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殺される!?

「ど、ど、ど、どうしよう!?」


初めて工房見学をした1週間後、私は、屋敷の書庫の隅でガクガクと震えていた。


「また死んじゃうよ…こんなの!?」


アイラの手元には分厚い本があった。貴族ではないものの、もう何百年も前から王宮にまで使われている布を作るウォーカー家。それなりに、伝統と呼ばれるようなものがある。

この本にはウォーカー家の技術や伝統、後継を決める方法などがまとめられている。


事の発端は昼食の後。うっかり3度寝までしっかりしてしまったアイラは、さすがに昼寝をする気にはなれず、エリシアに屋敷の探検の許可を貰ったという訳だ。


いくらウォーカー家が歴史ある商家とはいえ、上級貴族のような豪華な屋敷に住んでいる訳ではない。

ここは王都。物価は信じられないほど高いわけで、「探検」は10分程で終わりをつげた。


そして、見つけたのが書庫。珍しく眠気が訪れないアイラは、しばらくここに入り浸ることにしたのだ。


「まぁ、字読めないんだけどね…」


元も子もないことを呟きながら表紙を眺めると…


「読めた」


(なんで!?)


もちろん、女神様から頂いた、「言語理解」のおかげである。とはいえ3歳の精神なので、何が書いてあるのか分かるはずなのに理解できないという、不思議な感覚なはずだ。


(難しい漢字は、分かるのに頭に入ってこない…でも、デザインについての本と魔糸についての本が多そう)


その中で分厚すぎて一際目立っていたのが、ウォーカー家についての本だったというわけだ。


「滝を1時間浴びる…毎日素振りを300回…炎の輪をくぐり抜ける…」


いや、死ぬて。


『これらを繰り返すことで、己の魔の力を極限まで高めることができる』


その前に死ぬて。というか魔の力ってなんやねん。


(そ、そんなのあの優しい母がやるわけないもんね!)


どうにか自分を落ち着かせようとするアイラ。しかし、見つけてしまったのだ。


それは、後継の決め方について書かれた文章。


『齢2歳前後で身を焼くような発熱を起こし、もっとも死に近い状態を乗り越え生還した者が魔織機の所有権を引き継ぐとする』


(心当たりしかないんですけど!?)


2歳。それは久東桜の精神がここに乗り移った年齢である。

リンの話によると、桜が転生する前の3日間、アイラ・ウォーカーの体は昏睡状態にあり、いつ死ぬか分からないと思っていたそうだ。


おそらく、本当のアイラ・ウォーカーはその時命を落としたのだろう。

そして、「ウォーカー家の人間はその位の年齢で、個人差があるものの発熱する」と説明された。


書物に書いてあるのも、このことを指しているのは明白だ。そして────


(その時に、母に「アイラは立派な後継ね」とか言われた気がする…)


とりあえず、後継の方法については、書物に記された方法が取られてる可能性が高い。


(だから、ほかも書物通りなんじゃ…)


そして、冒頭に戻るわけである。


✧• ─────────── •✧


ある日の昼のこと。今日は仕事が少ないようで、エリシアは屋敷に帰ってきていた。弟子2人は、各自室で休んでいるようだった。


「アイラ、これからしばらく暇?」


紅茶をすすり、一息ついたエリシアは膝に乗っているアイラに問いかけた。

それにしても、3歳児に暇か尋ねてから話を切り出すのは、この国の風習なのか?


もちろんアイラの午後の用事なんか、あっても睡眠くらいなものである。


「うん!ひま!」


(眠いけど)


「アイラはもう3歳だし、魔力の質を高める練習ができる年なの。楽しいからやってみる?」


(ひぃやぁぁぁぁ!?死ぬぅぅぅ)


『魔力の質を高める』と『己の魔の力を極限まで高める』


同じなきしかしない。

エリシアは、いつものアイラに向ける甘い笑みで、「楽しいから」と誘った。


地獄へと。


「や、やだ」


優雅なティータイム。小さな透き通った白いテーブルに水色の透明な椅子。

ガラス窓から見える美しい中庭。

それを支配する空気が ──


凍った。


エリシアは少し悲しそうな表情を浮かべると、少し無理をしたような、愛おしげな笑みを浮かべる。


「…そうよね。アイラはまだそんなことより、遊びたいわよね…。一緒に出かけるのはどうかしら?」

「いや…あの、違くて…」


(こ、こんなに申し訳なさそうな顔されたら断れない…!でも、3歳に滝に当たらせるのは早いよ!?)


エリシアはアイラの頭を優しく撫でた。金色の繊細な毛が、少し揺れる。


(でも、いつかはやんないといけないんだよね…。母がこんなに早く始めさせるのには、きっと理由があるんだろうな…)


「さ、気晴らしに、色んな店でも見ましょ」

「やっぱり…やる」


アイラは、立ち上がりかけたエリシアの服の裾を掴んだ。その赤い瞳はシンとした、静かな覚悟をともしている。


「滝修行も火の輪くぐりでもなんでもやってやるわァァッ!!」


小さな体からでたとは思えない、強い叫び。

そして ───


エリシアはキョトンとした顔になった。


「え?いや…布のおもちゃで楽しく練習を…」

「え?」


ん??


アイラは、ぽかんと口を開けたまま、エリシアに抱えられたまま、フリーズするのであった。

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