let's 王都!
「アイラ、お城に行きましょう」
「お城?」
「王様とかお妃様とかお姫様とかが住んでいるところよ」
「…なるほど」
いや、それは分かる。そして、母様が王様に布を献上するために、数ヶ月に1度王宮に行っていることも知っている。
しかし…
「アイラも行くの?」
「ええ、そうよ」
エリシアの話によると、エリシアには懇意にしている王女様がいて、子供が産まれたら見せに行く約束をしていたらしい。
「馬車の移動は負担が大きいからね、このくらいの歳がちょうどいいわ」
「ふむふむ」
アイラ4歳。先月めでたく歳が1つ増え、この世界での生活も2年目である。
「明日出発するわ」
「ふぐ?」
返事ではない。食べかけていた食材が皿の上に落下していくのを見て、思わずこぼれ落ちた声である。
大きなガラス窓から、朝日が差し込んでいる。窓から見えるのは、屋敷の塀と綺麗に整備された砂の道。
この広い道を歩いていけば、この国の王とその一族が住む城が建ち並んでいるはずだ。
ここ、王都・砂の都は、1区から4区までに分かれている。
1区は高位貴族だけが住める場所。高位貴族と王族、それから役人や王宮に仕える者達等以外は、高位貴族、または王族の許可証がないと入ることはできない。
つまり、今回エリシアとアイラは1区の中心にある王宮まで行くので、許可証が必要である。
エリシアは代々ウォーカー家の長が持っている、永久的に使える許可証を王から下賜されているのでそれを使う。ちなみに、アイラは先程も言っていた、母が懇意にしている王女様から1回だけ使える許可証を貰っているらしい。
2区は、外側に中級貴族や下級貴族、名の知れた商人の屋敷が建ち、内側には、かなりお高めな、色々なお店がズラっと並んでいる。
うちの屋敷は二区の外側にあるそうだ。
ちなみに、貴族は基本的に普段自分の領地のやべぇ豪華な屋敷で生活しているので、人が住んでいる雰囲気がするのは、大体商人の家である。
代わりのものを領地に置いて一年中王都で遊び狂っている貴族もいるようだが、ほとんど上級貴族である。
王都の物価は高い。パーティーに参加しすぎてドレス代で破産する阿呆な下級貴族とかいるらしい。都会ってコワイ。
話が変わるが、ウォーカー家は商売柄屋敷の外装等は綺麗にしているものの、食事は割と質素である。服は母が三区にある布屋さんで買った糸で作ってくれる。そう、糸から。プロってすばらしいのだ。
うちの財布事情はともかく、三区はちょっと裕福な平民とか、二区にあるものよりちょっと優しいお値段の店が大量にある。そして、学校とか教会とかやたらある。アイラのお散歩先は主にこの3区である。ウォーカー家の屋敷は二区と三区の間みたいな所にある。詳しく言うと家から30歩歩くと三区である。
四区は普通の平民が住んでいる場所である。基本は住宅街だが、ちょこちょこ商店街とかあるっぽい。
四区のさらに外側を城壁が取り囲んでいて、そこを出入りするには、お金が必要になる。
そして、その外側に住んでいる人々。城壁内で破産した平民はここに住むことになる。城壁外にはでかい教会があり、そこで彼らは食べものを貰える。
しかし、そんな上手い話には裏があり、魔物が出た時は必ず倒すというものである。教会は魔物を倒している褒美として、権利やお金を国から貰うことが出来る。人々は教会から服や食料を貰え、教会は都合のよい使い捨ての労働力を貰う。
もちろん住んでいる人々は武道の心得なんてあったもんじゃないので、バタバタ死んでいく。大きな問題にはならない。
「準備とか間に合うの!?」
4歳になり、色々なことに気が回るようになったえらいアイラは、目をまん丸くした。
「早めに明日出発して、道中色々なお店に寄って、準備するのよ。明後日はリンと一緒に観光して、明明後日が王女様に会いに行く日よ」
おそらく、明後日は母は王宮の方に品物を献上するのだろう。仕事のことしている間に、アイラとリンは観光。最高かよ。
用意はすぐに終わった。4歳の荷物なんてたかが知れすぎているし、エリシアはすでに荷造りを終えていた。
翌日、いつもよりほんの少し早起きをして、残るメンバーにお別れをし、馬車を貸してくれる所まで歩いた。
いざ!お城へ!
割と揺れが気になる馬車に乗りこみ、アイラ達の小旅行が始まった。