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オメガなおっさんは平穏に暮らしたい  作者: 琉斗六


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1:レイド

 その日、ブリュンヒルドこと〝ブリー〟は大規模レイドに参加していた。


 街に近いダンジョンから漏れ出した瘴気。

 それによって、近隣のモンスターが活性化した。

 冒険者ギルドは緊急のクエストとして、大規模レイドに多くの高位冒険者を召集したのだ。

 大規模レイドは、危険も伴うが報酬も大きい。

 正義感に駆られる者や、報酬狙いの命知らずなどが集まってくる。


 だが、アルファであり高位冒険者でもあるブリーは、そのどちらでもなかった。

 彼女にとって大規模レイドの最大の魅力は、〝野営の炊き出し〟それだけだ。


「おかわりあるからな〜」


 その男は、一見したところベータの中年男性に見えた。

 冒険者としては、さほど目立った特徴もない。

 低〜中位冒険者がよく使っている量産品の革鎧と採取などで好まれるダガーを腰に携えていた。

 しかし、なぜか彼の(まえ)には長蛇の列ができている。

 置かれた鍋から、少々変わった──だが食欲を刺激する香辛料の匂いも漂っていた。

 ブリーは、その匂いにつられて列に並ぶ。


(から)いのと、(から)くないの、どっちにする?」


 ブリーが器を出すと、男はそう問うてきた。


(から)いの」

「ほい」


 よそってくれた黄金色のシチューには、パンが添えられていた。

 自分のテントに戻ったブリーは、その熱々のシチューをほくほくしながら一口、食べた。


──なにこれ!


 もしブリーの尻に犬の尻尾が生えていたら、それは今、ちぎれんばかりに振られていただろう。


──おいしい! なにこれ、おいしい!


 スプーンを動かす手は、いつもの五倍速ぐらいに動いていた。

 そして、皿を舐めるようにパンで拭ったところで、それを口に詰め込みながら、ブリーはおかわりの列に並んでいた。



§



 昼食後、野営地で炊き出しの後片付けをしている後方支援組を置いて、モンスター殲滅のためにブリーたちは森へと入った。


「前方から、ウェアウルフの群れ接近。その後ろにキラーベア」


 斥候の情報を元に、冒険者たちは展開し、モンスターを迎え撃つ。

 ブリーも得意の槍を構え、身体強化の(じゅつ)を身にまとって、一歩踏み出した。


──あれ?


 体が──軽い。

 確かに、身体強化を使うと通常より移動速度も膂力も上がるが。

 今日のそれは、いつもよりもずっと、体が思うように動いた。

 思考と身体が、噛み合いすぎている。


──なんだろう? 調子良すぎ……。


 予定範囲の討伐を終えたところで、撤収の笛が鳴り、冒険者たちは野営地へと戻った。


「やっぱ、ジークがサポートに入ってると、違うなぁ」


 森の小径を野営地へと向かう途中で、ブリーの前を歩く二人連れの片割れが言った。


「だな。あの飯食って、戦果が上がるって、最高だよな」

「今日のカリーも美味かったしなぁ。うちのリーダー、口説き落としてくんねぇかな?」

「無理無理。そろそろ一級に上がるパーティーが誘っても、応じなかったらしいぜ」


 ブリーは、歩みを早めて二人の間に割って入った。


「カリーって、なに?」

「うわっ! なんだっ!」

「えっ? ブリーが喋った!」


 いきなり間から顔を突き出され、二人の冒険者はギョッとする。


「カリーって、なに?」


 構わず、ブリーは問うた。

 二人の冒険者は顔を見合わせ、それから──諦めたように口を開く。


「今日の炊き出しに、変わった香辛料使ったシチュー出してた奴いたろ? 首にバンダナ巻いてる、しょぼいおっさん」

「うん、いた」

「四級冒険者のジークフリートっつって、後方支援専門職なのにソロなんだよ」

「それ、おかね稼ぐの、難しくないの?」


 ブリーの問いに、二人は肩を竦める。


「ジークの飯、食った?」

「食べた。おいしかった」

「動きにキレがあった……かなんて、ウェアウルフ程度じゃわかんないか……」

「すごかった。……あれ、ジークのごはんの力?」


 訊ねたブリーに、一人は頷いてみせたが。


「炎獄のブリュンヒルドにも効果あるのかよ……、やっぱとんでもねぇな、ジーク……」


 もう一人は、ぼそっと呟いていた。


「ジークが後方支援に入ると、なぜかステータスにバフが掛かるってんで、いっとき話題になったんだ。そんでいろんな奴がパーティーに誘ったけど……。多分、その場限りの短期契約のほうが儲かるんだろうな。ソロで通してるんだ」

「それなのに、まだ四級?」

「そりゃ、前衛職じゃなきゃ、そうそうランクは上がらないし。後方支援の仕事がない時は、薬草採取しかしてないらしいし」

「ふうん。……ありがと」


 納得したブリーに、二人の冒険者は「ブリーってお礼言えるんだ……」と、こそこそ話ながら離れていった。

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