第25話 強さの証明
重い。
最初に感じたのは、
体の重さだった。
虎岩信太はゆっくり目を開ける。
天井が見える。
白い。
蛍光灯。
見覚えがある。
自分の部屋だった。
「……」
体を起こす。
筋肉が軋む。
だが、
痛みはない。
床に足を下ろす。
踏みしめる。
問題ない。
体は動く。
⸻
信太は部屋を見渡す。
ベッド。
机。
ダンベル。
自衛隊の迷彩服。
すべて、
見慣れたものだ。
だが、
何かが違う。
静かすぎる。
外の音がない。
車も、
風も、
何も聞こえない。
信太は眉をひそめた。
記憶を探る。
最後の場面。
路地。
怒鳴り声。
銃。
人質。
「……」
胸の奥に
熱い感覚が残る。
あの時、
自分は
突入した。
命令より先に。
民間人を守るために。
そして
銃声。
衝撃。
そこで
記憶が途切れている。
⸻
信太はゆっくり息を吐いた。
結論は出ている。
「……やられたか」
悔しさはある。
だが、
後悔はない。
やるべきことは
やった。
それだけだ。
⸻
その時だった。
声が聞こえた。
「外へ」
信太は振り向く。
誰もいない。
「外へ」
もう一度。
低くも高くもない声。
命令ではない。
だが、
逆らう気にもならない。
信太は小さく息を吐いた。
「……了解」
自然に言葉が出た。
⸻
玄関へ歩く。
ドアノブを握る。
開ける。
次の瞬間、
世界が変わった。
⸻
空。
青い。
雲は少ない。
だが、
風がない。
音もない。
目の前に
巨大な円形の石舞台。
黒曜石のような円壇。
周囲は水。
流れていない。
完全に静止している。
信太は一歩外へ出た。
靴の音が
石に響く。
「……」
状況を確認する。
戦場ではない。
訓練場でもない。
だが、
空気が似ている。
戦いの前の空気。
⸻
その時、
頭の奥に
言葉が流れ込んできた。
ここは
黄泉前。
生と死の境界。
神前決闘。
勝者は願いを叶える。
敗者は消える。
信太は黙ってそれを受け取った。
理解は早かった。
理由は一つ。
ここには
ルールがある。
ルールがあるなら
やることは
単純だ。
⸻
勝つ。
⸻
信太は黒い円壇を見た。
その中央に、
すでに
誰かが立っている。
小柄な影。
女性。
背筋が伸びている。
警戒している姿勢。
ただ立っているだけなのに
隙がない。
信太は少しだけ目を細めた。
強い。
感覚で分かる。
あれは
普通の人間ではない。
⸻
信太はゆっくり歩き出した。
石の上へ。
距離が縮む。
十メートル。
五メートル。
女性がこちらを見る。
視線が合う。
沈黙。
数秒。
女性が先に口を開いた。
「あなたが相手?」
信太は短く答える。
「そうらしい」
女性は少し頷く。
「犬山正子」
信太は答える。
「虎岩信太」
再び沈黙。
水面が
わずかに光る。
正子は静かに言った。
「警察官です」
信太は言う。
「自衛隊だ」
短い会話。
だが、
二人とも
すでに分かっていた。
ここで
何をするのか。
⸻
信太は拳を握る。
骨が鳴る。
「……悪いな」
正子は少し首を傾ける。
「何が?」
信太は言った。
「俺は」
小さく息を吐く。
そして、
静かに言う。
「負けるつもりはない」
正子は少しだけ笑った。
「私もです」
その瞬間、
円壇の空気が変わる。
戦いが
始まろうとしていた。
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