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第二十一章 収穫祭にみんなで行こう

その日、この町は、一年でもっとも熱気にあふれていた。


収穫祭。

大地の恵みに感謝し、来る冬に備えて英気を養う、この国最大のお祭りだ。


「ハッピー・ハーベストッ!!

 肉だッ! 酒だッ! 祭りだッ!!

 見てミラベル、ブリジット、ジョアンナ!これが収穫祭だよ!」


エレノアは、町の通りで、興奮を隠さずに叫んだ。

町の中心にある広場へと続く道の両側には、所狭しと並ぶ屋台の列。

焼かれた肉の香ばしい匂い、焼き菓子の甘い匂い、そしてこの時期にあわせて仕込まれた新酒の匂いが混ざり合い、町全体を祝福の空気で包み込んでいた。

エレノアの目は、出店に並ぶローストポークの山に釘付けになっていた。

幼馴染の火魔法士ミラベルは、額に手を当ててため息をついた。


「エレノア、声が大きいよ。あんたが騒いでるせいで、みんなこっち見てるじゃない」


彼女の手には、すでに焼きリンゴの串が握られている。


「いいじゃん! それだけ、この祭りが最高だってことの証拠だろう?」

「エレノアのいう通りだね。この賑わいは格別だよ。たまには、こうして平和な時間を楽しまないとね」


ブリジットは周囲を見渡しながら、静かに微笑んだ。


「エレノアには、今日は食べ過ぎの治癒が必要かもね…」


ジョアンナがつぶやく。


「さっそく食おうぜ! 焼きたてのパンに、新鮮な肉、それに特産のチーズを挟んだやつ! 旨いに決まってる!」


エレノアは、一直線に屋台へ突進する。


「ちょっとッ! ちゃんと行列に並びなさいよッ!」


ミラベルが叫ぶが、彼女の足は止まらない。


「ほら、ブリジット! このサンド、絶品だぞ! ほら、口開けろ!」

「むぐっ!? ちょっとエレノア、熱っ! でも美味い!!」

「だろー!?」


ミラベルが、手に持ったリンゴの串を見ながらいった。


「ワタシは、もう少し焼きの強い方がいいかなー」

「ここで魔法は、やめなさいよ!」


指先に小さな火を灯そうとして、ジョアンナに止められてしまった。


四人が屋台巡りを楽しんでいる間にも、町の中心、広場では収穫祭のシンボルである巨大な藁人形が天高くそびえ立っていた。

豊穣の神の象徴として作られたそれは、夜になると火がつけられ、祭りのクライマックスを飾ることになっている。


「まずは、水の掛け合戦をのぞいてみようか。この近くの池で行われているはず」


ブリジットが、地図を見ながら提案する。


「賛成! 賛成!」


いつの間にか肉の串焼きを片手に戻ってきていたエレノアが、口いっぱいに頬張りながらいった。


町の外れの大きな池の周りには、すでに多くの人々が集まっていた。

水の掛け合い競技は、豊穣の神に感謝し、一年の実りを水で清めるという意味合いを持つ、この祭りの人気行事の一つだ。


ルールは簡単。

参加者は二人一組で、木製のヘラや桶を使って、相手を池に落とすか、ずぶ濡れにすれば勝ち。

男女問わず、冒険者から町の住人まで、多くの人々が参加していた。


「見て!エレノア、あれ!」


ミラベルが指さした先には、見知った顔があった。


「おっ、レジーナとスーザン! やる気満々だな!」


エレノアは、興奮して手を振る。

さらに、別の方向には、アコルディアのリラとシルヴィアの姿も見えた。


「リラたちも参加してるわね。エレノア、あなたも出るんでしょう?」


ジョアンナがたずねた。


「もちろん!こんな面白そうなもの、参加しない手はないだろ! ブリジット、アンタも!」

「いいね。パーティー対抗戦と行くか」


水の掛け合い競技が始まった。

一般人の部が終わり、次は冒険者たちの部。

エレノアは、その常人離れしたパワーで、用意されていた木桶を片手で軽々と持ち上げ、池の水を勢いよく汲み上げた。


「いくぜ!」


その水を豪腕で振り抜く。

それだけで大砲のような水塊が飛び出し、対岸にいた男性冒険者二人組を吹き飛ばした。


「ちょ、あれ水遊びの威力じゃねぇぞ!?」

「物理攻撃だ! 逃げろ!」


ジョアンナは、頭を抱える。

