第十一章 先輩にリベンジを果たそう
「ミラベルーッ!!」
朝からエレノアの声が響き渡る。
まだ寝ぼけていたミラベルは、不機嫌な顔で宿屋のドアを開けた。
「うるさい… 朝日まぶしい…」
「新しい依頼を、受けてきた。今度の相手は、サンダーリザードだ」
「ええっ!? リザード!?」
ブリジットが、説明する。
「そう。峡谷に巣食っていて、周囲の交易路を完全にふさいでいる。共闘相手は…」
待ちきれないように、エレノアがニヤッと笑っていった。
「――レイヴン・ソーン」
「えっ!」
ミラベルの目が輝く。
ブラッケン峡谷。
山を裂くような突風と、空にうなる雷鳴。
雨が降る中、空気がピリピリと帯電している。
「…うわぁ、ここ、やだ… 髪が爆発しそう…」
ミラベルが、髪を押さえつけながらぼやく。
「気を抜くなよ。これもきっとサンダーリザードの影響だ」
ブリジットの話に、皆の背筋が伸びる。
そのとき、背後から声がした。
「おはよ~ 四人ちゃん~」
振り向くと、レイヴンが立っていた。
大きく黒い瞳が笑う。
「すごい風だね~ 髪型がキマらないよ~」
「レイヴン!」
ミラベルが、また固くなる。
「爆裂っ娘ちゃん~ 今日はお手並み拝見だね~」
「練習して、ちゃんと当てられるようになりました」
「練習は練習~ 本番でも、ちゃんとできるかな~」
「できます!」
「それは、頼もしい~」
谷の奥を見て、ブリジットがいった。
「…敵は峡谷の中央に、巣を作ってる」
エレノアが、声を上げた。
「行くぞッ!」
そのとき、稲光りが空を裂いた。
轟音と共に、巨大な影が現れる。
サンダーリザード。
全長十メートルを超える青灰色の鱗、口から電光をほとばしらせる。
「でかっ!!」
ミラベルの声が、裏返る。
「動くな、ミラベル!」
ブリジットが叫ぶと同時に、リザードが雷撃を放った。
ドガァァァン!!
地面が爆ぜ、砂煙が舞い上がる。
しかし、煙の中からひとりの影が飛び出した。
「遅いよ~ トカゲくん~」
レイヴンだ。
剣が稲妻の中を走る。
「やああぁッ!」
閃光の斬撃が、リザードの顔面に傷を刻む。
だが――
「効いてない!?」
リザードが咆哮し、雷光を纏って跳躍。
その雷撃が、地面を貫いた。
レイヴンは受け身を取りながら、着地する。
「ふぅ~ん、さすが高ランクのモンスターだね~ 爆裂ちゃん、今こそ見せどころじゃない~?」
「え、えぇっ!?」
ミラベルが、目を丸くする。
「アンタが火球で奴の動きを止めて、アタシが斬り込む!」
エレノアが、叫んだ。
「わかった!」
ミラベルは、深呼吸した。
心臓がバクバクしている。
でも――今回は逃げない。
「ワタシは… 出来る女…! 恋も魔法も完璧な女!」
「また、それいうの!?」
ジョアンナがいった。
「――ファイアァァァボォォールッ!!!」
巨大な火球が、弾丸のように飛ぶ。
リザードの顔に直撃し、爆炎が巻き上がった。
「今だ!」
エレノアとレイヴンが、同時に駆け出す。
「やああああッ!!」
「いけえええッ!!」
炎と風と雷が交錯し、轟音が峡谷を揺らした。
リザードの体が、ぐらりと揺れる――
そして、倒れた。
「ふう~ やるじゃん~ ベルっち~」
レイヴンが、肩で息をしながら笑う。
「えへへ… ちょっとだけ、頑張りました」
「ちょっとじゃないよ~ 最後の一撃、完全に決まってたよ~ 剣だけじゃ倒せなかった~」
だが三人は、気になることがあった。
「ベルっち?」
エレノアとジョアンナは、知っている。
レイブンは、自身のチェックを通った人間を、彼女がつけたアダ名で呼ぶことを…
『ベルっち』は、あきらかに、それだ。
エレノアが、レイブンに聞いた。
「エレノアっていいます。アタシはどうでしたか? 」
「剣士ちゃんも、がんばってたよ~」
「ぐっ!」
今度は、ジョアンナがレイブンに聞いた。
「ジョアンナっていいます。私はどうでしたか?」
「治癒っ子ちゃんも、良かったんじゃない~」
「ぐっ!」
エレノアが、ジョアンナに胸を差し出して、いった。
「治癒を頼む! 体より、心の!」
レイヴンに認められず、こちらも涙を流しているジョアンナが、その胸に治癒の光を当てた。
事情の分からないブリジットは、怪訝な顔をする。
「雨の中でも、すごい火力だったよ~ ベルっち~」
「そのベルっちって何?」
「あだ名だよ~」
「普通、ミラだから!」
「いいじゃん~ ベルっち~」
「キモいって!」
エレノアとジョアンナは、羨ましそうにミラベルを見た。
「クソっ! 伸びしろがあるヤツにしか、アドバイスしないタイプだった!」
「どうしたんだ、おまえら…」
ブリジットが、いきり立つエレノアとジョアンナにいう。
ジョアンナは、歯ぎしりしていった。
「腹立つぅ!!」
「おまえら、ヤバいって…」
風が吹く。
サンダーリザードが死んで、雲の間から日の光が見えてきた。
雷の光のような友情?が、峡谷に残った。




