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邪神モーロックの都 その1

 さて、レダとボボンゴを加えて、4人と一本?になったシュナン一行は、ペガサス族の村を出て山を降り、街道沿いに旅を続けていました。

4人は、それぞれ旅をする為に必要な食糧などを詰め込んだ、自分のサイズに合った袋や荷物入れを各自で持ち、彼ら以外には辿る者もいない荒れ果てた道を、一歩ずつ進んで行きました。

先頭を歩くシュナンは、隣を歩くメデューサを気遣って、声をかけます。

彼はメンバーの中で、おそらく一番体力の無いメデューサを、心配したのでした。

メデューサはシュナンの隣で、フード付きの黒いマントに身を包み、ゆっくりと歩いていました。

彼女の生きた蛇でできた髪は、すっぽりと被ったフードで隠されており、見た目にはその正体を、うかがい知る事は出来ません。

これから、人間の多く住む地域に近づく為、彼女が伝説の怪物である事実は、なんとしても隠す必要がありました。

もし発覚すれば、ただではすみません

だから、シュナンの師匠である魔法の杖の提案でメデューサに、頭や顔のほとんどを隠せる、フード付きの大きなマントを、着せる事にしたのでした。

さて、メデューサは慣れない旅歩きで、かなり疲れていましたが、自分を心配してくれたシュナンに対して、精一杯、気丈に振る舞います。

彼女は、フードで隠された顔を、シュナンの方に向け、微かに微笑んで言いました。


「大丈夫よ、シュナン。全然へいき」


メデューサの返答に、少しホッとする、シュナン。

けれど、そんな彼に、背後からスッと近づく、人影がありました。

それは、ペガサス族の長であり、旅の同行者である、赤髪ポニテの少女レダでした。

シュナンとメデューサの、すぐ後ろを歩いていたレダは、2人の会話に耳を傾けていたのですが、何を思ったか、いきなりシュナンに抱きついてきたのです。

レダは、シュナンの杖を持っていない方の腕に、自分の腕をからめ、しっかりと抱きつきます。


「シュナン君、あたし疲れちゃったっ!ちょっと、寄りかからせて!!」


そのスレンダーな身体に似合わない、豊満な胸を、シュナンの腕に、ギュウギュウ押し付ける、レダ。

彼女は、その身体に、ビキニの様な革皮しか身につけていない為、その肌の感触がダイレクトに、シュナンの腕に伝わります。


「ちょっ、ちょっとレダ。何をー」


目隠しをした顔を、真っ赤にする、シュナン。

彼は、レダの積極的なアピールに、明らかにうろたえていました。

そして、そんな2人の様子を見て、メデューサは怒りを露わにしました。


「ちょっと、レダ!!何のつもり?!」


目深なフードの下から、シュナンにしがみつくレダを睨みつける、メデューサ。

しかしレダは、そんなメデューサをからかう様に、挑発します。


「別にいいでしょ、メデューサ。あなたも疲れてるなら、シュナンにしがみついたら?気持ちいいわよ」


更に、怒りに拍車がかかる、メデューサ。

彼女は、相変わらずフードの中から、レダを睨んでいます。


「ふざけないでっ!!大体あなた、何で、そんな露出度の高い服を、着てるのっ?!ほとんど、裸じゃない!!恥ずかしくないのっ?!」


メデューサは、シュナンの腕に押し付けられた、革製のビキニで覆われた胸を見て、怒りを爆発させます。

だけどレダは、シュナンにしがみついたまま、しれっと言いました。


「そりゃ、すぐに、脱げる様にだけどー」


「不穏すぎるっ!!」


怒る、メデューサ。

レダは、なんだか面白がるように、言葉を続けます。


「メデューサも、あたしがペガサスに変身できる事、知ってるでしょ?このぐらい軽装な方が、脱いだり着たりする手間がはぶけて、変身する時便利なのよ」


メデューサも、ペガサス族の女の子が、変身する際に裸になる事を思い出しましたが、そんな事で彼女の怒りは収まりません。

とうとうメデューサは、シュナンの腕にしがみつくレダに対抗して、その反対側、シュナンの杖を持っている方の腕を持って、自分の方へ引っ張り始めました。

レダも負けじと、しがみついていた腕を、自分の方へ引っ張ります。

左右から自分の腕を、逆方向に引っ張られたシュナンは、思わず悲鳴を上げます。


「ちょっ、痛いよ!肩が外れるっ!!」


しかし、メデューサとレダは、そんなシュナンの声にも耳を貸さず、シュナンの腕を、両側から引っ張り続けます。


「ちょっと、離しなさい!!シュナンが、痛がってるでしょう!!」


「メデューサこそっ!!」


そんな3人の様子を、一番大きな荷物を背負うボボンゴは、後方から呆れた顔で見ていました。

そして、メデューサに引っ張られ、振り回されている方のシュナンの手に握られた師匠の杖は、その円板状の先端に刻まれた大きな眼を、白黒させて言いました。


「やれやれ、先が思いやられるな」


このように、シュナンとメデューサだけだった頃とは違い、なんだか賑やか?に旅を続けていた一行でしたが、やがて彼らは荒野を抜け出して、大勢の人間たちが住む村々が点在する、広大な平原地帯に、足を踏み入れていました。

彼らが歩く道の側には、田畑が広がり、いくつもの家々が軒を連ねて、多くの人々が、この地で暮らしを営んでいるのが見てとれました。

完全に人類の生活圏に入り込んだのは、明らかだったので、シュナン以外は全員が人間ではない一行は、どこか緊張しながら、田園地帯を歩いていました。

さすがに、メデューサとレダも喧嘩はやめて、あたりを警戒し、神妙な面持ちで歩いていました。

しかし、この辺りは、おおらかな気風なのか、それとも地理的に異種族に慣れているのか、人間たちに見られても、大騒ぎされる事はありませんでした。

事実、馬車に乗った農夫や連れ立って歩く村の婦人たち、それに山へ向かう木こりの親子など、何人もの人間にすれ違いましたが、こちらをチラリと見るだけで、シュナンたちに気を留める様子はありません。

もちろん、伝説の怪物であるメデューサの事がばれたら、只ではすまなかったでしょうが。

こうして彼らは、昼間はいくつもの村を歩いて通り過ぎ、夜は近くの林や森で、野宿をして過ごしました。

木々の間に起こした焚き火を囲み、食事やお喋りをした後で寝袋に入り、眠りに就いた彼らは、翌日起きると再び歩き出し、人間の住む国の奥深くへと入って行きました。

そして、ある日の事でした。

田園地帯を抜けた彼らの前に、城壁で囲まれた、巨大な建築物が、その威容を現したのでした。

最初に遠目で見た時も、大きな建物だと思いましたが、だんだんと近づくにつれ、その規模の桁外れな事に、シュナン達は驚きます。

それは一つの町を、そのまますっぽりと石造りの高い壁で囲った構造の、数千人以上の人々が暮らす、巨大な城塞都市だったのです。

その開かれた大きな城門には、大勢の人々が行き交い活気に溢れており、門の前や城壁には、牛の角を象った旗が何本も翻っています。

シュナン一行は、城の正門から少し離れた場所で、しばらくの間、その城の巨大な壁を見上げたり、多くの人や馬車が城門を出入りする、賑やかな様子を眺めていました。

そして、城の威容に圧倒され、言葉も無いシュナンたちに対して、彼の師である、その手に持つ杖が言いました。


「あれが、悪名高いモーロックの都だ。あの街を無事に通り抜けれるかどうかが、我々の旅の成否の鍵となるだろう」


[続く]

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