ブリジットは敵の顔を狙って、木桶で鋭く正確に水を掛けた。


「ぐああっ! 鼻に! 水が鼻に入ったぁ!」


二人は次々と相手を撃退し、次に敵としてエレノアの前に立ちはだかったのは、レジーナとスーザンだった。


「エレノア! 手加減しないぜ!」


レジーナがそういうと、スーザンは自身が盾となり、エレノアの木桶の水を受け止める。


「やるな、スーザン!なら、これはどうだ!」


今度はブリジットが、スーザンの顔を狙う。


「ちょ… やば…」

 

スーザンは、悲鳴を上げて池に沈んだ。

スーザンが居なくなったレジーナを二人の水撃が襲う。


「容赦ねえ!」


エディズは、滅び去った。

エレノアとブリジットの二人で、みるみるうちに池の周りの参加者たちが減っていく。


「エレノアさん! 今日は、私たちも負けませんよ!」


新人冒険者のリラとシルヴィアが、二人の前に立ちはだかった。


「オマエらに、負けるアタシたちじゃないぜ!」

「おお!」


エレノアとブリジットの、文字通りの波状攻撃になすすべがないアコルディアの二人。

こちらも敗退となった。

悔しそうに叫ぶ。


「ちくしょう! 筋肉が、もっとあれば!」


見ていたジョアンナが、つぶやいた。


「…だいぶ、洗脳されてるな」


結局、水の掛け合い競技は、エレノアとブリジットが最後まで立ち残り、彼女たちの勝利となった。


水の掛け合い競技が終わると、エレノアたちはすぐに冒険者ギルドへと向かった。

ギルドでは、収穫祭のメインイベントの一つ、木剣による冒険者最強決定戦が始まろうとしていた。


「さぁ、次はこの剣の試合だ! アタシは二冠を制す! ミラベル、ジョアンナ、アタシの勇姿をしっかり見ておけよ!」


エレノアは興奮のあまり、剣の代わりに持っていた串焼きの串を握りしめた。


「エレノア、あんたの手にあるのは串よ! 木剣じゃないわよ!」


ミラベルがいった。


試合は、ギルドの訓練場に設けられた特設のリングで行われた。

ルールは至ってシンプル。

木剣で相手の胴体、頭部、四肢のいずれかを叩きつければ勝利。

ただし、治癒師が控えているとはいえ、ケガのないよう、本気の必殺技は禁止だ。


「第1試合! エレノア 対 レジーナ!」


エレノアとレジーナが、リングの中央に進み出る。

観客の歓声がどっと湧いた。

レジーナは、俊敏な動きと体術で、相手の攻撃をかわすことを得意としている。


「レジーナ! 全力でいくぞ!」

「望むところだ! エレノア! 手加減なしで行くよ!」


エレノアは、木剣を構える。


ファイト!


エレノアが一歩踏み出すと、床がミシリと音を立てる。

彼女の一撃は、木剣にもかかわらず、もし当たれば骨折は免れないだろう。

エレノアは、正面から豪快に横なぎの一撃を放った。


「エイヤッアアアッ!」


レジーナは、その一撃を紙一重でかわす。

エレノアの木剣が空を切り、風圧だけでレジーナの髪が大きく揺れた。


(エレノアめ! 毎日戦ってるというのに、今日は一段と振りが早いな!)


レジーナは、エレノアが一瞬体勢を立て直す隙を突いて、懐に潜り込む。


「今だ!」


レジーナは、木剣をまるで細剣のように使い、エレノアの胴体に突きを放った。


カンッ!カンッ!カンッ!


しかし、エレノアは驚異的な反射神経で、木剣の柄の部分で、レジーナの突きを全て受け止めてみせた。


「おっ、やるなレジーナ! だが、アタシの筋肉は、その程度じゃ貫けないぞ!」


エレノアの木剣が、うなりを上げて振り下ろされる。

レジーナは柄で受け止めるが、その重さに膝が曲がる。


「うぐ… なんて馬鹿力…!」

「まだまだぁ!」


技術も駆け引きもない。

試合は続く。

レジーナは体制を立て直し、エレノアの猛攻をかわしながら打ち込む。


「すごいわ、レジーナ。エレノアの動きを見切ってる」


ジョアンナが、称賛の声を上げる。

しかし、エレノアの集中力は凄まじかった。

エレノアは一切の小細工をせず、ただ一撃に全てを込めた。


「オラアアッ!」


彼女は木剣を頭上に掲げ、そのまま巨大な斧のように振り下ろした。

レジーナはかわしきれないと判断し、木剣を横にして防御する。


ガン! ガン!


