第十三章 村長と討伐をやろう
村の広場で、四人は戦利品を並べた。
ヘル・ディアーの角。
その数に、村人たちがざわついた。
「女たちが… こんなに、強いなんて!」
オーウェンは、じっと見ていた。
「信じられん… お前ら、本物だな…」
エレノアが、胸を張る。
「当たり前だろ! アタシの筋肉は、無敵だぜ!」
「村長さん、これでも、ワタシたちは役不足?」
ミラベルが笑った。
オーウェンは、頭をかいた。
「悪かった。あんたらは、ちゃんとした冒険者だ」
ブリジットが、剣を拭きながらいった。
「群れのボス・ディアーは、森の奥に踏み込んで、明日、仕留める」
オーウェンは、昔の記憶を思い出していた…
少年時代、剣を振るい、冒険者を夢見た日々。
「よし、オレも手伝おう。村の男たちと一緒に」
四人は、顔を見合わせる。
エレノアがいった。
「おお! 村長、熱いぜ!」
ミラベルがいう。
「え? でも、大丈夫?」
ジョアンナがいった。
「村人の治療まで手が回るか、わからないわ」
オーウェンは笑った。
「おい、舐めんなよ。昔はそこそこやったんだぜ」
「やめた方が良いと、思うけど」
ジョアンナが、不安そうにいった。
「まかせろよ。森の奥だと、案内がいた方が良いだろ。せめてオレだけでも、連れて行ってくれ」
オーウェンがそういうので、四人は彼だけを連れていくことにした。
翌朝。
森の奥へと向かう。
霧が薄くかかり、静寂の中で、ときおり動物の鳴き声がする。
オーウェンは剣と弓を携え、四人に加わった。
ブリジットとジョアンナが心配顔だが、彼は意気軒昂としていた。
「ヘル・ディアーのボスは巨大だぞ。角が三本で、毒霧が嵐みたいに広がる」
「面白え! アタシの剣で倒してやる!」
エレノアがいう。
道中、オーウェンがふと語る。
「オレは、冒険者になりたくてな。でも親父が死んで、村を守る道を選んだんだ。ただ、おまえらを見てたら、また熱くなっちまって」
「エレノアとワタシは幼馴染なの。エレノアも、子どものころから、冒険者志望だったわ」
「似た者同士だな!」
「そうかなあ?」
「おいおい! オレと同じじゃ、イヤかよッ!」
和気あいあいと話をする三人に、ジョアンナがいった。
「…話もいいけど、そろそろ戦いに集中したほうがいいわね」
ヘル・ディア―が現れるが、こちらに向かって来ず、奥に逃げていく。
五人は、それを追った。
すると、空気が変わってくる。
毒霧の匂いがして、地面が震えた。
現れたのは、ボスのヘル・ディアー。
体長三メートルほど、角三本が紫に輝き、目が赤く光る。
集まったディアーたちは、毒霧を吐いた。
ピイイイイイッ!!!
