表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

旅立ち その5

 メデューサの館の庭先に屹立する、奇妙な石像を、シュナン少年は、手に持った杖を通じて見つめます。

実は、彼は盲目であり、魔術の師の意識を持つ、その手に持つ杖の力を使って、周りの状況を、見ていたのでした。

ですから、身体から杖を離した途端に、彼の目は見えなくなってしまいます。

シュナンは、恐怖の表情のまま石像となった男の姿を、何とも言えない表情で眺めていましたが、やがてその石像の足元にある、もう一つの奇妙な存在に気付きます。


「墓・・・」


そう、シュナンがつぶやいた様に、その石像の男の足元には、盛土の上に黒い石碑が置かれた、明らかにそれと分かる、小さなお墓があったのです。

よく見ると、花が何本か、供えられていました。

この奇妙な取り合わせに、首を傾げるシュナン。


「どういう事でしょう、師匠?なぜこんな所に、墓があるのでしょうか?」


シュナンが手に持つ師匠の杖が、素っ気なく答えます。


「さぁ、分からん。それよりも、先を急ごう。メデューサの住む居館は、目の前だ」


シュナンは軽くうなずき、再び広い庭を、歩き始めました。

そしてついに、砦の本館である、大きな邸宅の前に辿り着きました。

建物の入り口である、玄関の大きな扉の前に立つ、シュナン。

彼が扉を押すと、木製の観音扉は、ギギギーッと音を立てて、左右に開きます。

シュナン少年が、玄関口から中を見ると、館の一階は大広間になっており、そこから螺旋状の階段が、上の階に向かって伸びていました。

そしてー。

その階段の、真ん中ぐらいにある踊り場に、一人の女の子が立っていました。

彼女は、ゆったりとした紺色の質素な服を着ており、螺旋階段の途中から、シュナンを見下ろしていたのでした。

その女の子の髪の毛は、うごめく無数の蛇で出来ており、その顔の上半分は、蛇たちによって覆われていました。

そう、彼女こそは、伝説の怪物メデューサ族の最後の末裔、ラーナ・メデューサだったのです。

メデューサは、上階につながる螺旋階段の途中の踊り場から、シュナンの事を見下ろしていましたが、やがてゆっくりと階段を下り、一階の大広間に降り立ちます。

そして、玄関先にいるシュナンの方に向かって、大広間のカーペットの上を歩いて、近づいていきます。

やがて彼女は、玄関口に佇むシュナンと、少し距離を取って立ち止まり、その上半分を蛇で覆われた顔を、俯かせながら言いました。


「庭に出なさい。そこで話を聞くわ」


メデューサの指示で、再び広い庭に出たシュナンは、そこで彼の後を追って居館を出たメデューサと、正面から対峙し、距離をとって向かい合います。

メデューサの顔は、魔眼を含め、上半分がうごめく蛇の髪で覆われており、その間から鼻や口元が、わずかに見えていました。

そして、蛇の髪の毛の隙間に覗く表情からは、彼女の気持ちを読み取る事は、シュナンには出来ません。

広い庭で正対する二人の間に、重苦しい沈黙の時間が流れました。

やがて、しびれを切らしたのか、シュナンが手に持っている師匠の杖が、声を上げます。


「メデューサよ。私たちは、貴女の協力を得る為に、はるばる旅をして、ここに来たのだ。貴女と、敵対するつもりは無い。どうか、信じて欲しい」


メデューサが、その声を聞いて、びっくりします。


「杖が喋った!!」


今度は、その喋る杖を持つシュナン少年が、メデューサに向かって、話しかけます。


「僕は、シュナンドリック・ドール。西の都から来た魔術師だ。僕の持っている、この杖は、僕の師匠ー。王都に住む、大魔導師レプカール様の意識が封じられた、魔法の杖だ。僕のサポートをしてくれている」