木剣同士が激しくぶつかり合う。

一瞬の硬直の後、木剣が砕け散る音と、レジーナの悲鳴が同時に響き渡った。


「頭部への打撃! 勝者、エレノア!」


エレノアの規格外のパワーが、木剣の耐久度さえも凌駕した結果だった。


エレノアの試合の後、続けてブリジットの試合が始まった。

彼女の対戦相手は、リラだった。


「さっきのリベンジ、させてもらいますよ」

「出来れば、良いけどね」


ブリジットは、静かに木剣を構える。


ファイト!


リラは距離を取り、間合いを図った。

ブリジットがいう。


「力勝負じゃ、分が悪いと思ったの?」

「作戦ですよ! 相手を見て、臨機応変に!」

「でも、それは逃げの戦法だよ」


ブリジットは、微動だにしない。

リラが、一歩を踏み込んだ。

その瞬間、ブリジットの木剣が閃いた。

リラの振り下ろされた木剣を、逆袈裟にブリジットが跳ね上げ、返す木剣で正確にリラの頭部に当てた。


「勝者! ブリジット!」


ブリジットは静かに一礼し、リングを降りる。

彼女の額には、一滴の汗も浮かんでいなかった。


「エレノアは力で勝ったけど、ブリジットはムダなく勝ったわね」


ミラベルは、感動して拍手を送る。


「エレノアには、この勝ち方はできないかもな」

「アタシには、アタシの勝ち方があるのさ」


エレノアは反論するが、ブリジットはただ静かに微笑むだけだった。


その決勝戦は、エレノア 対 ブリジットだった。


「なんかあんまり代わり映えしないな」

「まあ、毎朝やってるからね…」

「じゃあさ。ここは筋肉勝負で」

「…いいね」


そういうと、二人はガチンコの木剣の斬り合いを始めた。

技も何もない純粋な力勝負。

木剣がただ激しく当たる音がする試合場。

だが人々は固唾を飲んでその勝負を見た。


「オリャアアアアッ!!!!」


渾身のエレノアの攻撃で、ブリジットの木剣が折れた。


「これじゃあ、戦えないな。アタシの負けだ」

「やったぜ!」

「手が痛いよ」


二人が言葉を交わすと、緊張していた審判が気づいたようにいった。


「勝者! エレノア!」


ジョアンナが、二人に治癒を行なう。


「すごい勝負だったわ」

「疲れたよー」


ミラベルが、笑顔で二人にいった。


「さあ、次は屋台に戻って、お腹を満たそうよ!」


四人は、早くも次の楽しみへと意識を向けていた。

エレノアたちは再び広場の賑わいの中に戻ってきた。

エレノアとミラベルが屋台の特大ハニートーストにかぶりついていると、ジョアンナが不意に足を止めた。


「あら?」


ジョアンナの視線の先には、一人の男性が立っていた。

優しそうな面立ちで、落ち着いた物腰。

気が付いたエレノアがいった。


「お! ガレスじゃん」


ガレスは、ジョアンナの元同僚だ。

彼も四人に気づいて話しかけて来た。

エレノアが声をかける。


「ハッピー・ハーベスト! 久しぶり」

「ハッピー・ハーベスト さっきの試合見てたよ」

「ガレスは出なかったの?」

「オレはそこまで腕がないからな」

「まあ腕自慢ってタイプじゃないからなー」


ジョアンナも、声を掛けた。


「ハッピー・ハーベスト。元気にしてるの?」

「まあな」

「今の相棒のノーラは?」

「アイツも、来てるんじゃないかな」


ジョアンナは、少し照れたような表情を浮かべた。

ブリジットとミラベルは、互いに顔を見合わせた。


「…アタシらは、ジャマかもね」


ガレスに話しかけようとするエレノアの腕を、ミラベルは引っ張った。

エレノアは、ハニートーストを落としそうになる。


「エレノア!」


ミラベルは、悪だくみをするような笑みを浮かべる。


「アンタは、ホントに脳筋ね!」


ミラベルが、エレノアに耳打ちをした。

エレノアが、あわてていう。


「たしかに、そうかもな。…アタシだって、もちろんわかってたさ」

「ホントかな~」


エレノアは突然、思いついたように声を張り上げる。


「あ! そうだ! アタシたち、急用を思い出した!」

「え! どうしたの?」

