第七章 他のパーティーと飲み会に行こう
依頼達成の報告を済ませた、エンビヤージの四人とエディズの二人は、夜のギルド酒場にいた。
カウンターには麦酒ジョッキがずらり。
エレノアが音を立てて乾杯する。
「ゴブリン退治完了ッ! みんなお疲れさんッ!」
「かんぱーい!」
「お疲れ様…」
「アンタ、勢い強すぎ、泡があふれるって!」
いつも通りの賑やかさに、レジーナとスーザンは目を丸くしていた。
「へええ、お前ら、ホント仲良いんだな…」
スーザンが苦笑しつつジョッキを傾けると、エレノアがニッと笑った。
「まあね! 最初はバラバラだったけど、今じゃ家族みたいなもんよ!」
「へええ」
レジーナが小さく呟き、グラスを見つめた。
「うちら、魔法士を入れようとしたときもあるんだけど、うちらってバカだからさ、魔法士にナメられて、イラつくから、『あんなもん要らねえ』って強がってたんだけど、やっぱり居た方が良いな」
その目に、一瞬だけ影が落ちる。
ジョアンナは、その表情を見逃さなかった。
彼女は静かにジョッキを口にしてから、問いかける。
「レジーナ。あなたたちは、ずっと二人で組んでるの?」
「ああ、もう半年くらいかな。前は三人だったんだけど…」
「三人?」
スーザンが頷く。
「レジーナの師匠、エドモンドって人がいたんだよ。めっちゃ強くて、基本的な魔法もできて…」
スーザンの言葉が詰まる。
代わりにレジーナが口を開いた。
「…ある依頼の最中で、うちらをかばって死んじゃったんだ」
もう少し説明が欲しそうな四人の様子を見て、レジーナは話を続けた。
「あたしには冒険者の両親がいて、ある事故で二人とも死んでさ。エドさんは両親の冒険者の知り合いでソロだった。身寄りがないあたしを、引き取って育ててくれたんだ」
「苦労したのね…」
「全然! エドさんが良くしてくれたからな。でもあたしが冒険者に成るっていったら、すっげえ反対されて… でも、めっちゃダダこねたら、最後には折れてくれたよ。『どうせなら、俺が全部仕込んでやる』って…」
スーザンがいった。
「アタシは農家の子なんだけど、ジーナと仲が良くて、子供なのに冒険者やってるジーナが羨ましかった。だからエドさんに頼み込んで、一緒に冒険者をやることになって…」
「三人でパーティー組んでたんだけど、うちら頭悪いから、魔法関係は全部エドさんに任せっきりで」
「いなくなったら、めっちゃ困るっていう…」
「アハハ…」
レジーナの乾いた笑いが、虚しく響いた。
黙る四人を見て、レジーナがいった。
「よくある話だろ。楽しくいこうや」
ジョアンナがいった。
「それで、パーティー名がエディズなのね」
「ああ。あの人がいなかったら、うちらはここにいないからな」
「だけどあの人がいない戦いに、まだ慣れなくてさ、強がらないと不安になるんだ…」
エレノアがいった。
「でもアンタら二人だけってのは… ちょっと危ないんじゃない? 魔法使いを入れたほうが絶対いいって!」
「それはわかってるんだけど…」
レジーナが苦笑する。
「…知り合いも、いないしなあ」
ブリジットがふといった。
「ジョアンナ、あんた魔法学校出でしょ? 一人ぐらい友達いるんじゃないの?」
「それが…」
ジョアンナは、いいづらそうに話す。
「…いなかったのよね。自分でいうのもなんだけど、当時は真面目すぎて、遊ぶのは罪みたいに思ってて」
「当時?」
エレノアがニヤニヤと笑いながらつぶやいた。
「『今も』よ。ええ! そうよ!」
みんながドッと笑った。
ようやくレジーナたちも笑みを見せる。
「…今日はありがとうな。助けてくれて。また一緒に飲もうや」
「もちろん!」
エレノアが、力強くうなづく。
だがブリジットは、少し険しい目をしていた。
「あんまり無理しないで」
「おう! のんびりやってるつもりだけどね」
ブリジットが続ける。
「仲間が死んでから、『死なないための戦い方』を忘れてる人、たまにいるのよ。 …アンタらもそう見える」
スーザンが、苦笑して肩をすくめた。
「そう見えるんなら、そうなのかもな」
「頭にとめとくわ」
その夜の帰り道、二人はギルドを出て、月明かりの下を並んで歩いた。
「ねえ、スーザン、うちら、まだエドさんに頼ってんのかなあ…」
「そんなことないよ。ちゃんと、あたしらだけでやれるって…」
そう言いかけて、スーザンの声が揺れる。
風が吹き抜け、夜の町の灯りが瞬く。
エドモンドの笑顔が、ふと脳裏に浮かんだ。
「…それに、別にいいじゃん。エドさんが居なくなって、まだ半年だよ…」
「そうだよな。忘れるには早いよな」
「うん…」
スーザンがうなづく。
二人の宿屋が見えて来た。
翌日。
ジョアンナは、少し迷いながらもある人物を訪ねた。
「おお、どうしたんだ?」
彼女は、かつてのパートナーであるガレスに会いに行ったのだ。
「ちょっと頼みたいことがあるの。腕の立つ魔法士、誰か知らない?」
「魔法士? お前の魔法学校の知り合いは?」
「いないっつのッ!」
「何か悪いことでもいったか? そんなに怒らなくてもいいだろ?」
「いいからッ!」
短い沈黙のあと、ガレスが笑った。
「そうだなあ… ノーラに聞いてみようか。俺の今のパートナーで、エルフの魔法士だ。知り合いもいるだろうから」
「エルフなら、魔力は期待できそうね。お願いするわ」
そういうとジョアンナは、ガレスの部屋から去って行った。
ガレスは肩をすくめた。
「あいかわらず、勝手だなあ。まあ、そこが良いんだけど…」




