第2話 戦いは唐突に
円壇の向こうに立っていたのは、
女の人だった。
年上に見える。
けれど、年齢の感覚が曖昧だ。
白い霧のような空気が、その人の足元にまとわりついている。
目が、眠そうだった。
「……こんにちは」
その人は、小さな声で言った。
敵意がない。
怒りもない。
まるで、ここが戦場ではないみたいに。
「あなたは?」
私は答えられなかった。
頭の奥で、ルールが繰り返される。
――相手を再起不能にすれば勝利。
――相手の敗北を受け入れれば勝利。
でも。
この人は、戦う顔をしていない。
「わたしは、ユメ」
名乗った。
「あなたは?」
「……優子」
そう言った瞬間、円壇の空気が変わった。
見えない合図。
戦闘開始。
ユメはぼんやり立ったまま。
どうしようか決めあぐねていると、ユメの姿がぼんやりしてきた。
どこからか霧が出てきた。
驚き、周囲を見渡す。
やはり、どこから霧が出てるかわからない。
霧がだんだん濃くなる。
足元の水面が白く曇る。
目の前だけでなく、意識にも霧がかかったように曖昧になっていく。
視界が、ゆっくりと閉じていく。
「ごめんね」
ユメが言った。
その声は、遠くなる。
頭が重い。
まぶたが、落ちる。
立っているのに、眠い。
異常な眠気。
違う。
これは眠気じゃない。
何かが、薄れていく。
「私は……」
意識が遠のく。
居心地の良い微睡のような感覚。
まあ、いいか。
もう。
疲れた。
横になってもいい。
その方が楽だ。
霧が優しく包む。
温かい。
ここは安全だ。
戦わなくていい。
傷つかなくていい。
「……眠っても、いいよ」
ユメの声が、すぐ隣で響く。
優しい。
怒りも焦りもない。
ただ、許してくれる声。
膝が崩れかける。
このまま眠ってしまえば楽になれる。
意識が少しずつ沈んでいく。
ゆっくりと。
暗闇に向かって。




