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邪神モーロックの都 その32

「オロ村長、万歳ーっ!!!」


「悪魔を、倒せーっ!!!」


「子供たちを、助けろーっ!!!」


「ムスカル王を、許すなーっ!!!」


オロ元村長の激白を聞いて、反ムスカル一色に染まる、王宮広場に集まった市民たち。

彼らの中には、内心、ムスカル王のやり方に疑問を持っている者が、数多くおり、オロの演説をきっかけとして、その不満が爆発したのです。

手を天に突き上げ、オロに賛同する、舞台の周りに集まった無数の市民たち。

彼らの発する怒号と不満の声が、王宮の広場を、大きく揺れ動かします。

そして、そんな王宮内の混乱する様子を、ムスカル王は水晶塔の最上階の部屋から、考え込む様な表情で見下ろしていました。

水晶魔宮の深い闇が、玉座に座る彼の、孤独なシルエットを、静かに包み込んでいます。

一方、広場の周辺を自軍で取り囲んでいた、黄金将軍ジュドーは、配下の兵までが、腕を上げてオロを支持する様子を見て、思わず舌打ちをします。

彼女は、周りにいる部下たちに、怒鳴りつける様に、出撃の命令を下します。


「何をしている!!反逆者どもを、捕らえろっ!舞台の上の三人を、ひっ捕らえるのだ!!」


「は、ははーっ!!」


ジュドー将軍の下知を受け、あわてて隊列を整えて、広場の中央に設置された、舞台に向かって突入する、将軍直属の魔牛兵たち。

彼らは、舞台の周りを取り囲む、オロの演説に熱狂する、市民の人波を切り裂く様に、突っ込んでいきます。

舞台に上がった彼らは、その真ん中に立っているシュナンとクズタフ隊長、そして厳しい目で自分たちを見つめるオロを捕まえようと、大挙して押し寄せました。

しかし、舞台の中央に立つ反逆者たちを捕まえようとする、彼らの動きを、妨害しようとする者たちがいました。

それは、クズタフ隊長の率いる、警備隊の兵士たちでした。

彼らは、ジュドー将軍配下の魔牛兵とは反対側の方から、次々と広場に設置された舞台に上がり、今まさに襲われようとしている、自分たちの隊長を含む三人を、守るかの様に取り囲んだのです。

シュナンたち三人を守る警備隊の兵士たちと、反逆者を捕らえようとする、ジュドー将軍配下の魔牛兵たちが、舞台の真ん中で、激しく衝突します。

双方の兵士たちは、それぞれ剣と盾を持ち、舞台の中央付近で向かい合って、激しく争っています。

そして、他の二人と共に、配下の兵に守られながら舞台に立つ、クズタフ隊長は、鼻の頭を指でこすると、周りの兵たちに言いました。


「時間外手当でも、出すかな」


兵たちのうちの一人が、盾と剣を高く掲げながら、ニヤリと笑い、隊長に答えます。


「特別手当で、お願いしますぜ」


こうして舞台の真ん中で、クズタフ隊長率いる警備隊と、ジュドー将軍配下の魔牛兵たちが、激しく争う中で、舞台を取り囲んでいた大勢の市民たちも、ついに旗手を鮮明にし、ムスカル王を倒すために立ち上がります。

最初に反逆の狼煙を上げたのは、オロと同じく王宮内の広場に、他の市民たちにまぎれて潜んでいた、「鳥煮亭」の主人ジムでした。


「今だ!!一緒に、悪魔を倒すんだっ!!!」


そう言うと彼は、同じく王宮内に潜んでいた仲間たちとともに、広場に出ていた屋台に隠していた剣や槍、そして盾などの武器を取り出し、それを振りかざして、激しい戦いが続く舞台へと、乱入したのです。

