表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

世界の狭間

コツコツ投稿していきます。よろしくね

とうとうこの日が来てしまったか。

私・久東桜(くとう さくら)は妙にハイなテンションで、雷門通りの歩道を移動していた。和風な屋根が頭上に連なっているこの通りでは、休日なせいもあり、お祭りのようなにぎやかさとなっている。


普段なら、多すぎる人通りに憂鬱になる所だったが、今日はそれを吹き飛ばしてしまうほどの一大イベントがあった。


男の人とデートする!人生初めて!!


勘違いする方がいたかもしれないので、先に言っておく。私は青春真っ只中の中学生…と、言う訳ではなく、23歳、つまりは立派な社会人。


それまで一度もデートというものを経験したことがないのは、性格に問題があるという訳ではない。(たぶん)

これには深〜〜い理由がある!


私は、少しうつむいた。左右に見える、細いタイヤ。来ているワンピースの長い丈。しかし、そこにはまるで膨らみがない。ただの布。


(足がないことは打ち明けてるけど…どんな反応されるのかな)


15の時、交通事故にあった。命は失わなかったものの、足を切り落とすことになった。だから、私には両足が無い。

それから、しばらく塞ぎ込んでしまい、高校に進学しなかった。


それが、私がデートしたことが無い理由。


…15歳まで普通に告られたことないことは置いといて。


しかし、そんな私にも出会いの場というのはある!その名も…マッチングアプリ。

時代はSNS!


とか考えてるうちに…


見えてきた…!!

心臓がバクバクしている。

門の前には、人人人人。待ち合わせをしているのだろうか。携帯をいじりながら突っ立っている人が多い。

事前に知らされていた、白い上着で黒いメガネをかけていてリュックを背負った人を探す。


(結構いるんですけどー!?)


私は心の中で絶叫した。白い上着。黒いメガネでリュック。数人いる。

そんなことある!?


こっちも特徴を教えているし、気づいてくれるかな。

いや、もっと特徴を聞こう。そう思い、人の邪魔な所へ移動しようとした時ーー


「へ?」


私が「この世界」で、発した言葉はこれで最後だった。


謎の浮遊感。その後は何も覚えていない。




久東桜。23歳。アパートで一人暮らし。

足が無くなってから3年くらいほぼ引きこもりのような生活をしていたものの、SNSで投稿していたイラストがちょこっとバズり、気づいたら鬱にならなくなっていた。心機一転、実家の近くの小さいアパートで一人暮らしを初めたのが3年くらい前のこと。

自慢できることといえば、絵と運の悪さだけ。昔から驚くほど命の危険にさらされる子供だったので、早死にそうだなとは思っていたがまさかここまで早いとは。

せっかく初デートに漕ぎ着けられたと思えば、このとおり。


最近運が良くてなんか変だと思ってたんだよなぁ。

それにしても地面が突然陥没なんてこわいなぁ。

そんなことを考えながら、私はこの世界で命を散らした。



✧• ─────────── •✧



「ようこそ、世界の狭間へ!」


声が、聞こえた。


「はい!」


何が何だか訳が分からず、反射で元気に返事をしてしまったが、絶対選択ミスだと思う。

頭が上手く回らない。



とりあえず…


ここ、どこだよ!



私の頭の容量では、それを考えるのでもう完全にオーバーしてしまっている。


御伽噺から飛び出してきたような、美しい部屋に私は座っていた。

一切の汚れのない金色の天井。そこに吊るさがっている、見たこともないような大きなシャンデリア。


どうやら宮殿のようなその場所の真ん中にあるテーブルで、私と、先程の声の主が向かい合って座っているらしい。


美しい。ただそう思った。

金色の瞳。白銀の髪の毛。人間の域ではない綺麗な肌。

目の前に広がる景色全てが、彼女のものであることが何故だかわかった。


「そうそう!ここはね、世界の狭間の中でも私の存在領域なんだよ!ちなみに世界の狭間がなんなのか教えようか?」

「えっ、えと…お願いします」


彼女は落ち着いた、どこか迫力を感じられる雰囲気からは尊像できないほど、明るい笑みを浮かべた。


「うっふふー!みんな驚くんだよねー、私が思ったよりテンション高いもんだから!世界の狭間っていうのはね、たくさんの世界の間にあって、世界から出入りする魂の管理をしているの。普通なら天使さん達がバババーっと見送ってるんだけど、あなたは特別だから、私が出入りの手続きをするという訳!あ、こんな感じだけど私一応女神!よろしく!」

