表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

第十七章 朝練で筋肉をつけよう

エンビヤージの様子が、ちょっと変わってきた。

爆裂魔法のミラベルが魔法制御を覚え、治癒師ジョアンナも魔力を上げ、二人はパーティーの頼れる後衛として、どんどん成長していた。


「うわー、二人ともマジすごいな…」


エレノアは、野営地の焚き火の前で腕を組んだ。

筋肉質な腕が、炎でキラリと光る。


隣のブリジットは、静かに剣を研いでいる。

金色の髪が光り、淡々とした表情の中に、わずかな緊張が見えた。


「焦る?」

「うん… ちょっと置いていかれてる感あるじゃん?」

「そうだな…」

「でも、ミラベルたちがどんどん強くなってくの見てると、私もなんか燃えてくるんだ。」


勢いよくエレノアが立ち上がる。


「ってことで、ブリジット! 一緒に特訓しようよ! 二人が寝てるうちに、アタシたちで、こっそり体を鍛える」

「筋肉は一日にしてならず、だもんな!」

「よっしゃ! じゃあ、明日の朝からやるぞ!」


翌朝。

ブリジットが、エレノアの部屋に来る。


「おい! 起きろよ、エレノア!」

「なに? なんか用?」

「特訓だよ! するんだろ?」

「眠いよ… 明日からで、良くない?」

「アンタ… ダメだよ。そんなんで自分の筋肉に、顔向けできんの?」

「筋肉… 筋肉か…」

「そうだよ! 筋肉は正直だよ!」 

「わかった… やる!」


宿から、町はずれの森に移動する。


「眠い…」

「体は起きてるけど、きっと筋肉が寝てるんだ。体を動かせよ」


準備運動を行なう。

体を動かしているうちに、エレノアもだんだん目が冴えてくる。


「よーし。燃えてきた!」


木剣を構え、二人は正面に立つ。


「いくぞ、ブリジット!」

「来い、エレノア!」


朝焼けの光が、二人の汗を照らした。

最初はぎこちなかったが、次第に息が合っていく。

二人は朝靄の中、何度も剣を交わした。

風が、心地よい。


「オラあっ!」

「踏み込みが甘いよ!」

「うっ、ぐぬぬぬ!」


エレノアの全身の筋肉を使った突進。

速さよりも重い。

ブリジットはそれを最小限の動きでいなし、なめらかにカウンターを狙う。

斬撃が、空気を裂く。


「くうっ…! やるじゃん!」

「そっちこそ! 力だけは本当に一級品だね!」

「褒めてる? それ?」

「半分ね~」


踏み込みで、砂埃が舞い上がる。

何度も剣を交えるうちに、二人の呼吸が荒くなる。

朝靄の中で、木剣がリズムを刻む。


「はぁ、はぁ… これ、めっちゃ楽しいな!」

「筋肉が喜んでる!」

「わかるわー!」


剣士の特訓は地味だが、二人は互いに刺激し合い、楽しみながら成長していくのを感じていた。


そして、ある日。

冒険者ギルドで、エディズ・パーティーのレジーナたちと会った。


「おー ひさしぶりじゃん! ジーナ! スー!」

「よう! バカ筋肉コンビ!」


ブリジットがいう。


「エレノアはそうだけど、あたしは頭脳派だよ」

「どこがッ?!」

「アハハ!」


エレノアは、そばにいる魔法士のアイナにも声をかける。


「元気にしてる?」

「おかげさまで」

「また、酒飲んでんじゃないの?」

「飲んでますけど、なにか?」

「アハハ!」