雄叫びを上げて舞台に駆け上がる、武器を振りかざした、ジムを始めとする、レジスタンスの男たち。

それに呼応するように、他の一般市民たちも、ある者は武器を持ち、また、ある者は徒手空拳で、舞台に上がり、魔牛兵たちに攻撃を加えます。

クズタフ隊長率いる警備隊と、舞台上で正面からぶつかっていた、ジュドー将軍麾下の魔牛兵たちは、側面から市民たちの挟撃を受けて大混乱し、総崩れになります。

そんな部下たちの苦戦する様子を見た、広場の後方で指揮をとるジュドー将軍は、ついに自らを含め、全兵力を投入する、決意をします。

ジュドー将軍は、手にした黄金の槍を高々と掲げると、甲高い声で、広場の周辺や神殿前など、城内の各所を固める全ての兵に、出撃の合図を送りました。


「全軍出撃せよっ!!総力戦だっ!反逆者たちを、包囲殲滅するのだっ!!」


そして、ジュドー将軍自身も、周りにいる装甲兵たちを率いて、激しい戦いが繰り広げられる、広場中央の舞台に向かって、突っ込んで行きます。

一時は優勢になった、クズタフ隊長の配下の警備隊と市民たちの連合軍ですが、ジュドー将軍が本隊を投入した事により、たちまち危機におちいります。

特に、ジュドー将軍の戦いぶりはすさまじく、舞台上を中心にして押し合っている、両軍の中に乱入すると、その長い槍を振るって、敵側の警備兵や市民たちを、次々と弾き飛ばし、戦闘不能にしていきます。

広場の舞台上で、オロ元村長やクズタフ隊長、そしてシュナン少年をぐるりと取り囲み、魔牛兵から護る警備隊の兵たちと、彼らを支援し、側面から魔牛兵を攻撃する、反ムスカル派の市民たち。

奮戦を続ける彼らでしたが、ジョドー将軍自ら全軍を率い、戦いに参戦した事により、徐々に押され、敗色が濃厚になって行きます。

そして、水晶塔の遥かな高みから、事態の推移を見下ろしていたムスカル王が、自らの勝利を確信した、その瞬間でした。

戦いには参加せず、広場の隅に避難していた、女子供を含む市民たちの中の一人が、東の空の方を指し示すと、大声で叫びました。


「あれを見ろーっ!!!」


その男の叫び声を聞いて、東の空を仰ぎ見た者たちの眼は、敵も味方も驚きのあまり、大きく見開かれます。


「ぺ、ペガサスだーっ!!しかもあんなに沢山ーっ!!」


そうです。

東の空を見た者の瞳に映ったのは、このモーロックの都を目指し大挙して飛来する、ペガサスの群れだったのです。

しかも、そのペガサスたちは、背中に緑色の巨人族の男を、一体ずつ乗せていました。

彼らは先日、モーロックの都をペガサスの姿で抜け出したレダが、自ら率いて来た、ペガサス族とボンゴ族の戦士たちでした。

戦闘中にも関わらず、敵も味方もあっけにとられる状況下で、背中に巨人を乗せたペガサスの群れは、ムスカル王の王宮の上空を2、3回旋回した後で、王宮内の広い庭園の敷地に、次々と降り立ちました。

その瞬間、庭園の広い敷地が、まばゆい光に包まれました。

そして、その光の中から、飛び出して来たのはー。

棍棒を振りかざした、緑色の体色を持つ、大勢の巨人族の男たち、そして、地上に降り立つと同時に、天馬から人間の姿に戻り、急いで革のビキニや肩パッドを身に付けた、剣を構える、ペガサス族の少女たちでした。

彼らは旗色の悪い、反ムスカル派の兵士や市民たちを助けるように、広場を包囲する魔牛兵の隊列に、突っ込んでいきます。

ペガサス族とボンゴ族の乱入により、ムスカル王側に傾きかけた勝利の天秤は、再び逆方向に傾きます。

先ほどまで舞台の上の警備隊や、彼らを側面から援護する市民たちを、攻め立てていたはずの魔牛兵たちは、ペガサス族とボンゴ族に背後を突かれ、逆に三方向から攻められ、包囲される状況に陥っていました。