「よろしく」


シュナンが持つ、杖の突起のある円盤状の先端に刻まれた、大きな一つ目が、キラリと光ります。

メデューサは、この奇妙な師弟ー。

魔法の杖と、それを手に持つ、顔に目隠しをした青灰色の髪の魔法使いの少年を、訝しげに見つめます。

もっとも、彼女の目は、髪の毛の蛇によって隠されており、その視線の行き先は、定かではありませんでした。

彼女は冷たい声で、シュナン達に言いました。


「都からやって来た、魔術師の二人組と言うわけね。もっとも一人は、変な杖だけど。それで、わたしに何のご用かしら」


シュナンは真剣な口調で、彼女に答えます。


「僕たちは「黄金の種」を探している。君に、その手助けをして欲しいんだ」


メデューサが、首を傾げます。


「黄金・・・何、それ?」


メデューサの疑問に答える為に、シュナンが手に持っている師匠の杖が、再び声を出しました。


「「黄金の種」とは、それが実れば、大地を黄金に変えるという、伝説の作物の種だ。それを手に入れれば、人類は飢えの苦しみから、永久に解放されると言われている」


シュナンも、師匠の言葉に頷くと、メデューサに向かって、更に強く訴えます。


「今、世界中の人々は、恐ろしい食糧難に直面している。僕の生まれ育った村も、含めてね。毎年、飢え死にする人が後を絶たず、食糧の奪い合いが原因の戦争も、各地で起こっている。「黄金の種」があれば、それらの問題を解決できる。どうか、力を貸してくれ、メデューサ」


しかし、メデューサは、訳がわからないといった様子で、肩をすくめます。


「何で、私が協力しなければいけないの?第一、その「黄金の種」の事なんか、わたし知らないわ」


しかし、シュナンの持つ師匠の杖は、その刻まれた大きな眼を、キラリと光らせて言いました。


「メデューサ、君は、かつて君の先祖が、西方に一大国家を、築き上げていたのを知っているだろう。その国は繁栄を極め、首都にあった大きな宝物殿には、世界中から、さまざまな貴重な宝が集められた。そして古文書によって、その中に「黄金の種」も、含まれている事がわかったのだよ」


更にシュナンが、師匠の言葉に被せる様な口調で、言います。


「既に、その王国は滅びて久しいが、廃墟となった王宮には、かつて集められた様々な宝物が、手付かずのまま、残っていると言う。「黄金の種」も、その中にきっとあるはず」


シュナンは、熱を帯びた声で、懸命にメデューサを説得しようとします。


「僕たちは、これから、その滅びたメデューサ王国のあった場所に、行くつもりだ。君には是非とも、その旅に同行して欲しい。メデューサ一族の、最後の生き残りである君に。僕たちには、王の子孫である、君の助けが必要なんだ。頼む、メデューサ。全ての人類のため、立ち上がってくれ」


しかし、メデューサは、そんなシュナンに対し、冷淡な態度で答えます。


「ふぅん、大体の事は解ったわ。ご先祖様の宝探しを、一緒にしようって訳ね。でも、冗談じゃないわ。なんで、私が、人間を助けなきゃいけないの?」


「君の一族も、かつては人間だった」


シュナンの持つ師匠の杖が、言いました。

その言葉を聞いたメデューサは、肩をすくめます。


「そうね・・・でも、今は、人間に忌み嫌われる怪物。知ってるでしょう?わたしと目を合わせた生き物は、全て石になってしまう。神から受けた、呪いのせいでね。そして、わたしの一族は、故郷の地を追われて、こんな辺境の地に追いやられた。神々の手先となった、人間たちの手によって・・・。わたし達が、これまで、どんなに苦しんできたかわかる?神も人間も、わたしにとっては敵よ。助ける気なんて、かけらも無いわ」


そして、メデューサは片手を挙げて、彼女たちのいる広い庭の一角を、指で指し示しました。

そして、言いました。


「あれを、見なさい」


シュナンは、目隠しで覆われた顔を、指差された地点に向けました。

師匠の杖に刻まれた大きな目も、そちらの方向へ、ギロリと動きます。

そこにはー。

先程、シュナンたちが、屋敷を訪ねる前に、庭の中で見つけた、何かから逃げ出そうとする、恐怖の表情を浮かべた、男の石像がありました。


「この石像は、わたしのお父さんよ」


うごめく蛇で出来た髪を揺らす、メデューサが、低い声で言いました。


[続く]


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