レジーナが、二人を見ていう。


「おまえら、しばらく見ないうちに、筋肉付けてない?」

「わかるう?」


自慢げに、腕の筋肉を見せるエレノア。


「アタシら、いま朝練しててさー」

「へえー 地味なことやってんな~」

「いや~ やっぱ、筋肉ウソつかないわー めっちゃ体動くし!」

「ホントか? じゃあ、うちらも混ぜてよ!」

「もちろん!」


こうして、剣士四人による朝の筋肉女子会が誕生した。


「3対1、ヤバい!!」

「ほらほら、エレノア! 手が止まってるぞ!」

「スーザン、速いってば!」

「ははっ、筋肉は裏切らないんだよ!」

「甘いよ、エレノア! 筋肉だけじゃ防げない!」

「くっそぉ! でも、楽しい!」

「いい顔してるね、エレノア!」

「スーザン、油断するなよ! あいつは一撃が重い!」

「わかってるって!」


剣と剣が交錯する。

力のエレノア、技のブリジット、速度のレジーナ、そして根性のスーザン。

木剣がぶつかり合い、互いに笑いながら汗を流す。


次は、二人対二人のタッグマッチ。

エレノア&レジーナ vs ブリジット&スーザン。

レジーナが前衛、エレノアが後衛。

レジーナが盾代わりになり、エレノアが隙間から突進。


「パワーコンビ、行くぜ!」


ブリジットはスーザンと連携し、ブリジットの細剣が牽制、スーザンの双剣が連撃。


「連携完璧! ブリジット!」

「当然! 計算済み!」


四本の木剣が火花を散らし、朝露が飛び散る。

エレノアが横から割り込み、スーザンを弾き飛ばす。


「普段あんまり連携って、考えてなかったな~」

「こうなると、わかるよね」


その戦いはまるで、筋肉で語る詩のようだった。

地味だけど熱く、愚直だけど美しい。


「…なんか、剣技がつくの楽しいな!」

「うん、実感できるのが一番だね」

「筋肉、裏切らんし!」

「アンタ、どんどん脳筋化してない?」


四人は地面に座り込み、息を荒げて笑い合った。


ある日、レジーナが弓を取り出した。


「ねえ、ついでに弓も練習しない? 遠距離もやっとこうよ!」

「いいけど… 筋肉付くか?」

「いいじゃん! 魔術以外の技、ぜんぶ極めたい!」


こうして弓の稽古も追加された。


「おりゃーっ! あっ、的外した!」

「エレノア、腕の筋肉を使いすぎだよ。指先のコントロールだ」

「む、むずいな!」

「でも楽しいね! あたし弓、結構好きかも!」


みんなで弓を引き、的を射る。


「エレノア、顔がこわい」

「集中してるんだって!」

「その顔、集中してる顔じゃないだろ!」


レジーナとスーザンが、腹を抱えて笑う。

朝から、笑い声と筋肉の音が響く平和な時間。


「的を外したら、腕立て百回にしようよ。そうしたら、筋肉も鍛えられるよ」

「マジか~」


回りにはやし立てられながらの腕立て伏せ。

苦しいながらも、楽しくやれた。


ある日。

依頼の後の居酒屋で、ミラベルとジョアンナは、いつものように食べながら、同じテーブルの向こう側で筋肉を光らせているエレノアとブリジットを、じーっと見ていた。


「ねえジョアンナ …やっぱ、思わない?」

「なにを?」

「エレノアとブリジットってさ… なんか、ムキムキ度が増してない?」


ジョアンナはスプーンを止めて、じろりとエレノアたちを観察した。

確かに。

 

