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この屋敷に男はいない。リンとナディアという2人の侍女。メリサンドという意外と珍しい腕のたつ女料理人。

それとカミラ、アリーヤに、母・エリシアと私・アイラ。

女だけで、当たり前のようにこの屋敷で過ごしている。


父が死んでいるという情報など聞いたことがない。男は街やお客様で見たことがあるので、この世界に存在することは間違いない。


「それはね、この家の『掟』なのよ」


母は、3歳の娘に『その話』を聞かせても、まだ理解できないと思って、このときこんな話をしたのだろう。

この話が、娘・アイラの胸に刻まれ、人生を狂わせることになるだなんて、知りもしないだろう。


兎にも角にも、これは、ウォーカー家に伝わる『呪い』のお話。


✧• ─────────── •✧


私が小さい頃はね、お母様とお父様、つまりは、アイラのお祖母様とお爺様はそれはそれは仲良く暮らしていたの。

料理人は男性1人と女性1人。最初はその男性だけだったんだけれどね。その人が有名な料理屋の下働きの子と結婚したもんだから、一緒に働いてもらっていたの。


あら、ちょっと話がズレてしまったわね。兎にも角にも、この頃屋敷には男も住んでいたってことよ。


悲劇は私が8歳くらいの時に起こったの。雨が凄くてね、雷やら何やらでとても騒がしかったのを覚えているわ。

その1年くらい前からお父様はよく寝込むようになっていて、皮膚が所々紫色になっていて、それはもう心配だったけれど、移る病だったら大変だと言うことで、ちょっと遠いお部屋で寝込んでいたの。

夜になっていたし、私は自室にいたわ。雷がうるさいわ怖いわで、眠れずに横になっていたっけ。

突然獣のような低い叫び声が聞こえて、何かが壊される音が沢山したわ。

私は怖くって、ベッドの中で縮こまっていたけれど、1時間くらいたって音がしなくなったから、恐る恐る自室を出て様子を見に行ったの。


机は全部壊されていたはね、家の中は、もうぐちゃぐちゃ。雷が落ちた方がましなくらい。本当よ。


お母様は倒れていたわ。身体中を引っかかれた跡があって、もう息はなかった。

お父様も倒れていた。息はなくて、身体中の皮膚が紫色に染まっていたわね。


ほら、今のこの屋敷。凄く新しいと思わない?

全部作り直したの。あの、最悪の日の後、私は8歳で跡を継いだわ。


本当に、あの夜私の全ては全て壊れた。家族は誰も居なくなったし、屋敷に住んでいる者は私以外全員死んでいたわ。8歳の私だけが、早く自室に戻って、ベッドの中にいたの。


屋敷の物は全部粉々になったけれど、一つだけ、残しておいたものがあったわ。

ウォーカー家の伝統やしきたり、そして『掟』が記された本。

ものすごく昔にしか読まれていなかったみたいで、お母様はきっとそれを知らなかったのね。


ウォーカー家には掟があるの。それはね、ウォーカー家の血を引く者以外とは関わりすぎてはいないこと。関わりすぎてしまったら最後、その者は体に変化が訪れ始め、しまいには魔物のように人を殺す。


この家の侍女や料理人は三年ごとに変えているわ。もちろん弟子も。あの二人とも、もうすぐお別れ。

私はあの悲劇の日以来、同じ人と3年以上共に暮らしたことはないの。


アイラのお父さんのことが聞きたい?あの男なら、ここから5分くらい歩いたところにある小さな家で一人で住んでいるわよ。


なんで、この屋敷に男がいないかって?

それはね、私が仕事関係以外で男性とコミュニケーションをとるのが難しいからよ。あの日から、話そうとすると過呼吸になって、どうにもならないの。


子供を作らないと行けない時なんて、大変で仕方なかったわ。男と正気で触れ合うのだなんて、握手でも難しいというのに。


産まれたのが女の子で、アイラでとても嬉しかった。やっと救われたと思った。


だって────


あの日以来。初めてずっと関わりあえる人間に出会えたのですもの。

だから、アイラ。




ずーっと私のそばにいてね。

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