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オメガなおっさんは平穏に暮らしたい  作者: 琉斗六


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3:ジークフリート

 ギルドの早期判断が功を奏し、スタンピードは甚大な被害が出る前に、レイドによって終息した。

 召集された冒険者たちも、報酬を受け取ってそれぞれ散っていく。

 ブリーもまた、高額報酬を手にして街に戻っていた。


「おじさん」

「うわあっ!」


 冒険者ギルドの前で、出てきたジークに声を掛けると飛び上がられた。


「ああ……、あん時のアルファの嬢ちゃんか。なんだ? パーティーなら組まないぞ」

「なんで? お給料、不満?」

「破格なのは分かってるよ。でも逆に、その破格っぷりが怖いっての。とにかく、俺はソロが合ってるから、後方支援を探すなら他を当たってくれ」


 ヒラヒラと手を振って、ジークは立ち去った。


 普通の冒険者であれば、ここで諦める選択が出てくる。

 ハーゲンの〝お叱り〟がある程度に、パーティーへの強引な勧誘はご法度であり、それをしたことが分かれば冒険者の資格を剥奪される可能性があるからだ。


 だが、ブリーは諦めきれなかった。


 ブリーの日常は、至って簡単である。

 ギルドで仕事を受け、こなし、寝る。

 だがこの生活には一つ、致命的な問題があった。

 それはブリーの常識の中に、一般的な生活能力が含まれていないことだ。


 街にいる限りは、宿で衣食住の殆どが満たされる。

 高位冒険者であるブリーにとって、そのどれもが(かね)に頼ればなんとかなったからだ。

 問題は、遠征に出た時。

 衣は、高ランクモンスターの素材を使った、特殊効果付きの防具がある。

 住は、魔道具の効果を持った快適なテントを購入・維持出来る。


 だが食は……。

 料理のできないブリーは、固い黒パンと干し肉を、顎の力に任せて噛みちぎる以外に選択肢がない。


──ごはんが、不味い……。


 これがかなり、モチベーションを下げる。

 それならば、なぜ今まで後方支援を雇わなかったのか? と言えば。

 ブリーの興味や関心を引くほどの相手がいなかったからだ。


──レイドは好き。温かいごはんが出る。


 しかし感情が動くのはそこまでで、出された料理を──それを作った料理人を、自分の手元に置いて使いたいと思ったことが、ない。


──美味しい。しかもバフも付く。すごい。


 それは、ブリーにしてみれば一種の〝天啓〟に近かったのかも知れない。


 だからブリーは、直接の行動に出た。

 それは──。

 ジークの(あと)をつけたのだ。



§



 ジークは、冒険者ギルドから少し離れた辺りで、人影の少ない路地へと入っていった。

 周りを気にするように見回し、人気(ひとけ)がないことをよくよく確認してから、おもむろに蓋付きのショルダーバッグを開いた。


──あ、アイテムボックス!


 身体強化に気配遮断を付けて、屋根伝いにジークをつけていたブリーは、真上から見ていたので、鞄の中にアイテムボックス特有の〝異次元の渦〟があるのを見てしまったのだ。

 アイテムボックスは十人に一人が持つと言われる特殊技能(スキル)である。

 冒険者であれ商人であれ、持っている者は重宝されるスキルだが、秘匿してアピールしない者も一定数存在する。

 ジークは、報酬の中から数枚の硬貨を取り出すと、それをポケットに入れ直してから、鞄の蓋を慎重に閉めて、再び歩き出した。


 ブリーがそのあとを追っていくと、再びジークが立ち止まり、周囲を警戒するように見回している。

 そして、やはり人目がないことを入念に確認してから、看板も出ていない扉の中へと入っていった。


──お店……?


 ストンと音もなく地に降りたブリーは、そっとジークが入っていった扉に近づき、細く開いて中を見た。

 扉には呼び鈴すら付いておらず、店内はさほど明るくもない。

 が、薄暗いというほどでもないので、薄っすら扉を開いていても気付かれなかった。


「よう、来たな」

「いつもの頼む」


 会話はそれだけ。

 あとは硬貨をチャリチャリと受け渡す音と、カチャカチャと瓶が触れ合うような音がしただけだ。


「毎度あり」


 店員の声を背に、ジークが店の外に出る。

 ブリーは、素早く屋根に戻った。


──ここには刻印(マーキング)だけして……。


 今は〝なんの店か?〟を探るより、ジークの行動を把握するほうが先だ。

 ブリーはジークの後を追った。

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