ボスの一声の咆哮で、森が震えた。
「みんな、距離を取れ!」
ブリジットが叫ぶ。
エレノアが、不敵に笑った。
「デカい方が、燃えるぜ!」
毒霧が、嵐のように広がる。
オーウェンが、弓を構えた。
「オレが援護する!」
矢を放つと、ボス・ディアーはうなり声をあげた。
ミラベルが、杖を振る。
「ファイアーボールッ!!」
オーウェンが、興奮して叫んだ。
「冒険のはじまりだな!」
炎が渦巻き、ボス・ディアーを包む。
ボスの回りのヘル・ディアーが、こちらに向かって突進してくる。
エレノアとブリジットが、相手をする。
オーウェンの矢は、弾かれてしまった。
「剣だよ!」
エレノアにいわれて、彼は剣を手に取る。
「危ないわ。防戦に徹して!」
ジョアンナに、諭される。
「ミラベル! ちっこいヤツに火球を!」
取り巻きヘル・ディアーは、ミラベル火球で黒焦げになった。
エレノアとブリジットは、ボスに向かう。
「うおおおおっ!!」
剣が角に当たり、火花。
だが、ボス・ディアーが蹄で、ブリジットを蹴り飛ばす。
その脚を、エレノアが斬る。
ボスは毒霧を吐いた。
「ぐはっ!」
ジョアンナが、すかさず治癒を行なう。
ミラベルが火球を撃とうとするが、二人に当たりそうになり、撃てない。
「オレが矢で」
「ムリよ! アイツには効かないわ!」
「それでも!」
オーウェンが、ボス・ディアーに矢を放つ。
矢にイラつく様子を見せたボス・ディアーは、オーウェンに突進した。
「危ないッ!」
「ミラベル! 援護をッ!」
エレノアと距離が開いたボス・ディアーに、ミラベルが火球を撃った。
「ファイアァーボールッ!!!」
ひるむ、ボス・ディアー。
黒焦げになった体に、エレノアとブリジットが斬りつける。
痛みで呻くボス・ディアーは、毒霧を発した。
オーウェンは毒が回り、膝が崩れる。
「くそ… 体が…」
しかし、エレノアとブリジットが、毒霧に耐えて剣を振る。
「首を斬れッ!」
「任せろッ!」
エレノアが、剣を振り上げて、飛んだ。
「死ねッ!!」
一閃。
鈍い音。
ボス・ディアーの、動きが止まった。
そして、ゆっくりと地に崩れ落ちる。
肉の切れ目から、血があふれ出した。
紫の霧が消えていく。
「大丈夫ッ!?」
ジョアンナが駆けつけ、手をかざして治癒を施そうとする。
エレノアがいった。
「アタシより、村長を先に…」
オーウェンは、治癒の光を浴びながらいった。
「すまん… オレは… 動けなかった…」
エレノアが笑う。
「まあまあ、良く戦ったよ。大したもんだ」
ブリジットもいう。
「ホントだよ。意外と頑張ったね!」
オーウェン、苦笑いしていった。
「いや… 危ない目に遭ってわかったよ。オレは冒険者にはなれない…」
「そんなことないよ! もう少し鍛えれば、全然いけるって!」
「最後の瞬間に、体がすくんじまった…」
「慣れだよ! そんなの!」
エレノアはしきりにいったが、ブリジットに止められた。
討伐は終了した。
ボスヘル・ディアーの死体が、森に横たわる。
エレノアが剣を天に掲げた。
「勝利だ! アタシたち、最強!」
オーウェンが、改めて頭を下げる。
「悪かったな。最初、見下して。でも、あんたら、すげえよ」
ミラベルが、得意げにいった。
「ふん、わかればいいのよ」
彼は、毒が抜けたようだった。
ミラベルが、ニヤニヤしていった。
「ジョアンナの解毒が、効きすぎたみたい」
「ハハハ…」
村へ戻る道のり。
日が木々の隙間から差し込み、葉の緑が鮮やかに光る。
エレノアが聞いた。
「村長、冒険者にはならないの?」
オーウェンは、首を振っていった。
「危ない目に遭って、よくわかった。オレは農民がいい。それぞれの分ってもんがあると気づいたよ」
ミラベルがいった。
「良かったじゃん」
「?」
「自分の良さが、わかったってことでしょ?」
「そうだな…」
少しさびしそうに、オーウェンは笑った。
ミラベルは、昨日の村長の家で見た、彼の家族を思い出していた。
「嫁、かわいいしね~」
「…まあな」
エレノアがいった。
「子どもたちも、かわいいし~」
「…まあな」
ブリジットが、ニヤニヤしていった。
「村長、デレてるね~」
「いいだろッ! べつにッ!」
ミラベルが、気づいた。
「村長、顔真っ赤だよ~!!」
「お前ら…」
オーウェンが、苦笑していう。
「…なんかあったら、また頼むわ」
四人は、笑顔でいった。
「おっけー! おっけー!」
「軽いな、オイ…」
温かい誇りを胸に、オーウェンは別れを告げた。
エンビヤージは、次の依頼を求めて、町へ帰って行った。
彼女たちの冒険は、まだ続く。




