第十二章 ディアーから村を救おう
四人組は、ギルドの掲示板の前に立っていた。
依頼の紙の中で、一枚が目に留まる。
ヘル・ディアー――魔鹿の討伐だ。
報酬はそこそこ、場所は辺鄙な村。
エレノアが、拳を握りしめてニヤリと笑う。
「ヘル・ディアーだって? 鹿にアタシが負けるもんか!」
隣のミラベルがいった。
「ワタシの火球で、燃やし尽くしてやるわ」
「おお! なら、アタシが筋肉で、盾になってやるから、任しとけ!」
後ろで、ブリジットが冷静に口を挟む。
「ヘル・ディアーは危険だぞ。あなどるなよ」
ジョアンナが、冷静に地図を広げて、つぶやいた。
「場所は、バートン村ね…」
依頼を引き受け、彼女らは村へ向かった。
エレノアがいう。
「どうせ討伐するなら、歯ごたえがある方が楽しいだろ?」
「楽な方が、良いけどな~」
そういうミラベル。
彼女は、冒険にロマンを求めないタイプだ。
治癒担当のジョアンナも、エレノアに注意した。
「楽しい討伐もいいけど、ケガはしないでね。ブリジットの指示に従うのよ」
バートン村は、豊かな森に囲まれた、穏やかな村だった。
金色の麦畑が、風に揺れる。
着いた途端、村人たちがざわついた。
女だけの冒険者パーティーは、珍しいのかもしれない。
依頼人の村長の家には、若い男が待っていた。
「おーっす! 私たちが、ヘル・ディアー討伐の依頼で来た冒険者だよ! 依頼主の村長って、あんた?」
オーウェン・バートン。
二十代後半の精悍な男だった。
日焼けした肌に、質素な服、労働の刻まれた手。
その視線は、露骨に冷ややかだ。
まるで格付けするように、上から下まで見つめる。
「…お前たちが冒険者? 女だけ? ギルドのミスだな。ヘル・ディアーは、ただの鹿じゃない。毒霧を吐き、群れで襲ってくる魔獣だ。おまえらの手に負えない」
エレノアが、ニヤリと笑う。
「まあ、見てなよ。アタシの剣で、ぶっ飛ばしてやるから!」
オーウェンは、鼻で笑った。
「オレたちの手に余るから、ギルドに依頼を出したんだ。だから本物の冒険者を期待してた。男の剣士とか、ベテラン魔法使いとかな。村の危機なんだぞ。それを女が討伐だって? 笑わせるな」
ミラベルが、つぶやく。
「女、女って… 若いのに、時代遅れの村長さんだね~」
ブリジットがいった。
「若いから、かもね。男のプライドが、あるんじゃないかなあ」
ジョアンナが、ため息をつく。
「…二人とも、聞こえてるわよ」
「聞こえるように、いったんだけどさ~」
オーウェンが、ジロリとにらむ。
ジョアンナがいった。
「ギルドのミスなんかじゃないわ。依頼は受けたのは、私たちで間違いない。詳細を聞かせて」
オーウェンは、しぶしぶ説明した。
ヘル・ディアーは、森の奥に巣食い、村を次々に襲ってくる。
毒霧は麻痺を起こさせ、蹄の突進は岩を砕き、家畜や作物を食い荒らす。
村人たちは、おびえて、夜も眠れない。
「まあ、来ちまったんなら、せいぜい頑張れ。死んだら埋めてやるよ」
ミラベルが、舌打ちする。
「後で謝らせてやるから…」
ジョアンナが、なだめる。
四人は、村外れの森へ向かった。
うっそうとした樹木が空をおおい、昼間だというのに薄暗い。
エレノアが、先頭で剣に手を掛ける。
「ヘル・ディアーなんて、アタシの剣で一撃だぜ!」
「エレノア。音を立てるなよ。まずは気配を探ろう」
鳥が鳴き、獣の足跡が点々と続いている。
「これが、ヘル・ディアーの足跡だな」
ブリジットが、しゃがみ込んで地面を指差す。
蹄の跡が深い。
「大きいな…」
「いいじゃないか。やりがいあるぜ…」
ブリジットも剣を構え、ミラベルが杖を握る。
森は静かすぎた。
木々がざわめき、突然――ガサッ!
