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第7話 上を目指す者

目を開けると、天井があった。


自分の部屋だ。


大会のメダル。

バイク雑誌。

壁に貼った記録表。


全部、見慣れている。


だが、空気が違う。


音がない。


エアコンの低い唸りも、

外の車の音もない。


「……夢?」


立ち上がる。


体が軽い。


(まだ、上に行ける)


その瞬間。


頭の奥に、声が流れ込む。


──神前決闘。


──最後まで勝てば、願いが叶う。


──負ければ消える。


理解は一瞬だった。


ルールも。

意味も。

自分の願いも。


「もっと高く、飛ばせてほしい」


口に出していないのに、

胸の奥で言葉になる。


窓に手をかける。


開ける。


そこにあったのは――


晴れ渡る空。


そして、


黒い円壇。


直径五十メートルほどの石舞台。


その外側は、浅い水面。

波はない。

流れもない。


向こう岸に、鳥居の影。


空はやけに青い。


風は吹いていない。


(……なんだよ、ここ)


だが、恐怖はない。


むしろ、


心が高鳴る。


空が、近い。


足が勝手に動く。


拒否できない。


部屋を出る。


一歩で景色が変わる。


そこは、黄泉前。


黒い円壇が目の前にある。


足元の水面が、自分を映す。


細身の身体。

鋭い目。


どこか、浮いている。


地面に立っている感覚が薄い。


(悪くない)


自然と、体が浮く。


ほんの数センチ。


意識したわけではない。


ただ、


「上」を選んだだけ。


理解する。


これは、能力だ。


どこまでも飛べる。


視界が広がる。


円壇の中央に、


影がある。


巨大な影。


黒い塊。


やがて輪郭がはっきりする。


大柄な男性。


巨大な熊の様な。


動かない。


ただ、立っている。


目だけが、こちらを見ている。


重い。


空気が、重い。


(でか……)


だが、焦りはない。


むしろ冷静だ。


重そうだな。

遅そうだな。


短期決戦で終わる。


そう判断した瞬間、


男が、わずかに視線を上げる。


見下しているはずなのに。


なぜか、


見据えられている感覚がある。


「……高いな」


低い声が響く。


怒りでも、挑発でもない。


ただの事実の確認。


シュウは、少しだけ眉をひそめる。


(地面に立ってるやつの目じゃない)


男は動かない。


だが、逃げる様子もない。


山のように、そこにいる。


円壇の上。


空と地面。


その境界で、


二人は向き合う。


まだ、誰も動いていない。


だが、


戦いは、もう始まっている。


これは、シュウこと鷹村秀司の戦いの記憶だ。

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