エレノアの上腕は以前よりひと回り太く、肩のあたりに明らかに、力こぶが浮き上がっている。

ブリジットに至っては、細身のままなのに、無駄のない締まったラインに妙な迫力があった。

エレノアが、あわてていう。


「そ、そんなことないよ!」


ブリジットも続けていった


「気のせいじゃない?」


ミラベルは、首をかしげながらいった。


「気のせいじゃない、と思うけど…」


エレノアがいう。


「仕事で剣をブン回してるからじゃないかな?」


ブリジットもいう。


「そう! 絶対にそう!」


ミラベルの目が、細くなる。


「あやしいな~」


エレノアは視線をそらす。

ブリジットも、居心地悪そうに肩をすくめた。

ジョアンナがいった。


「まあ、悪いことじゃないから、いいんじゃない?」

「うん、うん! そうだよね!」

「まあ、いいけどさ~」


ミラベルも、なんとか納得したようだ。


しかし、ある日。

いつものように模擬戦をしていたエレノアが、剣を振り抜いた瞬間、足をすべらせて、ブリジットの頭を木剣で強く叩いてしまった。


「わっ!」


ブリジットは倒れて、動かない。

頭に深い切り傷。

地面に血が滴る。

レジーナとスーザンが、あわてて駆け寄る。


「おいッ! ブリジットッ!」

「うわ… これは、ヤバい…」


レジーナが、叫んだ。


「アイナを呼んでくる!」


宿に走って行き、急いでパーティー仲間のエルフ魔法士アイナを連れて来た。

アイナは、冷静に手をかざす。


「大丈夫か?」


心配そうにエレノアが聞くと、アイナはいった。


「大したことないよ」


光が集まり、キズが瞬く間に癒えていく。

エレノアは感動のあまり、涙目でアイナに抱きついた。


「ありがとー! アイナ様!」

「離れて、汗がつくから」


冷静なアイナ。

四人を見ていった。


「特訓はいいけど、剣士だけでやるの、危険だよ?」


その後、エレノアたちはバレたついでに、特訓に付き合ってもらうことにした。

アイナが、ため息をつきながらいう。


「べつにいいんだけど、これって『エルフ搾取』じゃないかな?」

「ポーションですませたいけど、高いしさ~」

「あたしって、無料ポーションなのかあ…」

「わかったよ~ メシ奢るから、許して~」

「だったら、けっこう高めじゃないと!」

「アタシの財布と相談して~」


そして今日も、筋肉女子会は続く。

木剣がぶつかる音、笑い声、そして筋肉の輝きーー


ある日。

エレノアがブリジットにいった。


「ねえブリジット、今度さ、剣士だけでドラゴン討伐、やってみない?」

「…は?」

「いや、ほら! 最近すごく調子いいし! レジーナたちとも息合ってきたし! 純剣士パーティーって、ちょっとロマンじゃない!?」


ブリジットは一瞬、呆気にとられたように目を瞬かせ、そして、ふっと笑った。


「…面白そうだな」

「でしょ!?」

「でも… ミラベルとジョアンナにいいにくいな。仲間外れにするみたいだし、こないだ『無茶するな』って、ジョアンナに大説教したばっかだし…」

「そうだったねえ…」


二人の間に、微妙な沈黙。

ブリジットが頭をかく。


「レジーナたちの依頼に助っ人で参加って形にすれば、バレずにいけるかもな」

「それだよ!」

「ホントは、アウトだけど」

「バレなきゃセーフ!」


エレノアの目は、真剣だった。

剣士としての矜持が、彼女の中に燃えていた。


「魔法がダメってわけじゃない。だけど… 剣だけで、ドラゴンを倒したいんだよ。私たち、剣士がどこまでやれるのか、見てみたい」


その言葉に、ブリジットの瞳が鋭く光る。


「…いいね。剣士だけのドラゴン討伐… 面白くなってきたな!」

「やった!!」


エレノアが両手を挙げる。


こうして、二人は秘密裏に準備を進める。

剣の研磨、装備の強化、体力錬成。

そして、レジーナたちに協力を頼む。


「剣士だけで、ドラゴン討伐? やるやる! 燃えるな!」

「筋肉がうずくね!」

「アイナは、大丈夫かな?」


相談すると、あっさり承諾してくれた。


「いいですよ」

「良かった~」

「ただ、報酬はそれなりにいただいても?」

「もちろん! ずっと特訓に付き合ってもらってるし、等分で良いよ!」

「ええ? 等分ッ? けっこうな額ですよ?」

「口止め料込みだよ」

「仕事しないで、お金もらえる~ 特訓に付き合ってて良かった~」

「アハハ」

「でも気をつけてくださいね! 剣士だけでムリだったら、速攻介入するんで!」

「おっけー! バックアップ、よろしく!」


出発の朝。

ブリジットとエレノアは、ミラベルとジョアンナに見つからないよう、こっそり宿を抜け出した。


夜明け前の草原。

待ち合わせ場所では、すでにレジーナ、スーザン、そしてエルフのアイナが準備を整えていた。


「おっ、来たね!」


四人の剣士が立つ。

空はまだ青く、吐く息が白い。

剣を握る手の中に、確かな覚悟があった。

ここでしてきた特訓が頭に浮かんだ。

苦しいが、楽しい日々だった。


「よし、行くか。剣士だけの戦いだ」

「筋肉は、裏切らない!」

「おおおッ!」


そして彼女たちは、レジーナのパーティーの依頼として、ドラゴン討伐へと向かう。

グレイフォード山脈へ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