「だから、行かなくちゃ!」

「え? どこに? 私も行くわよ。みんなで行きましょう」 

「いいんだ! ジョアンナは! アタシら三人で何とかなるから! そうだよな! ミラベル!」


エレノアは、ミラベルに目力で圧をかける。


「ええ!」


エレノアはそういうと、立ち去ろうとする。

ジョアンナは、キョトンとした。


「え? でも…」

「いいから! いいから! 実り多き一日を!」


なんとか、二人から離れることに成功した。

ブリジットが、堪らずいった。


「オマエ、下手だな!」


ミラベルもいった。


「ホントだよー。もっと自然に出来ないの?」

「だって、よくわかんねえんだもん!」

「まあ、いっか! 結果オーライで…」


ブリジットが笑う。


「…さあ、見つからないように、広場にでも逃げよう」


広場に戻る途中、前から歩いて来る、ある小柄な冒険者に出会った。

全身黒服である。


「あれは… レイヴンじゃないか?」


エレノアが、目を見開いた。

レイヴンは、以前ミラベルと因縁があった。


「ハッピー・ハーベスト! レイヴンさん! お久しぶりです!」


エレノアは、勢いよく駆け寄る。

レイヴンは、エレノアたちをじっと見つめた後、口を開いた。


「ハッピー・ハーベスト~ ウワサは聞いてるよ~ ずいぶん活躍してるらしいね~」

「アタシら、まあ、なんとかやってます」


エレノアは舌を出した。


「よくいうよ~ バリバリやってるじゃないか~」

「ハハハ。楽しんでるだけです」

「そうか~ もっと、気張ってるのかと思ってた~ やるね~ レノっち~」

「え?」

「エレノアでしょ。だから、レノっち!」


レイヴンは、認めた後輩に独自のあだ名をつける。


「そっちの彼女は、ブリジットだったね。じゃあ、ジットン!」

「はあ?」

「気に入ってくれる~」

「変だろ! 絶対ッ!」

「オマエ! 礼をいえよ!」

「なんでだよッ! おかしいだろ!」

「冒険者のあだ名は、おかしいぐらいが良いんだよ~」

「意味がわからん!」

「じゃあね~ これからも、がんば… いや、楽しくね~」

「実り多き一日を!」


レイヴンのあだ名は、エレノアにとって、何よりも嬉しいことだった。

エレノアの瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。

ブリジットが、それを見つけていった。


「なに泣いてんの? キモっ!!」

「キモくないわッ! わかんないかな~? 冒険者としての勲章を一個、もらったんだよ~!」

「レイヴンに? ぜんぜんわからん!」

「冒険者オタの矜持とかじゃない?」


ミラベルがいった。


「オタじゃないって~ なんで、ジョアンナがいないんだよ~ アイツだったら、わかるのに~」


ミラベルとブリジット、顔を見合わせて苦笑した。

エレノアたちは、広場へと向かった。


広場の中心に近づくと、エレノアたちは三人の少女に出会った。


全員が小柄で尖った耳を持つエルフだった。


「ハッピー・ハーベスト! エンビヤージの皆さんじゃないですか。お久しぶりです」


話しかけてきたのは、ガレスのパーティーのノーラ。

その隣には、エディズのパーティーのアイナ。

そして、魔法店を営むテレサだった。


「ノーラ! アイナ! テレサ! ハッピー・ハーベスト! みんなも、祭に来てたのか!」


エレノアは、満面の笑みを浮かべる。


「ハッピー・ハーベスト 収穫祭のお菓子が美味しいって聞いて、遊びに来たんです。店も今日は休みだし」


テレサが、はにかみながら答えた。


「エレノアさんたちの話は、アイナにも聞いてますよ」

「ホントかよ。アイナ、どんな話してんだよ!」

「まあ、主に筋肉の話をしてるって」

「おい! どんなヤツだよ。それ!」

「アハハ!」


それでも、ノーラはエレノアたちを称賛した。

エレノアたちは、ノーラたちと少しの間、冒険の話や、エルフの里での生活の話に花を咲かせ、エルフたちと別れた。


「サンクス・ハーベスト!」