こうして王宮内の戦いは、シュナンを処刑する為に広場に設けられた舞台を中心に、各勢力が入り乱れ、混沌とした様相を、呈していたのです。

そして、王宮の中心部に屹立する、水晶の塔の最上階にある、王が座する部屋ー。

水晶魔宮と呼ばれる、その王座の間から、広場で行われている混戦の様子を見下ろすムスカル王は、少し、いらだたしげに、座っている椅子の肘掛けを、指でコツコツと叩きます。

ペガサス族とボンゴ族の参戦は、狡猾な彼にとっても、予想外の出来事でした。

しかし彼には、まだ、奥の手がありました。

ムスカル王は、水晶魔宮の透き通った壁の向こうに見える、王宮内の建物群の方に、目を走らせます。

その中に、一際目立つドーム型の建物があり、それを見るムスカル王の眼鏡が、キラリと光ります。

実は、そのドーム型の建物の中には、ムスカル王が長年かけて収集し飼いならした、恐るべき魔獣たちが閉じ込められていたのです。


一方、その水晶塔からは、ごく近い場所に立つ、北の塔ではー。

塔のてっぺんの部屋に閉じ込められたメデューサが、小窓にはまった鉄格子にしがみつきながら、広場の様子を、目を凝らして見ていました。

先ほどまでメデューサは、シュナン少年が広場の舞台の上で、処刑されそうになっているのを見て、彼の名を呼び、悲鳴を上げ続けていました。

しかし、どうやら助かったのを見て、ホッとしたのもつかの間、今度は兵同士や市民たちが入り乱れての戦いが始まり、何が起こっているのか、彼女にはまったくわかりません。

おまけに、ペガサス族やボンゴ族までやって来たので、彼女の頭は、ますます混乱します。

壁に立て掛けられた師匠の杖の、わめく声にはまったく耳を貸さず、彼女は、鉄格子のはまった部屋の小窓から、外の様子を懸命にうかがおうとしていました。

そんな、窓にはまった鉄格子を握りしめて、外の様子を見つめるメデューサは、こちらに向かって、空飛ぶなにかが、近づいているのに気付きます。


「レダ!!」


思わず叫ぶ、メデューサ。

飛翔しながら北の塔に近づく、その美しいペガサスは、間違いなく、メデューサの旅の仲間であるレダが、変身した姿でした。

メデューサの頭に、ペガサスに変身したレダの、テレパシーが響きます。


<< メデューサ、後ろに下がって!部屋の壁を壊すわ! >>


メデューサが小窓を離れ、部屋の隅に下がると、空飛ぶレダは大きく翼を羽ばたかせ、スピードを増して、北の塔に近づきます。

そして激しい勢いのまま、塔の壁に近づき、その力強い蹄のついた両足で、メデューサのいる部屋の壁を、外側から破壊しました。

ドカンという耳をつんざく音がして、メデューサの閉じ込められていた、北の塔の最上階の部屋の壁に、大きな穴が空きました。

メデューサは、轟音と共に部屋が半壊し、壁に大穴が空いたのを見て、一瞬、呆然としました。

しかし、その部屋に空いた大きな穴の向こうに、青空を背にした、レダのペガサスが浮いてるのを見て、メデューサは、その穴の空いた壁の側に近寄ります。

その時、穴が空いた壁とは正反対にある、出入り口のドアの向こう側から、階段を登ってくる足音が、聞こえて来ました。

恐らく、異変に気付いた、見張りの兵士たちに、違いありません。

メデューサの頭に、再び、レダのテレパシーが響きます。


<< グズグズしないで、早く背中に乗って!!シュナンを、助けに行くわよ! >>


その言葉を聞いたメデューサは、一瞬、躊躇しましたが、すぐに脱出の決意を固めます。

そして、羽織っているマントについたフードを、すっぽりとかむり、それで、蛇の髪で覆われた自身の頭を、覆い隠します。

それから、覚悟を決めると、穴の空いている部屋の壁際から、エイっと飛び降りて、穴のすぐ外で宙に浮いているレダの、ペガサスの背中に、しっかりとしがみつきます。

その時、置いていかれると思ったのか、壁に大穴の空いた部屋の中で、ポツンと立てかけられている、師匠の杖が叫びます。


「こらっ!わしを、忘れるなっ!!」


[続く]


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