第二章 パーティーに治癒師を入れよう
「痛ってえ!!」
エレノアの叫びが、森に響いた。
手には大きな裂傷。血がどくどく流れている。
「エレノア! また突っ込みすぎたでしょ!?」
「だ、だってあのボア、こっち見てたから!」
「いや、ボアは大抵こっち見るよ!」
「…ホントに、あんたらは」
ブリジットがあきれながらいった。
「ミラベル! 治癒!」
ミラベルが慌てていう。
「私、回復魔法使えないんだけど!」
「え!? なんで!」
「攻撃しか得意じゃないんだもん! そもそも、火と水の属性しかないから、治癒は全然…」
「そうだったのか…」
ギルドに帰った三人は、卓を囲んだ。
「エレノアがケガで使えないとなると、仕事が滞るなあ…」
意を決したように、ブリジットがいった。
「治癒師を雇うか」
エレノアとミラベルが、ブリジットを見た。
「でも高いんじゃないの?」
「それはそうなんだけど、このパーティーの未来を考えると必要だよ。それにオールマイティの魔法士は高いけど、治癒専門ならそこまで高くないと思う」
彼女らは、ギルドの求人票を探した。
しかし、そこに条件の合う人材はいなかった。
「やっぱり高いな。そこまで高度な治癒はいらないんだけどな」
「高ランクパーティーにしか、治癒師がいないのはそういうことか…」
仕方がないので、エレノアのケガは、物理的に治すことにする。
「おい! その方法、本当に正しいのか?」
「大丈夫。 …なはず」
「『はず』って、なんだよ!」
ブリジットは、エレノアの手の血がまだ止まらないので、火で焼いた鉄棒を当てて止血しようというのだ。
「これ傷は塞がっても、絶対痛いだろ!」
「まず血を止めなきゃな」
「待って待って! 心の準備が!」
「やっぱりワタシのファイアーボールの方が良いんじゃない?」
「手が無くなるわッ!!」
そのとき、背後から落ち着いた声が響いた。
「…まったく。治療を遊びみたいにするなんて、信じられないわ」
三人が振り返ると、そこに立っていたのは白いローブの女性だった。
肩までの黒髪をきちんとまとめ、眼鏡をかけた整った顔立ち。
清潔感に溢れている雰囲気だ。
「…誰?」
「通りがかりの治癒師よ。見てられないから手を貸すだけ」
彼女は、無駄のない動作で詠唱を始める。
淡い光がエレノアの傷口を包み、じわじわと肉が再生していく。
「わ、すごい! もう痛くない!」
「…ありがとうございます!」
「…」
「治療費は?」
「私が好きでしたことだから、いらないわ」
淡々と答えると、去って行った。
「あの人、誰?」
「知らない」
三人が調べると、彼女はジョアンナという治癒師だった。
ソロ治癒師として、パーティーに雇われているらしい。
徐々にレベルも上がり、依頼の難度が上がり、とくに剣士の二人はケガをすることも多くなった。
パーティーに、治癒師がいた方が良い。
ジョアンナに声をかけることにした。
彼女の能力は見ている。
話し合ってみると、料金も思ったほどではない。
「私の能力なら、このぐらいが妥当です」
吹っ掛けてくる治癒師も多い中、彼女は良心的だった。
お試しで彼女を雇うことにした。
だが、依頼についてきた彼女は、その仕事ぶりを見て三人にいった。
「あなたたち、本当に冒険者? まるで子供の遠足ね」
「え、えっと…」
「まず。私語が多すぎ。戦闘中は集中を切らさないこと」
「えぇ…」
「怯えた態度で剣を振っても、敵に隙を見せるだけ」
「うぅ…」
矢継ぎ早に浴びせられる注意に、エレノアとミラベルはたじたじになった。
ブリジットは腕を組んで「ほら見ろ」と言わんばかりに頷いている。
彼女はいままで思うところもあったが、あまり厳しくはいわなかっただけだったのだ。
ミラベルがいった。
「ブリジットにも、注意はないですか?」
「おま… ちょっ…」
「人のことは良いから、自分のことをまず直してください」
ブリジットは内心喜んだが、ジョアンナにこういうことも忘れなかった。
「アレがアイツらのノリで、良い所もあるんですけどね」
「仕事の自覚が、無さすぎます」
今回の依頼は、ゴブリンの退治だった。
何かを察したジョアンナがいった。
「前方にゴブリン三体 距離十五メートル」
エレノアは思わず姿勢を正した。
「お、おっけー。 私が正面から…」
走り出すエレノアにジョアンナがいった。
「止まって」
「え?」
「左右から回り込むのよ。エレノアは左、ブリジットは右。ミラベルは後方から援護」
ジョアンナの指示に三人が答える。
「はい」
「了解」
「わ、わかった」
三人は言われたとおりに動く。
ゴブリンたちは、突然の挟撃に慌てふためき、ミラベルの火球が炸裂する。
「ファイアーボールッ!」
轟音と共に、ゴブリンが一体黒焦げになった。
「うあッ! また派手にッ!」
「ごめん! でも今回は敵だけ狙えたから!」
「まあ、良しとしよう!」
エレノアが剣で二体目を斬り伏せ、ブリジットが冷静に三体目の胸を突く。
あっという間に戦闘は終わった。
「…ふぅ。すごいよ! いつもよりスムーズに勝てたんじゃない!」
「ジョアンナの指示のおかげだよ!」
「うん、悪くないな」
ジョアンナは冷静にいった。
「動きに無駄が多い。もっと改善できるはずです」
「うぅ… またダメ出し…」
「でも、結果は出てるから…」
三人は顔を見合わせ、ため息をついた。
数週間後。
「ねえ、ジョアンナさん。正式に私たちのパーティーに入ってくれませんか?」
エレノアが頭を下げた。
ジョアンナは少し驚いたように瞬きをし、それから静かに笑った。
「…私で良いなら。借金もあるから、常勤の方がありがたいわ」
「借金?」
「魔法学校の学費です」
「そうなんですね…」
「私、冒険者になりたいの。腕っぷしはないから、治癒師としてね」
「アタシたちもです! カッコいいですよね! 冒険者!」
「ライラ・シルヴァー、クイン・ホーソーン… 私の憧れです…」
「気が合いますね! フィオナ・ファイアハートは?」
「もちろん! 彼女のようになれたら、最高です…」
こうして、女三人組に治癒師が加わり、四人組パーティー、エンビヤージが誕生した。




