表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/41

第26話 圧

犬山正子はゆっくり息を吐いた。


目の前に立っている男。


虎岩信太。


背が高い。


肩幅が広い。


筋肉の付き方が、普通の鍛え方ではない。


正子は理解する。


軍人。


それも、ただの隊員ではない。


戦場を知っている人間だ。


信太が一歩踏み出す。


石の床に、靴音が響く。


コツ。


ただそれだけの音なのに、


正子の背筋がわずかに緊張した。


正子は構える。


警察の格闘術。


重心を低く。


距離を取る。


まず観察。


相手の癖。


重心。


動き。


信太の体は大きい。


だが、


動きは重くない。


むしろ静かだ。


危険な静けさ。


正子は一歩横へ動く。


信太も歩く。


追うように。


ゆっくり。


逃げる距離ではない。


だが、


距離を詰められている。


正子は先に動いた。


踏み込み。


フェイント。


足払い。


信太の膝を狙う。


しかし、


信太の足がわずかに上がる。


避けられる。


同時に、


拳が来る。


正子は後ろへ跳ぶ。


風圧だけが頬を掠めた。


石の床が


ゴン、と鳴る。


当たっていたら


ただでは済まない。


正子は理解する。


正面は危険。


正子は円壇を回る。


横。


距離。


カウンター狙い。


信太は追う。


歩くだけ。


走らない。


だが、


距離は確実に縮まる。


そして正子は気づいた。


息が少しだけ


重い。


空気が違う。


胸の奥が、


妙に圧迫される。


正子は眉をひそめた。


「……」


信太が止まる。


そして言う。


「回るな」


声は低い。


怒っているわけではない。


だが、


命令の声。


正子は苦笑した。


「無理です」


警察官は


正面で殴り合う仕事ではない。


読み。


崩し。


捕縛。


それが基本。


正子はもう一度動く。


踏み込み。


今度は上段。


フェイント。


次の瞬間、


正子の視界が揺れた。


信太が


すぐ近くにいた。


速い。


拳。


正子は腕で受ける。


ドン。


衝撃。


骨が軋む。


正子の体が数歩下がる。


腕が痺れる。


重い。


ただの力ではない。


圧力。


まるで


巨大な壁に押されるような感覚。


信太が言う。


「軽いな」


正子は腕を振る。


痺れを飛ばす。


呼吸を整える。


おかしい。


さっきまでの動きなら


もっと返せるはずだった。


なのに


体が鈍い。


信太が歩く。


一歩。


また一歩。


そのたびに、


円壇の空気が重くなる。


正子は理解した。


これは


単なる威圧ではない。


能力。


信太が言う。


「逃げる戦い方か」


正子は答える。


「そうです」


信太は頷く。


「正しい」


その瞬間、


信太の足が踏み込む。


速い。


正子が反応する。


だが、


一瞬遅れる。


拳。


衝撃。


正子の体が吹き飛ぶ。


石の床を滑る。


水面の手前で止まる。


空気が肺から抜ける。


正子は咳き込む。


「……っ」


信太が歩いてくる。


ゆっくり。


逃げる必要がないように。


信太は止まる。


数メートル先。


そして言った。


「立て」


静かな声。


命令ではない。


だが、


逆らえない声だった。


正子は少し笑った。


そして、


ゆっくり立ち上がる。


腕が痛む。


息も苦しい。


それでも、


正子は構えた。


だが、


その時、


正子は理解する。


自分の能力が


出ていない。


守る対象がいる時、


自分は強くなる。


だが、


ここには


誰もいない。


正子は小さく息を吐いた。


「……困りましたね」


信太は構える。


拳を握る。


そして言う。


「来い」


その声と同時に、


円壇の空気が


さらに重くなった。


正子は一歩踏み出す。


その目は、


まだ


諦めていなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


続きが気になる方は

ブックマークしていただけると嬉しいです。


評価ポイントも励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