


 そして。


 観察を始める。


 年配の男が口を開く。


「契約通りに進めればいい。それだけの話だ」


 落ち着いた声。


 揺れはない。


 若い男が即座に返す。


「その契約自体が問題だと言っている」


 こちらも冷静。


 だが。


 言葉の端に、わずかな鋭さがある。


 リシェルは、それを捉える。


 ——衝突はある。


 だが。


 表に出ていない。


 年配の男は肩をすくめる。


「利益が出ている以上、問題はないはずだが」


「利益の分配が不公平だ」


「合意の上での契約だ」


 淡々と続く応酬。


 だが。


 先ほどのような“感情の爆発”はない。


 リシェルの手が、一瞬止まる。


 ——どこを見るべきか。


 言葉は整っている。


 論理も、成立している。


 だが。


 それだけではない。


 若い男が言う。


「……あなたは、最初からこうするつもりだった」


 その一言。


 わずかに、温度が変わる。


 リシェルはそれを見逃さない。


 年配の男が、ほんの一瞬だけ目を細める。


 だがすぐに戻る。


「憶測だな」


 即答。


 否定。


 だが。


 ——完全ではない。


 リシェルは、そこで思考を進める。


 これは。


 契約の問題だけではない。


 ——信頼。


 その崩壊。


 若い男が続ける。


「最初は対等だった」


 一拍。


「だが、いつの間にか条件が変わっていた」


 その言葉に。


 リシェルの中で、構造が見える。


 ——徐々に変えられた関係。


 明確な破綻ではない。


 だが。


 気づいた時には、戻れない。


 年配の男は静かに言う。


「変わったのは、状況だ」


 論理的な返答。


 だが。


 その中に。


 ——意図があるかどうか。


 それが争点。


 リシェルは、ここで迷う。


 これは。


 どこまでが事実で。


 どこからが意図か。


 証明は難しい。


 だが。


 若い男の表情。


 言葉の選び方。


 そこに。


 確かな“何か”がある。


 ユリウスが、低く言う。


「どう見る」


 試されている。


 リシェルは、ゆっくりと息を整える。


 そして。


 口を開く。


「確認します」


 二人の視線が集まる。


「契約の変更は、明文化されていますか」


 年配の男が答える。


「一部は」


「すべてではない?」


「……状況に応じて調整した」


 その言葉。


 リシェルは捉える。


 ——曖昧さ。


 そこに、余地がある。


 次に、若い男を見る。


「その変更について、合意は」


「……明確には」


 言葉が途切れる。


 その瞬間。


 リシェルは理解する。


 ——これが問題。


 明確ではない。


 だから。


 解釈が分かれる。


 そして。


 信頼が崩れる。


 リシェルは、静かに言う。


「この問題は、契約の問題ではなく」


 一拍。


「解釈の問題です」


 その言葉に。


 空気が変わる。


 両者とも、わずかに反応する。


「明文化されていない部分に対する認識が、異なっています」


 続ける。


「その結果として、信頼が損なわれている」


 若い男が、わずかに息を呑む。


 年配の男は、何も言わない。


 だが。


 視線が、変わる。


 リシェルは、それを見る。


 ——届いている。


 だが。


 まだ、足りない。


 これは。


 整理であって。


 解決ではない。


 リシェルは理解する。


 そして。


 自分の限界も。


 ——ここから先は。


 まだ、できない。


 ユリウスが小さく言う。


「……悪くない」


 短い評価。


 だが。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 リシェルは、静かに頷く。


 そして、ペンを走らせる。


 今回の案件。


 割り切れない関係。


 契約でも、感情でもない。


 その中間。


 それを。


 どう扱うか。


 まだ。


 答えは出ていない。


 だが。


 確実に。


 領域は広がっている。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


今回は「契約と信頼のズレ」をテーマにした回でした。


感情だけでもなく、

論理だけでもない関係が出てきたことで、

主人公の難易度も一段上がっています。


この先、

主人公がどこまで対応できるのかが見どころになります。


もしここまで読んで面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話では、この案件の“厄介な本質”に踏み込みます。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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