「実り多き一日を!」


夜になり、町の広場は昼間の賑わいとは打って変わって、厳粛な雰囲気に包まれていた。

空には満月が浮かび、町の住民、冒険者、そしてエレノアたちエンビヤージも、広場の中央、巨大な藁人形の周りに集まっていた。


「さあ、いよいよね。神の象徴の人形に火がつけられるわ」


ミラベルが、エレノアの隣で静かに見上げる。

藁人形は、豊穣の神に感謝を捧げるためのもので、その燃え上がる炎は、来たる一年の豊かさを象徴している。

教会の神官が厳かな祝詞を読み上げ終えると、いよいよ藁人形に火がつけられた。


ゴオオオオオ!


藁人形はあっという間に炎に包まれ、夜空を赤く染め上げた。

炎は高く燃え上がり、エレノアたちの顔を熱で照らす。


「わあ…!すごい迫力だ!」


エレノアは、感動の声を漏らす。

ミラベルは、炎の魔術師らしく、その炎の美しさに魅入られていた。


「私の魔法とは違う炎ね…」


炎の勢いが落ち着き、藁人形が巨大な炎のトーチとなったころ、広場の端から、陽気な音楽が流れ始めた。

収穫祭の夜のクライマックス、炎の輪のダンスだ。

老若男女、身分を問わず、集まった人々は炎の輪の周りで手を繋ぎ、踊り始めた。

それは、神への感謝と、来たる一年の実りと連帯を誓い合う、伝統的なダンスだった。

エレノア、ミラベル、ブリジットは、自然と手を繋ぎ、炎の輪の中に入った。


「踊ろう! ミラベル、ブリジット!」


エレノアは声を弾ませる。


「ええ!こんなに開放的な気分になるなんて、久しぶりだわ!」


ミラベルも、笑顔で踊る。


「エレノア! アンタ、ダンスなんて踊れるの?」

「いいんだよ! こういうのは、音楽にのって、体を動かせば!」


ブリジットは苦笑しながら、エレノアの力強いステップについていく。

三人が踊っていると、そこにジョアンナが戻ってきた。

隣には、ガレスの姿はない。


「あれ? ジョアンナ。どうだった? ガレスと」


エレノアは、心配そうに尋ねる。

ジョアンナは、微笑んで答えた。


「ええ。色々と話したわ」

「それで、進展したの!?」


ミラベルが、目を輝かせる。


「進展? やめてよ。私たち、そんな仲じゃないわ」


ジョアンナは、照れたようにいった。


「ガレスは、そう思ってないみたいだけど…」


ミラベルが、不満そうにつぶやいた。


「私たちは、良い友人よ。それより!」


ジョアンナはそういって、エレノア、ミラベル、ブリジットの間に、そっと自分の手を差し入れた。


「今日は、四人で踊りましょうよ。こんな素敵な夜なんだから」


エレノア、ミラベル、ブリジット、ジョアンナ。

四人は、燃え盛る藁人形の炎の輪の中で、手を繋いで踊り始めた。

彼らの周りには、レジーナやスーザン、リラやシルヴィア、そしてアリーナ、さらにノーラたちエルフ、そして先ほどエレノアを承認してくれたレイヴンなど、多くの仲間たちが踊っていた。


「来年も、再来年も! みんなでこの祭りで集まって、ドラゴンでも何でも、ぶっ倒してやろうぜ!」


エレノアが、炎にも負けない大声で叫ぶ。


「ええ、エレノア。そうね」


ジョアンナが答える。


「ミラベルの火魔法に負けない、最強の治癒師として、あなたたちを支えるわ!」

「エレノアの暴走を止めるブレーキ役は、私が務めるぜ」


ミラベルは、自信に満ちた笑みを浮かべる。


「あたしも、エレノアに負けないよ!」


ブリジットが、力強く誓った。


「ハッピー・ハーベスト! エンビヤージ、最強!!」


四人の声が、夜空に高く燃え盛る炎の音と、人々の歓喜のざわめきに溶け込んでいった。

彼女たちの絆と力は、この炎のように、来たる一年も、そしてその先も、決して消えることはないだろう。

この夜、町は、豊穣の神の祝福と、若き英雄たちの熱い誓いに包まれて、更けていった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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