「来たぞ!」
エレノアが、飛び出す。
現れたヘル・ディアー、子鹿のサイズだ。
目が赤く輝き、角が不気味に光っている。
「なんだ。小さいじゃないか」
エレノアが踏み込み、斬りかかるが、ヘル・ディアーは跳ね避け、毒霧を吐いた。
「うわっ!」
霧が、エレノアを包む。
体が痺れ始めた。
「エレノア! 下がって!」
ジョアンナが、エレノアを治癒する。
ミラベルが、ヘル・ディアーに杖を向けた。
「ファイアボール!」
火炎が霧を焼き払い、ヘル・ディアーは後退する。
「熱っ! でも、効いてるぞ!」
ブリジットが、冷静に突進した。
剣を横薙ぎに振り、ヘル・ディアーの脇腹を斬る。
血が飛び、ヘル・ディアーが吠えた。
蹄で地面を蹴り、突進する。
ブリジットは身を翻して、剣を払い、首を刈った。
「一匹目!」
子ディアーは倒れたが、森の奥から群れがあらわれた。
五頭の成体ヘル・ディアー。
体長は二メートルほどだ。
角が紫に輝き、毒霧があたりを覆う。
「本番だな! 面白くなってきた!」
エレノアが立ち上がり、剣を振り上げ、大上段から叩きつける。
ブリジットも剣を構えて、エレノアを援護する。
「エレノア、左へ!」
二人はヘル・ディアーをそれぞれ倒すが、毒霧で視界が悪化する。
「くそ、目が霞む!ミラベル、火球を!」
ミラベルが、杖を振る。
「了解ッ! ファイアボールッ!!」
ヘル・ディアーの一頭が、黒焦げになる。
さらにミラベルが、火の壁を張る。
「これで毒霧を防ぐぞ! エレノア、右から来てる!」
剣で、ヘル・ディアーの脚を斬る。
ギャアアッ!
ブリジットも、冷静に剣を振る。
「動きを読んで… そこだッ!」
斬撃が、腹を裂く。
ヘル・ディアーが、集まってくる。
「ぐっ! ミラベル! 火球を頼む!」
「ファイアーボールッ!!」
火の玉が炸裂、三頭を黒焦げになる。
匂いが香ばしい。
「ふふ、鹿肉バーべキューだね~」
「あの毒霧の匂いじゃ、食べる気にはならないけどね…」
ブリジットは、即座に立ち上がり、反撃する。
「私の魔法で、蹴散らすよ! ファイアーボールッ!!」
ミラベルは、火球の雨を降らす。
戦闘は激しい。
ヘル・ディアーの突進で、エレノアが飛ぶ。
ジョアンナが、手の光で治癒する。
ブリジットが、剣を閃かせ、脚を斬り、首を落とす。
治癒の終わったエレノアは、剣でヘル・ディアーを斬る。
「ジョアンナ、毒の治療を」
「解毒の光!」
光が全員を覆い、痺れが消える。
エレノアの剣が一頭の頭を砕き、ミラベルの火球が一頭を炭化する。
ブリジットが、残りを斬った。
完璧な連携だ。
しだいに、森に静けさが戻る。
ブリジットがいった
「…終わったか?」
小休止を取り、村に戻った四人。
オーウェンが、目を丸くする。
「ま、マジかよ… 本当に倒したのか?」
エレノアが、血まみれの剣を振った。
「まだ序の口だ。きっとボス・ディア―が、森の奥にいる!」
オーウェンは、胸の中に熱いものが蘇るのを感じた。




