表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

第4話 ユメの世界

暗い。


でも、怖くはない。


白い天井がある。


蛍光灯の光。


規則的な電子音。


ピッ……ピッ……。


それが、わたしの世界だった。


目は開いていない。


開けられない。


でも、聞こえている。


なぜか見える。


「今日も、変わりないですね」


知らない声。


医師の声。


「脳波は安定しています」


安定。


その言葉は、優しいのか残酷なのか分からない。


わたしは、ここにいる。


でも、いない。


体はベッドの上。


時間は止まったまま。


でも、意識だけは、ずっと夢を見続けている。


何年経ったのか分からない。


高校生になってすぐのことだったと思う。


頭に腫瘍が見つかったって、母が泣いていた。


私は自分のことなのに、泣いてる母を大丈夫と言いながら慰めていた。


普段はむすっとしている父も泣きそうな顔をしていた。


手術をするしかないと聞いた。


あっという間のことだったので、あんまり覚えていない。


気がつくと、意識はあるのにベットから起きられなくなっていた。


最初は焦っていた。


起きなきゃ。


帰らなきゃ。


みんなが待ってる。


でも。


ある日、分からなくなった。


起きる理由が。


夢の中は、静かだ。


痛くない。


苦しくない。


誰も泣いていない。


夢の中では、わたしは自由だ。


歩ける。


笑える。


時間も流れる。


だから。


まあ、いいかと思った。


このままで。


「……ゆのん」


かすれた声。


お母さんだ。


その声は、夢の奥まで届く。


「いつまででも待つからね」


待つ。


その言葉が、少しだけ重い。


待たせている。


でも。


どうすればいいのか分からない。


目覚める方法を、忘れてしまった。


その日。


夢の景色が、崩れた。


白い霧が立ち込める。


足元が消える。


どこでもない場所。


静かな川。


流れていない水面。


向こう岸に、鳥居の影。


「……ここは?」


声が返ってくる。


誰かの声。


「境界に、長く留まりすぎた」


振り返る。


姿は見えない。


でも、分かる。


これは、呼ばれている。


「生きるか、眠るか」


選べ、と言われている。


わたしは困る。


どっちでもいい。


生きることにも。


眠ることにも。


強い理由がない。


ただ。


決められない。


「ならば、戦え」


黒い円壇が現れる。


冷たい石の感触。


頭に流れ込むルール。


勝てば願いが叶う。


負ければ消える。


願い。


……わたしの願いは?


考える。


長い時間、夢の中で考えなかった問い。


わたしは、目を閉じる。


「目を覚ますべきか、このまま眠るべきか……知りたい」


それが、本音だった。


生きたい、とも。


死にたい、とも。


言えなかった。


ただ、誰かに決めてほしかった。


その瞬間、霧が形を持つ。


それは、獣の輪郭。


大きな鼻。


曖昧な目。


夢を食べるもの。


獏。


胸が静かに冷える。


攻撃する力は弱い。


でも。


忘れさせることはできる。


痛みを薄くすることはできる。


戦う理由を、曖昧にすることはできる。


それなら。


誰も傷つかなくて済む。


そう思った。


でも。


あの子は、違った。


眠らせても。


薄くしても。


願いが消えなかった。


「あなたは……夢を必要としてない」


円壇の上で、そう呟いた。


あの子は、立っていた。


わたしは、負けた。


光に包まれる。


消える。


怖くはない。


最後に思ったのは。


「お母さん、お父さん、ごめんなさい。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