「は、はい!よろしくお願いします」


先程は気づかなかったけれど、私の考えていることは、全て女神様に伝わっている気がする。

それにしても、私、魂の出入りなんてしたんだぁ。なんだろうそれは…って ──


「つまり、私、死んだってこと?」

「そうよ。で、これから転生するってわけ!」


私の心の声…ではなく、思わず漏らしてしまったひとりごとりに、女神様が頷いた。

聞き逃せない情報と共に。


「転生…するんですか私」

「そう!だからあなたは特別なの!」


小説の中でしか見ない単語に、気づけば、私はぽかんと口を開けていた。



(10分後)



「やっぱりここは魔法よね!」

「おおっ」


女神様の厨二病心くすぐられる提案に、私は歓声をあげた。


「何属性がいいかな?どう思う?桜は」

「やっぱりここは……雷属性、とかですかね」

「カッコイイ属性の定番よね!次は次は?」


数分前の自分がこのやり取りを聞いていれば、私は今、強めのビンタを食らっていたことだろう。


ただ、女神様の距離の詰め方は凄まじかった。気づけばこんな感じ。まるでクラスメイトと話しているような気分だ。


「あと、普通に水属性とか良さそうですよね」

「うんうん!使い道が1番多いしいいと思うわ!」


女神様は楽しそうに何度も頷いた。白銀の髪が、少し揺れる。


「そういえば、最近転生者によくオススメしてるプランがあるの!」

「ほうほう」


見たこともないような綺麗な赤い唇から紡ぎ出す、『プラン』。良き。

何だこのギャップは。


「ではプランの説明を始めさせていただきますー。まずは、『言語理解』。どんな言語も、話せる!聞ける!書ける!読める!前世で英語が苦手だったあなたにはうってつけよ!」

「なんで分かるんですか!?」


女神様が妖艶に、ペロリと舌で唇を舐めた。控えめに言ってエロい。


「勘よ」

「なぬ!?」


ベルサイユ宮殿を思わせるような場所。その真ん中で行われる漫才のようなやり取り。カオスである。

そして、その一方は女神。もう一方は死者。カオス、ここに極まれり。


「まだ、ありますのよ。お次は『精神年齢調節』!23歳にもなって、年下の乳首くわえたくないあなたにオススメ!体の精神年齢に合わせた精神年齢で過ごせる!もちろん今までの記憶はそのまんま!」

「乳首…」


女神様もそんな言葉使うんだぁ。

思わずあっけにとられてオウム返しにする私。


「わ、わ、忘れてちょうだい!」


女神様が顔を赤らめる。可愛い。エロい。


「すみません。つい繰り返しちゃって」

「い、いいのよ!気にしないでちょうだい!まぁそれで、この2つのスキルを組み合わせることで、何も覚えようとしなくても勝手に上手い具合の年齢で話せるようになったりするわけ!」


『精神年齢調節』でその年齢の知能になる。『言語理解』と併用すれば、精神年齢に合った『言語能力』になるのだろう。かなり考えられたプランである。


「そのプランでいきます!」

「任せてちょうだい!」


女神様が、手で胸の辺りをドンッと叩いた。ちなみに、女神様は貧乳である。とはいえ、そんなことで女神様の美貌が損なわれることは無いが。


「それから、とりま程々に裕福な家庭に生まれるようにしとくわね!まぁ、私がやるんじゃなくて、転生先の世界を創った知り合いに話を通しておくだけなんだけどね!」

「ありがとうございます!」


転生先の世界を創った知り合いとは、なんとまぁ規模のデカい話である。


「あとね、実はここに来た記憶は消さないといけない決まりなの…。お偉いさん達が、人間が世界の狭間のことを知ってるなんておこがましいとか、うるさくって…。ごめん!」

「大丈夫です!親切にありがとうございます!」


神様にも上下関係があるのかぁ

大変だなー


なぁんて思いつつ、久東桜の人生は終わり、そして新しい人生が始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